Sid.95 同族の討伐依頼と卵
ハーピー討伐依頼は受けることにしたが、場合によってはクリッカはセラフィマに預け、俺とルドミラだけで処理することにした。
場合によってはとは、クリッカが同族と看做すか否かだ。
同族と見た場合はセラフィマと一緒に、その場を離れひと足先に町に帰ってもらう。敵と認識するならば勝手に魔法を使うだろう。
「あともうひとつ、依頼があるんです」
「なんだ?」
「ハルピエの卵を収集するんですが」
この国でも帝国であってもハーピーの卵から、生体を得ることはできていない。孵すことができず頓挫しているとか。ゆえに卵を集める必要があると。
俺は既に成功してるからクリッカとして常に傍に居るけどな。しかも野良ハーピーなど比較にもならん程に能力が高い。
まあ、成功したからと言って教える義理は無い。
「そんなに必要なのか?」
「連絡用に必要ですし」
「衛星電話があれば済みますよね」
「はい? なんですって?」
またセラフィマは。
衛星電話なんて、それこそ不可能だろ。まだこの世界には伝声管すら存在しない。糸電話だって発想するに至ってないぞ。だから伝書鳩ならぬ伝書ハーピーを求めるのか。他にも知能が高くなれば偵察任務にも使えるだろうし。
それにしても衛星電話と言ったのはあれか、化け物が跋扈するからインフラを地上に整備しても、破壊されて通話不能になると推測したからか。衛星電話なら地上のインフラに左右されないからな。代わりに建物内では使えないこともある。
「吟遊詩人が想像した世界だ」
「またそれですか」
「セラフィマは未来に思いを馳せてるんだよ」
「はあ」
ああ、そうだ。
「念話器は使えないのか?」
「なんですか、それ」
「知らないのか」
「だから何ですかそれ」
ファーンクヴィストの冒険者タグに埋め込まれた機能。十キロ程度までは念話器から受信が可能だと言うと。
「進んでるんですね」
「改良したらもっといけるんじゃ?」
「見せてください」
ウエストバッグに仕舞い込んだタグを見せる。
「情報が少ないんですね」
「まあ住所も登録したギルドも記載がないし」
「でも、この、えーっと」
「スーペラティブとリーリャユングフルだ」
何それ、になったから説明すると「最高峰じゃないですか。やっぱりトール様は最強なんです」なんて喜んでるし。
なんで町に入る時に見せないのかと言ってるが、国交のない国の冒険者なんて誰が信用するんだっての。
「あれだ、ハルピエだっけか、討伐に行かないのか?」
「あ、そうでした」
依頼書は受け取っており、あとは討伐に向かうだけだそうだ。
「場所は?」
「森です」
「どこの?」
「あっちの」
と言って指さすのは遠くに霞む山脈が見え、その手前にある大森林だった。
徒歩で向かうと結構な距離がありそうだが。
「歩いてどのくらいだ?」
「四時間ですね」
「無駄だな」
「飛ぶんですか?」
その方がいい。ハンググライダーで飛行しても十分程度だ。
と言うことでハンググライダーを組み立て、ゴンドラはクリッカに持ってもらい、重量級のルドミラと重くは無さそうなセラフィマが乗る。
出発できる状態になったら、そのまま上昇し森林へと向かった。
十分で到着し森林の入り口辺りに着地する。
ここからは徒歩でハーピーの巣を目指す。森の中へ分け入ると四方八方に反応があるが、これはお目当てのハーピーではなく別の化け物だ。無視して進むも近付いてくる無謀な化け物どもだな。
「トール様」
「なんだよ」
「みんなミンチです」
「当然だな」
向かってくる奴は殴り倒す。剣も魔法も要らん程度の存在だし。倒すとルドミラに魔石回収を任せ、小物の魔石はクリッカの食事にする。
「小さくてもお金になるんですよ」
「クリッカに食わせた方がいい」
ぶつぶつ文句言ってるが知らんぞ。
二十分程度進むと、ぎゃあぎゃあと品の無い鳴き声が聞こえるわけで。既に軽く反応がありハーピーの巣が近くにあると分かる。
