第106話 ファンタジーだけじゃない③
-------------(カオ視点)-------------
洞窟に驚くふたりをまずは診療所へ連れて行き看護師さんへと預けた。簡単な診察の後シャワー室へ突っ込まれたようだ。そこで男性の看護師に全身をしっかりと洗われたようだ。
外で待っていたマルクから『楽しそぅ、僕も入りたい』と、念話が来た。いや、君は毎日お風呂に入ってるだろう。今度一緒に入って背中を流してやるか。
マルクがふたりに付き添って待機している間に、キヨカは本部ルームで避難所の連絡先を調べていた。俺は医者と話して、栄養失調ではあるが入院の必要は無いと言われたので彼らの個室となる空き部屋の手続きを行った。
空き部屋の管理は、村の住民の家族で不動産会社に勤務していた
「兄弟ふたりかぁ、あまり大きくない部屋の方が良さそうですね」
「そうなのか?」
「ええ、こんな災害時ですから、狭い方が安心する人も多いようですよ」
「あ、でももしもアイツらの両親が見つかったら一緒に住むだろう」
「でしたら、少し大きめの洞窟の中に穴が二つ分かれている部屋はどうです?真ん中がリビング的で両側が寝室。こじんまりしているし結構良い部屋ですよ? 勿論、ユニットバス・トイレ付き、それとミニキッチンもあります」
「おっ、いいな。それを頼む」
俺ひとりだと迷うと思ったのか、
…………ありがとう。ひとりだと辿り着けなかった。洞窟内迷子は恥ずかしいのだ。何度かやった。
ちゃんと入口に部屋番号も振ってある。『Dーハー301』だ。念話でマルクとキヨカに伝えた。
マンションの部屋から持ってきた幾つかの家具やらを真ん中の部屋に置いておいた。
キヨカは布団も準備して部屋へ来たので、一方の個室へと布団を運んだ。多少の着替えもある。
「あのね、今おっきな洗濯機で洗ってるから、乾燥が終わったら届けるね」
マルクはあの部屋から持ってきた大量の洗濯物も既に洗濯中のようだった。
俺はデキタ仲間に恵まれたな。感謝だ。そしてちょっとだけ自分が不甲斐なく感じた。せめて洞窟内では迷わなくなりたいものだ。
「お母さんとお父さんの件は出来るだけ早くに調べます。
「僕にも電話してね」
そう言ってマルクも電話番号を書いたメモを渡していた。
陸緒達が何か言いたげに俺を見た。
「あー……、俺はスマホが苦手なんだ。俺に用がある時はマルクかキヨカに伝言をしてくれ」
申し訳ない。鳴っても気が付かないからな。(断言)
さて、ふたりの安全を確保出来た事だし別室に戻った俺たちは先ずはヨーカタウン
大きな避難所がひとつと、小さい避難所が3つだ。大きい方は調べて折り返すとの事。小さい方も詳しい者が出ているとかで折り返しになった。
「電話を待つ間に、ちょっと
「いえ、行くなら皆で行きましょう」
「一緒に行くからね!」
「は……い」
けど、待つ時間が勿体無いな。避難所も暇じゃないし人を探すのも時間はそれなりにかかるだろう。別に出先でもスマホは通じるよな?
通じるよ…な?
折角折り返し掛けてくれた時に電話が繋がらないにも困るな。どうすべきか。不安になりふたりにソレを話した。
「あの、ギルドに緊急依頼を出しませんか?」
おお、なるほど。
洞窟内ではギルドと呼ばれている職業案内所がある。色々なバイトなどの募集が出ていたりする。
『緊急依頼』はその名の通り、急ぎの人員募集だ。『緊急依頼』が発生すると洞窟内にお知らせのメロディが流れるのだ。そして手元にタブレットがある者は依頼を確認出来る。
今のところ依頼を受けるにはギルド窓口まで来てもらっているが、そのうちタブレットでの予約も出来るようにするらしい。だが高齢者は窓口まで来るだろう。俺も行く。窓口受付はなくさないでほしい。
俺たちはギルドで『スマホの電話番』を緊急依頼で出した。直ぐに手の空いていた者が数名集まった。その中から3名に俺らのスマホを預けて、掛かってきた内容のメモ、知りたい内容などを伝えた。
3人は俺たちが戻るまで、ギルドの休憩所でスマホの電話番をしてくれる事になった。俺たちはスマホを預けて
相変わらず都内の水は引いていない。だが水位は下がっている?
