第134話 北海道から①
俺達はわんわんランドから戻ってきた。タウさんは直ぐに今の情報を洞窟内、第二拠点の病院、地下シェルターのLAF、そして自衛隊のハマヤに伝えた。
北海道のゆうごだが、ネットがほぼ繋がらずスマホやLAINEでの連絡は難しいらしい。
「届くかわかりませんが、繋がった時のためにメールとLAINEに情報を送りました」
「ゲームの方も、ゆうごや北の砂漠のメンバー宛にゲーム内メールを送った。あっちの誰かが運良くログイン出来ればいいんだが」
ミレさんがパソコンを操作していた。
通常の地上の通信はほぼ繋がらない状態なのだが、カンさんのスキルで、洞窟内と病院拠点、それと地下LAFは、通常に近い形でネットが使用できた。
と言っても、地下シェルターのLAF社員や自衛隊のハマヤらとは、リアルステータスで友達登録をしているので、もっぱらそちらでの連絡だ。
洞窟内は、専用チャンネルでまるでテレビのように映像を映している。
さっきのわんわんランドでカンさんがいつの間にかスマホに撮った映像を『洞窟チャンネル』で繰り返し流して注意を促している。
隕石落下に地震に火事に大津波。
火山噴火に火山灰による気温低下。
植物が動き人を襲い、そして今度は犬かよ。
もう、何なんだよ!頑張って生き残ろう生き残ろうとしているのに、試練が多すぎないか?
食糧危機に備えて田畑を、と考えていたのにそれどころの話ではなくなった。
火山灰を何とかしても、あちこちの山が噴火して灰はどんどん押し寄せてくるし、
仮に灰を何とかして田畑を作ったとしても、植物が襲ってきたり犬が襲ってきたり……。
犬が……、ゾンビ犬ってわんわんランドのアイツらだけか?
「さっきのさぁ、カオるんの報連相。死んだ犬の細胞を侵食した集合体って言ってたよな。それって、死んだ後に身体を乗っ取られたって事か?」
「そうでしょうね。餓死なのか火山灰による死なのかは不明ですが、その死体の細胞が侵食されたんだよな?」
「何に侵食されたの? やだわぁ。生きてるうちは侵食されないわよね?」
「犬だけ?」
「えっ?」
「死体を侵食されるのってさ、犬だけか?」
ミレさんが怖い事を言う。皆が無言になった。
「考えたくないですね。あそこにはたまたま犬の屍骸があった。それが何かに侵食された。……では、他の場所は?」
「他の場所って……、それ」
「今の日本は、いや日本に限らず世界のそこら中に動物の遺体は転がっているんじゃないか?野生化したペットや動物園の動物達」
「それと、人間の遺体、もね」
ミレさんが口を濁して言わなかった部分をアネがズバっと口にした。
「……いや、まさかな」
「ゾンビって事? 犬だけじゃなくて人間の?」
「よしてくれ、この大災害に『ゾンビハザード』かよ」
『ゾンビハザード』……ミレさんの口から出たそれは、かなり前に流行ったゲームだ。俺がLAFを始める前に少しだけ齧ったゲームだった。ゾンビが出てくるホラーアクションゲームで、俺には向かないゲームで直ぐにやめてしまった。
やめてくれよ?この現実の世界がアレになるとか、無理無理無理。俺はゲームクリアどころか、序盤でギブアップしたのだ。
「あのゲームって確か、バイオウイルスで怪物を作っている途中で、ウイルスが漏れて町がゾンビだらけになった話だったか?」
「じゃあ今回も誰かがウイルスを作ってばら撒いたの?」
「ばら撒いたのか、うっかり試験管を落っことしたのかは知らんが、これはつまり……何処かの国の仕業か?」
「じゃあ、植物が襲ってきたのもそれが原因?」
「学園研究都市……、地下シェルターにマッドサイエンティストとかが居て、ウイルスの研究をしてた?そして犬で実験を……」
「それは、少し先走りすぎですね。まだ人型のゾンビの目撃はありません。ただ、何かが起こっているのは確かでしょう。とにかく警戒は怠らないように」
ゲームLAFに出てくるゾンビは動きが遅いし、ウィズの魔法で倒せるので得意な魔物だった。
だが、ゾンビハザードと言うゲーム、パソコンではなくゲーム機を使うやつだが、アレは苦手だった。動きが限られているし逃げられない。時にゾンビ犬とかゾンビカラスなど動きの速い奴が苦手だった。
今回わんわんランドに出たゾンビ犬は、まんまゾンビハザードに出てくるヤツっぽかった。
ファイアストームで倒せたが、出てくるたびにファイアストームを放っていたらあっという間にMPが尽きる。そしてENDだ。
俺は握り込んだ自分の手がじわじわと汗ばんでくるのを感じた。
そんな俺の右手の握り拳ごとマルクが握り込んだ。そして左の握り拳はキヨカが包み込んでいた。
「カオるん、洞窟の入口のサモンを1体自分の元に付けてください。入口には申し訳ないですが2体は引き続き警戒用に置いていただけますか?」
タウさんが申し訳なさそうな顔をしている。
「あ、うん。1体をタウさんに?」
「いえ違います。1体はカオるんに常時張り付けてください。万が一外に出かける時は必ずサモン連れで出てください」
あ、俺にか。
「カオるんのワンコもさぁ、1匹だけ洞窟で待機で残り2匹はカオるんに付けた方がいいよー」
アネは俺が呼び寄せたペルペル(セントバーナード)の横っ腹に顔を埋めながら言う。モフりたいと言うので貸したのだ。
「そうですね、本来ウィズはサモンや犬ありきですから」
「まぁでもキヨ姉がカオるんのサモンみたいなもんだけどね」
「失礼な!」
キヨカがアネに怒った顔で抗議をした。そうだぞ、俺のサモン(魔物)扱いはいくら妹でも失礼すぎるぞ。
「私は、カオさんのサモンではありません! 私はカオさんの盾です!」
ブッ……
誰かが吹き出した。……ミレさんか?
