第113話 植物の活発化③
俺らの洞窟拠点で老人が襲われた。
予定の3倍の数の救援救助活動をハイペースで終わらせて、そろそろ拠点へ戻ろうかとしていた時、その一報が入ったのだ。
『
カラマツにカラマレタ……?
何かの暗号か?
それともダジャレ……洞窟内の
『松ぼっくりを投げてきたそうです』
拠点に居たタウさんからの連絡だ。
松ぼっくりは時期的にまだ早いだろ? ん?松ぼっくりの季節っていつだっけか?秋……から冬では?
まぁ、この気温低下で冬と思った松が、ボックリを……投げ……?
…………上から落ちてきただけでは?
横腹と、顔に来たのを避けた腕にも酷いアザが出来た?服をガッチリと着込んでいたのでこの程度ですんだと。
何でまた洞窟の外に出たんだ。
自宅に荷物を取りに行こうと洞窟の崖に造られた階段を降りていた時にぶつけられた?
『全砂漠、帰還』
タウさんからの緊急帰還命令に全チームが洞窟本部に集まった。
「この拠点での被害者は一名ですが、実はネットで似たような書き込みが散見されます」
「松ぼっくりの攻撃?」
「それがどうも松だけではないようなんです」
ネットに上がる情報には植物の種類までは書き込まれていない。だがどれも「植物に襲われた」という点は共通しているそうだ。
「どう言う事ですかね」
「世界には色々な植物がありますが、日本でそんなに活発な動きをする植物の話は聞いた事ないわ」
「そうですね。ですがまぁ無くは無いですよね。刺激をすると種を飛ばすとか、そう言うのをテレビで観たことがあります」
「触るとお辞儀するのもあるよな?」
「でも松は……。松ぼっくりを飛ばすとか聞いた事はないわ」
「さっき皆さんが戻る前にカンさんと現場に行ってきました」
現場は、洞窟を出た直ぐの階段の所だそうだ。そんな近くにボックリを投げる松が……。
「けれど、松は見当たらなかったんです」
「だけど、落ちていました。これ……」
カンさんがテーブルに置いた松ぼっくり、みっつ。
見た目は普通の松ぼっくりだ。だが、デカイな。ヤシの実くらいのサイズだ。これが当たったらさぞかし痛いだろう。頭に直撃したら死ぬんじゃないか?
気がつくと皆がこちらを見ていた。
「カオるん、松にライトやヒールを当てていないですよね?マルク君も、植物に魔法を当てましたか?」
俺とマルクはブンブンと頭を横に振った。そうか、魔法で植物をデカく育てたからな、俺ら、犯人と思われてる?
「畑にはやったけど、松とか森にはやってないぞ?」
「僕もやってない」
マルクがちょっと涙目になってる。俺は慌ててマルクを背中に隠した。
「すみません、疑っているとか責めるつもりではありません。一応事実確認をしただけです。それに畑に魔法をかけてもらうのはこちらからお願いをした事です」
「タウさん、松が無くなってた事やネットでも移動した目撃情報もあった。なんとなくカオるんの魔法とは違う気がする」
「そうですね。カオるん、ムゥナの家の裏庭の植物は大きくなっただけですか? 植物が移動したりは?」
「…………いや。移動はしてない。大きくなったのと、カボチャが美味くなったのと、薬草の効き目が良くなったくらいか」
「いや、くらいってカオるん、それ充分じゃ…」
「ふむ、やはり少し違う気がします」
「ねーねー、別の魔法の仕業とかは?」
アネさんが突拍子もない事を言うのは割といつもの事で皆はスルーしがちだが、今回はタウさんを含めて皆がアネに注目した。
「別の魔法の仕業とは?」
「だってLAF以外の異世界帰還者もいるんでしょ? うちらの知らないゲームの転移者で、そいつらのゲームの魔法とかって事あるんじゃない?うちらの知らない魔法」
「確かに、無くもない、と言うかありそうじゃないか。タウさん」
なるほど最もだ。つい最近俺たちはファンタジーとは程遠い医者のゲームの異世界転移者に会ったばかりだ。
こんな近場で見つかるくらいだ。もっと他のゲームの異世界転移者がいてもおかしくない。
そしてそいつらはどんなスキル持っているのかもわからない。
「とりあえずもう少し情報が集まるまで、皆さん警戒を解かない様にお願いします。それと洞窟の避難民には暫く外出を禁止します。どうしても外出が必要の場合はギルドに依頼を出してもらい、我々の誰かが警護をするように」
「誰か…とは?」
「ミレさん、アネさん、カオるんの3人のどなたかにお願いします。私とカンさんは引き続き病院拠点の作業を優先で進めますので」
「そっか。で、救援活動はどうする? それもストップか?」
「いえ、そちらは引き続き行ってください。と言うより今回の件で救助依頼が増えそうですね」
「そうだな。ジムさんにここに残ってもらって、ネット情報から植物系を抜き出してもらったらどうだ?」
ジム?……ああ、LAFのキングジムか。タウさんの砂漠だが今はミレさんのチームと一緒に救助活動を行っていたか。
「そうですね。慣れている
「おう。男手は俺と高橋ちゃんがいるし、あとは
高橋ちゃん?…………ああ、したたか、したかた、何かそんなゲーム名の人だな。LAFの社員も全員本名にしてくれよ!わかりづれぇぇぇ。
「では、私とカンさんと
「おうよ」「はい」「おぅ」
皆の返事が被る。否の手を上げる者はいない。
「それと、装備着用でお願いします」
ん?装備?
「あの、装備とは先日いただいたレザーアーマーの事でしょうか」
「はい、ですが異世界帰り組の皆さんはゲームのそれぞれの職の最高の装備を身につけてもらいたい」
「ああ、植物の攻撃から身を守るためか」
なるほど。しかし、いや、タウさんの心配は解るが、あの装備を身に付けるのか?この地球で?
そう思ったのは俺だけでは無かったようだ。
「タウさん……地球であの格好は……ちょっと恥ずかしいぞ?」
「かなり恥ずかしいですね」
「あっ!あの時のエルフ!」
「あの時のエルフの衣装ね」
「ああ、あの時の」
カンさんとミレさんはしまった!と言う顔になった。が、その家族である女性陣は思い出したように笑顔になった。
「ええと、そこまで必要でしょうか。ミスリルシャツだけで十分な気もしますが」
「気持ちは十分わかりますが、敵の正体が不明なうちは最大限の防御を心がけたい」
そう言うタウさんも心なしか顔が赤くなっている?娘さんらがニヤニヤしている。タウさんも見られたのか。
「しかし、しかしですね、あの格好は目立ちますね」
珍しくカンさんが抵抗をしている。タウさんも揺れているようだ。しかし皆の安全を秤にかけると、あのゲームから抜け出た格好の方が重いようだった。
「解っています。私もしなくて良いなら普通の格好でいたい」
「でもさ、俺らは兎も角、家族の分はどーする?皮シリーズしかないぞ?」
「そうですね……チームでの活動を中止しますか」
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