あの日、保田生命にスワンボートで漕ぎ着けて、11階の窓から中へと入った。そう、水は11階ギリギリまで来ていたのだ。
それが今テレポートした11階から外を覗くと、そこから下に4階分くらいは窓が見えている。
と言う事は水位は6、7階あたりまで下がったと言う事か。
あちこちで水から色々な物が突き出している。流されて積み重なった色々な物と、者。
マルクが俺の手をギュッと握った。慌ててマルクを振り返ると、そこには心配そうに俺を見るマルクが居た。
「カオさん、行きましょうか」
キヨカに促されて、フロアの奥に進む。
「マップに黄色い点は映りません。マップは各フロアごとなんですよね? 階段を探して上へ上がりましょうか」
非常階段を見つけてワンフロアずつ上がっていく。どのフロアもマップには何も映らない。
火山噴火から
残った人はどうしただろう。ここから動けず息絶えたのだろうか。
……俺に気づかれずに、俺に見捨てられた人。
「カオさん、カオさんは沢山の人を救ったのですよ。神さまではないのですからひとり残らずなんてありえませんよ。神さまだってあの災害から全人類を救うのは無理だったのですから」
ビックリした。キヨカに心を読まれた?それとマルクが俺の腰にぎゅうぎゅうと抱きついていた。
ふぅ、あかんあかん、直ぐに後ろ向きになるな。弱い俺。
全フロア、屋上までをチェックで生きている人は発見出来なかった。
「んじゃ、埼玉の……あそこに飛ぶぞ?」
エリアテレポートで埼玉の
近くの無人だった学校の校舎や体育館へと眠らせた人達を運んだっけ。
「この辺りの避難所を隈無く探しましょう」
キヨカは避難所をマークした地図を広げた。マルクと一緒に覗き込む。ポーズではない、ちゃんと俺も把握するぞ?
…………把握したいが、さっぱりわからん。その地図の、今俺たちはどこにいるの?
ひとつ目の避難所での事だ。
「
「
「あの……?俺ですが、どちら様で?」
「
「はい」
「
「はい」
「
「はいぃっ!そうです、私が、
「す、すみません」
ビックリしたぁ。こんなに早く見つかると思わなかったのでしつこく聞いちゃったぜ。だって、1軒目の避難所だぜ?
「あの? どちら様ですかっ!」
「あ、すんません。あの俺ら、
「陸緒!洋海ぃ! 生きてるのか!生きて…うぅ」
親父さんが地面に崩れて泣き出した。が、俺の足を掴んで離さない。避難所内を分かれて探しているマルクとキヨカに念話で知らせたので、ふたりは直ぐに戻ってきた。
陸緒達は自宅で頑張って何とか生き延びてきた事、母親がまだ不明な事、現在はうちの避難所に居る事を説明した。
親父さんからは、あの大災害後に生き延びて職場ビルから動けずにいたが、ある日気を失い、気が付いたらここ埼玉県のどこかの学校に居たそうだ。(スマン、犯人は俺だ)
それから周りの人達と避難所を探して、自分は運良く最初の避難所に入れてもらえたと。
人数が多かったので、多くは別の避難所へと分かれていったそうだ。
「ここで何とか過ごしていましたが、自宅は
そんな話をしている最中にキヨカのバッグの中からスマホが鳴った。キヨカのスマホはギルドに置いて来たよな?
「連絡用にもう一台持っているんです。ちょっと待ってください?」
キヨカがスマホに返事をしたり頭を下げたりしていた。驚いた顔をしていたが恐怖や悲しい顔ではなかったので、何か良い知らせだろうか?
「
「何ですって! 妻も無事なんですね!」
俺の足にしがみついていた親父さんは、今度はキヨカに攻め寄ったが、キヨカが後ろに飛び退いたので親父さんは抱きつく相手を失い、振り返りまた俺に抱きついた。
マルクが俺から親父さんを引き剥がそうとしたが凄い力でしがみついている。痛いぞ、離してぇ。
「無事……と言って良いのかわかりませんが、生きておられます。避難所の近くの病院に入られているそうです。足を骨折されて動けなかったそうです」
「おぉぉ、良かった。骨折。生きていてくれれば十分です」
親父さんがさらにキツく俺にしがみついた。うん、まぁ、いいか。こう言う時は誰かと分かち合いたいよな。剥がすのを諦めたマルクは自分もしがみつく事にしたようで、俺の背中にしがみついた。(何でやねん)
キヨカ?そのワキワキした手は、剥がそうとしてるんだよね?まさか君もしがみつこうとかしてないよな?
