第264話 困った時の③

 俺たちは時間があるとゲームにログインをしてパルプ材を集めた。

 集めた物ははるちゃん経由でタウさんへ、タウさんからゴンちゃんへと回っていっている。


 ゴンちゃんはゲーム内のゴンザエモンでスクロール作りに精を出しているそうだ。

 まずは絶対に必要なテレポートスクロールだ。


 リアルステータスのある人全員に配布出来るくらいのテレポートスクロールを作成するのは大変だ。

 それに作ったからそれで終わりではない。

 スクロールは使うと消える消耗品だ、つまり、作っても作っても無くなっていくのだ。


 それをゴンちゃんひとりで作り続けるのは至難の業だ。

 しかし、今のところ、ゴンザエモン以外にスクロールを作成出来る場所がない。ゴンちゃん以外に作成出来る人も居ない。


 そう、異世界では店員を雇えたのだが、地球のゲームシステムでは店員は居ない。

 ひと店舗につきひとりの店員(店長)だ。

 そしてLAF内の課金店舗でもスクロール屋をやっているのはゴンザエモンだけなのだ。


 LAFの社員であったキングジムにタウさんが相談をした所、課金店舗で稼働しているのはマースだけ、つまりゴンザエモンだけだったそうだ。

 他の鯖でも、課金店舗はかなり以前から寂れて『売り出し中』のままだったり、持ち主が『閉店中』のままログインしない状態だそうだ。


 そして、新たに店舗を購入してスクロール屋をやろうとしても、ゲーム内でのスクロールは出来ても、それがアイテムボックスに入る事は無かったそうだ。



「そうそう奇跡は起こらないと言う事でしょうかね」



 店舗を購入したタウさんも少し残念そうだったが、何となくわかっていたとも言っていた。


 うーん、俺はやはり『ゴンちゃん=勇者』説が頭をチラついてしまうのだ。

 だが、ゴンちゃんが勇者であってもなくてもどっちでもいい。ゴンちゃんがスクロールを作れる、俺たちはそれに協力する、ただそれだけだ、



 タウさんやカンさんも岡山のゴンちゃんの拠点の強化を終わらせて大雪山たいせつざんで落ち着いてきたようだ。

 俺たちは元からあった南棟の大食堂でよく食事を一緒にとる。


 別に予約席でもなんでもないんだが、だいたい決まったテーブルで皆と一緒になる事が多い。

 南棟の大食堂の一角から養老ようろうのバナナ園のガラスドームが見える。マルクのお気に入りの場所だ。


 そこで食事をしていると誰かしらがやってくる。

 その日はタウさんが俺らより前にそこで昼食を摂っていた。そして俺らも食べ始めた頃にはミレさんもやってきた。



「どうしました? 少し元気がないようですが体調でも崩しましたか?」



 特にどこもなんでもないのだが、タウさんには俺が元気がないように見えたのか?

 元気はあるんだ、ゲームのパルプ集めもそこそこ楽しい。先日の千歳ちとせイベントも楽しめた。


 今のところ、火山も地震も津波もない。地球は落ち着いたのか、北海道は…と言うか拠点周りだがゾンビは見かけない。

 大雪山たいせつざんでの生活も落ち着いてきた。


 自分でも何が……ザワザワ、いや、モシャモシャ?んー、どう表現していいかわからん。



「気になってるのに、何が気になるのか自分でもわからん。スマン、きっと大した事じゃない……」


「ふむ。カオるんの気になるは気になりますね」



 でも、俺にも上手く言えないんだよ。てか、本当に気になる事なんてあるんか、俺。気のせいじゃ……。



かおる? 文章でなくてもいいんです。頭に浮かんだ単語を言葉にしてみませんか?」



 えっ?………頭に…。単語でいいん?



「んーと、椿大、サムハラ、牛久、伊勢神宮…………」


「父さん、お参りに行きたいの?」


「んー…………、伊勢は違う。お礼。サムハラ……は静かに」



 そうだ。お伊勢さんはお願いをしない。無事に生きていられる事へのお礼をいう。

 サムハラは、騒がしくしてはいけないと思った。ダメと思った場所ではやったらダメだ。



「やったらダメとは、何を?」


「ん?ああ、お願いごととかだ。サムハラは身を守ってくれるって言ってなかったか? それはいちいち願わなくてもあそこで手を合わせた者を守ってくれている気がする」


「なるほど」


「椿大は凄い。魔法も覚えられるし、アジト登録も出来た」


「あそこは諸願成就でしたね」


「ああ、願い事が計画どおりに上手くいく。魔法書もアジトも、俺、計画していないのに叶えてもらってしまった。自分の力じゃない。お礼参りにも行ったけど、なんか足りない」


「アジトが出来たり魔法書を覚えた事のお礼は、かおるがその事を有り難く思ってる、楽しい嬉しいと思ってるその気持ちが感謝に繋がっていると思いますよ」


「そうかな」


「はい。かおるがお礼参りに行った時に毎日が楽しいですと伝える事が神様にとってのお礼になりませんか?」


「そうですね。神様がたかが人間から何かのお礼を受け取ろうなどと思っているとは思えません。願いを叶えると言うのは、その願いが叶った人間が幸せである事だと思います」



 そっか、そうだよな。たかが人間の分際で、神様がどうのと考えるなんて逆に烏滸がましいよな。



「あ、じゃあさ、俺もっと願い事してもいいのかな」


「カオるん、願いたい事があるのですか?」


「珍しい。かおるの願い。僕らも聞きたいです」



 あ、そんな大した願いじゃないんだけど、皆に見られると言いづらいな。

 そう思ったらタウさんも春ちゃんもキヨカも俺から目を逸らした。マルクはクリっとした目で俺を見つめている。いつもだが。



「あのさ、ステータスのスキル欄のブランク、あれ、どうにかならないかなー。あ、いや、俺はいいよ? もうスキルあるし。でも春ちゃんとか他の人ってずっとブランクなんだよ。………あれ、一生ブランクなんかなぁ」


「ああ、スキル欄ですね」


「ありがとう、かおる。僕らの代わりに心配してくれて」


「あそこなぁ、ステータスのスキル欄は異世界帰りにしか表示されんのかね」



 ミレさんはそう言うが、一般人にリアルステータスが出たりアイテムボックスが使えるあたりからもう、『異世界戻り』は関係ないのではと思ってる。



「まぁねー。確かに職業エルフで、スキルに精霊魔法が無いのも気になるよな」


「だろ? そうだよ、それだ! 俺が引っかかってたやつ。でもちょっと神様にお願いしすぎってのも気になってた」


「カオるんは気にしすぎな気もしますが、確かにそれはゆうご君ともよく話題に上がります。ここまで世の中がファンタジー化をしているのに、スキル発生のキッカケがわからないと」


「けれど僕はサムハラでも椿大でもお願いはしてみました。けれど叶いませんでしたね」



 はるちゃん、椿大でお願いしてたのか。あ、orzの後か?



「あ、じゃあさ、三峯神社とかどうだろか?」



 ミレさんがパソコンで何かを調べながら口にした。

 三峯神社?

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