クリッカを見ると魔石食い放題だからか、妙にご機嫌でぴぃぴぃ言いながら、周囲を見ては俺を見るの繰り返しだ。
更に近付くと複数のハーピーが円を描くように飛んでる。
「居たぞ」
「どうするんです?」
飛んでる奴を落とすのは強烈なダウンバーストだ。洞窟内では少しは遠慮して使ったが、ここなら最大威力で叩き落としてやればいい。
なんて考えていたらクリッカが飛び立ち、ハーピーの群れに突っ込んでるし。
そうなると騒がしい。
「敵なんですかね?」
「そうみたいだ」
「同族とは看做さないのですね」
まあ、その可能性はあった。俺が育てたことで自分を人と認識してそうだし。あんな醜い化け物とは思ってないのだろう。
片っ端から蹴落とされるハーピーと、クリッカを攻撃しようとする奴らも居るが、敏捷性の高いクリッカに触れることすらできてない。しかも飛行速度も桁違いだしな。
暫し見ていると飛んでいたハーピーは、全て地面に叩きつけられ、藻掻いてる状態になってるな。
「ルドミラ」
「はい」
「炎の魔法以外で倒せ」
「え、あ、はい」
俺に言われて氷の礫を発生させると、それを加速させてハーピーに打ち込んでるが。
まあ、そこそこの速度だからか、肉がこそげ落ちる程度には威力があるようだ。
だが。
「時間が掛かり過ぎる」
「ですが」
「エルホックで仕留めたらどうだ?」
「あ、はい」
威力が弱過ぎるブリクストじゃ三発しか放てない。エルホックは最初から魔素の消費量が少ないだろ。もっと放てると思うからな。
見ていると杖を構え「エルホック!」なんて言って、弱々しい電撃魔法が放たれる。それでも弱った状態のハーピーゆえ、次々感電死しているようだ。
「と、トールさまぁ」
「なんだよ。まだ十二発しか放ってないぞ」
「なんか、凄く疲れてます」
体内に蓄えた魔素だけでやろうとするから、すぐに疲れるんだがなあ。まあ仕方ないか。後日みっちり教えるしかない。
クリスタに頼めば俺より教え方が上手いかもしれん。
「ブリクスト」
見てるだけと思ったセラフィマが、雷撃魔法を放ったようだ。
それを見たルドミラだが、かなり驚いているようだな。
「なんか、あたしより」
「聖女だからな」
「やっぱり虐殺」
「してないっての」
電気が何かを知っているから威力はそれなりにある。クリスタより上かもしれんな。日常生活で馴染んでいたものだし。
やはり知るのと知らないのでは、これだけ大きな差が出るってことだ。
計五発程放つと地面に落ちたハーピーは全滅した。
クリッカも下りてきて頭を差し出すから、しっかり撫でてやると嬉しそうだな。
「なんか、あたし」
「鍛えてやるから」
「お願いします」
少し落ち込んでるようだ。冒険者ランクは、この国で上から三番目。だが俺はともかくセラフィマにも遠く及ばない、となれば自信喪失か。
「魔石回収してきます」
「頼む」
「トール様は卵を」
巣に向かうと草木のベッドに複数の卵があり、ルドミラが持っていた袋に入れておく。俺のウエストバッグには入らん。
一緒に回収を手伝うセラフィマだが「この世界の魔法使いは、力の使い方を知らないのですね」だそうだ。
「知識の問題だろ。電気を知らないし」
「そうなのですね」
「まあ、今後使えるように鍛えるけど」
卵は全部で八個。実際にはもっとあるのだが、袋に入りきらず残りは放置した。
ひとつ二十ストハで買い取るそうだ。やっすいなあ。まあ、それ程危険がないからだろうけど。
「トール様!」
「なんだよ」
「また食べられてます」
「いいんだよ」
二十三匹分あったが、クリッカが三個ばかり食ったことで二十個に。
ハーピーの魔石はひとつ十二ストハ五十チェチヴァになるそうだ。二十個で四万円ならまあいい方だろう。手間も掛かってないし。これに卵代を足せば日本円で六万五千六百円だ。親に渡す額としては物足りないかもしれんが充分だろ。
回収できなかった卵は潰しておいた。
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