「ぼ、僕も! 僕も…僕は、父さんのマントになる!」
ブっ、ハハハハっ
ミレさんがハッキリと吹いて笑い出した。
「清華さんはナイトだから『盾』はともかく、マルク、マントってのは何だよw」
「だって、だってだって何になったらいいか、思いつかないからマントになって父さんの背中を守ろうと思ったの!」
マルクが涙目だ。くっそぅ、ミレさんめ、うちのマルクをイジメるな!
「ありがとう、マルク。ありがとうキヨカ。でもマルクもキヨカも俺の仲間だ。盾でもマントでもない、一緒に助け合う仲間だからな?俺もふたりの盾にもなるしマントにもなる」
そうだ、ゾンビ犬が怖いとビビっている場合ではないな。……が、怖いものは怖い。アイツら動きが速いからな。
サモン1体を俺付けに、ペルペルをマルク付けに、エンカをキヨカ付けにしよう。
「それにしても地上のネットが繋がらないのは痛いですね。情報が入って来ない。それにこの火山灰で自衛隊も今は外には出ないでしょう。ますます外の状態が掴めませんね」
「第二拠点は大丈夫でしょうか……」
「病院か……そうだよな。あそこは地上の建物だからな」
「敷地内に石を設置しましたが、植物は防げても犬は、入ってくるかもしれませんね」
「建物の強度とかどうなんだ? 」
「カンさんのアースドスキンを定期的にかけていますので、壁を突き破って入ってくる事はないと思いますが、ガラスはどうでしょう」
「警備のおっさん達も外に出さない方がいいな」
「そうですね」
俺らは一旦解散となった。マルク達と食堂に入ると避難民達は食堂のテレビに釘付けになっていた。
そうだよな、まさか現実にゾンビが、犬だが、ゾンビが出る世の中になるとは。
「腐ってるとかの問題じゃないよな」
「腐っただけなら目玉はふたつのままだろ」
「妖怪か?
「爺ちゃん、目は百個も無かったよ、せいぜい10個?」
「んじゃあ
「まぁ
避難民は案外明るく会話を繰り広げていた。まぁ地方はゾンビよりも妖怪か。
そう言えばゾンビの海外ドラマとかで流行ったのもあったな……なんだったか、確か……。
「……ワーキングデッド」
「…………カオさん、ウォーキングデッド、だと思います」
キヨカが俺の目を見ずに小声で囁いた。
あれ?そうだっけ?ちょっとした発音の違いだ。気にするな。
「ワーキングデッドですと、働く死体になります」
うおっ、マジか。
俺はキョロキョロ周りを見回した。良かった、聴かれたのはキヨカだけか。
「凄いねぇ。ゾンビでも働き者がいるんだね」
マルクに聞かれてたぁぁぁぁ。
「きょ、今日はカレーか。うむ、美味そうだ」
「カレー好きぃ!トッピングあるよ、父さん」
「おう、そうだな。コロッケか。いいな、コロッケカレーにしよう!」
「うん!コロッケカレー、コロッケカレー!」
よっし、マルクの気を上手く逸らせたぞ。キヨカはクスクスと笑っていた。
『各血盟主、本部へ来られますか。申し訳ありませんがお集まりください』
タウさんからの念話だ。さっき解散したばかりなのにまた何かが起こったのか。
俺はふたりに招集がかかった事を告げた。受け取ったカレーとコロッケはアイテムボックスへしまい、エリアテレポートで本部へと戻った。
ミレさんも食事中だったのか口をモゴモゴさせていた。アネはシャワーを浴びてたのか濡れた髪をタオルで巻き上げていた。そして少しプンプンしている。
カンさんは席についていた。
盟主の招集だが俺はいつもマルクとキヨカ付きを許されている。何故かは考えない。俺もカンさんの横に座った。
タウさんは全員が座ったのを確認してからパソコンを操作している。
「ゆうごと連絡がつきました。こちらからのゾンビ犬のメールとは入れ違いのようです。
ゆうごから、
珍しいな。よっぽどの事がない限り連絡してこないゆうごなのに。
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