『父さん、どうする?馬車で帰ると時間かかるね』
『そうだな、眠らせるか』
『その前に避難所に知らせないと、急に居なくなると心配させますから』
『そうだな』
親父さんが落ち着くのを待ち、俺らの避難所へ連れていく話をした。この避難所の人に移動する旨を話してもらうのと、荷物をとって来てもらう。
そして戻ってきた森市の親父さんを人気のない場所へと連れて行き、眠らせて洞窟拠点へと運んだ。
陸緒達にも知らせてもらったので、診療所で親父さんが眠ってる横にふたりはピタリとくっついていた。(スマン、ミストスリープを『小』にするのを忘れたのでグッスリ眠ってる。明日まで起きないぞ?)
その時に母親の話もした。
「お母さんの足の状態を見て、連れて帰れるようなら連れてきますね。ただお母さんはこの避難所でも暫くは診療所に入院になるかもしれませんね」
「……グゥ……」(←父親)
「ありがとう、お姉さん」
「あり……とう、ございます、あの、ホントにどうも、ありがとございました」
親父さんは寝ていたが弟は本当に嬉しそうに、兄貴は少し照れながらお礼を口にした。うん、高校生くらいは照れて感謝なぞ口に出来ない年齢だよな。それでもちゃんと言えて偉いぞ。
ギルドの緊急依頼で預けていたスマホを回収した。依頼を受けた人達は勿論洞窟内で使用できるコインを貰って嬉しそうだった。依頼達成料だ。
「ビールと替えるぞ」
「うちはお菓子欲しいと言われてるからなぁ。でも一本くらいいいかな、ビール」
「うちは貯めて、個室を増やして孫一家も呼びたいんだよなぁ」
コインの使い道は人それぞれだな。
遅くなったが昼食を摂ってから、筑波山南の近くの避難所へと向かった。
小さい避難所と聞いていたが、本当に小さい避難所だった。鉄筋コンクリートの三階建て、町内会の集会センターを避難所にしたようだ。
近所には普通に住んでいる民家もパラパラとあったので、一人暮らしの老人か帰宅困難者のみが使用しているようだ。
うちの村にもあったな。最初の避難所だったところ。あそこよりは大きいが、聞けば20人弱の避難民が居るそうだ。
食糧も何とか周りからのフォローでやっているらしい。
そして避難所には個人病院が隣接していた。その病院に足を骨折した森市由紀子さんが入院していた。
個人病院なので、元から入院施設などはない、処置室はあるが手術室もない『内科・神経科・リハビリ科』と言う看板が立っていた。
病院へ入り中にいた看護師さんに話をすると、直ぐに森市さんの元に案内してくれた。
1階は待合室、診察室、レントゲン室、処置室、リハビリ室、トイレ。
2階は、住み込みの看護師やリハビリ士の部屋や、キッチンとバストイレ。それと処置後に具合が優れない人の休憩所(ベッド)があるそうだ。
森市由紀子さんはその休憩所に寝泊まりをさせてもらっていたそうだ。1階から2階へは小さなエレベーターがある。松葉杖をつきながら何とか自力で移動は出来るようになったそうだ。
由紀子さんは、火山噴火前に何とか徒歩で帰ろうとしたそうだ。家に残した子供達が気がかりだったのだ。
それが途中で火山噴火が始まり、結局引き返す事にした。しかし戻る途中、積もる火山灰で足元が見えずに崖だか坂だかを転げ落ちてしまい脛と股関節を骨折してしまった。
たまたま通りがかった人がいて助けてもらえたそうだ。そのまま転がっていたら火山灰に埋もれてしまう所だった。
「それは、とても運が良かったですね」
「はい。本当に感謝しています。
何だろう……。うん、優しそうな医者だ。
「
「え、ええ」
何だろう……。
『カオさん?どうしたんですか?』
『いや……』
『父さん?』
優しそうな若い男の先生……なんだ。
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