第19話 マルク異世界(地球)で初めての地震体験

 東京は丸の内にあるホテルMAMAN東京の47階、フロントへ続く廊下の隅でマルクは膝を抱えてその時を待っていた。

 廊下を通りかかったホテルマンが、膝を抱えた少年(マルク)を見つけて話しかけようと近づいた、その時。



ガガガガッ!バリバリガッシャーン!グラグラグラ



 衝撃がホテルを襲った。

 廊下の壁に背をもたれて体育座りをしていたマルクは、壁に背を押されたようにゴロゴロと転がり、廊下の反対側まで飛ばされ、そちら側の壁につかり元いた方へと転がった。




----------(マルク視点)----------



 ビックリした! 今の、風魔法? 建物の中なのに壁におされた! か、かべ魔法? 受け身とれて良かった。

 父さんとギルドの訓練で習ったやつ、力を受け流すとか、変な転び方をして大怪我しない訓練、あの時に投げられたみたいだった。



「君! 大丈夫か?」



 廊下の真ん中で膝を抱えて次の攻撃に備えていたら、知らない男の人に声をかけられた。さっきの大きな窓の部屋にいた人達と似た服を着ている。この神殿の正装かな。



「君?……あーゆーおけ?」



 さっき外でもお姉さん達に『オケ』って言われた。何だろう?オケって。……ゆ、おけ……湯、桶?お風呂の事???



「あの、大丈夫です」


「日本語! 日本語わかる? 怪我はない?」


「はい。転がって壁にぶつかっただけなので」


「ぶつかった? どこ? 見せて」



 その人は僕の頭や背中を触った。こそばゆくて身体を捻ったら慌てて両手を広げて持ち上げて見せた。



「勝手に触ってごめんな。おでこが少し腫れているな。立てる? 手や足で痛いところはある?」



 まだ床はグラグラと揺れているのに、このお兄さんは平気で立っていた。僕はお兄さんに支えられて立ち上がる。



「痛いとこはないです。ここだけ…」



 廊下の壁にぶつけたオデコをさすった。お兄さんは何処どこかから手のひらサイズの四角い板を取り出して耳に当ててた。あれ、さっき僕の足元にも転がってた父さん達が『スマホ』って言ってたやつだ。


 父さんの国の人は全員スマホを持っているって、前にキックおじさんが言ってた。



「ダメだ、……医務室に通じない、とりあえずフロントへ行くか、歩けそうなら一緒に行こう」



 そう言って、さっきのガラスの部屋へ続く廊下を進んだ。まだ揺れているのに、お兄さんはまるで平地を歩くごとく進んでいく。

 父さんの国の人って凄いなぁ。僕も色々鍛えなくちゃ!




----------(ホテルマン視点)----------



 47階の廊下をフロントへ向かっている時に、突然凄い衝撃に襲われた。一瞬、首都直下型大地震でも起きたのかと思ったが、下からの突き上げではなく、どちらかと言うと横から突き飛ばされたに近い衝撃、それから建物が左右に大きく揺れ出した。


 ホテル内にアラートが鳴り響く。まさか近くにミサイルでも落ちたのかと頭によぎった時に思い出した。落ちたのはミサイルではなく隕石では?最近、隕石落下の話題でネットは騒がしかった。


 廊下の先で転がっている少年が目に入り、我に返った。衝撃の原因より、今は目の前の事が優先だ。非常時の顧客の避難。

 薄い赤茶色の巻き毛にグリーンの瞳、このホテルは海外からのお客さまが殆どだ。宿泊客のお子様だろうか?


 揺れる廊下をバランスを保ちながら歩いて近づき、怪我の確認をした。どうやらおでこにコブが出来ただけのようだが、頭を打っていたら怖い。医務室へとスマホから内線を押すが繋がらない。


 ここに居ても仕方がないので、少年を連れてフロントへ行く事にした。



 フロントへ入るガラスの扉は粉々だ。少年を残して先へ進むと、そこに広がる光景に愕然とした。


 三階分くらいの高さがある天井と、その高さまでの一面のガラス窓、皇居は勿論、冬は富士山がハッキリ見えるロケーションが売りのフロントの前は、大変な惨状になっていた。


 かなりの厚さのガラスは割れてはいなかったがヒビが入り、重厚なテーブルやソファーは、凪飛ばされていた。飾られていた花器も粉々だ。

 平日の午前10時前、チェックアウトの波は越えていたようで、フロント待ちの客が少なかったのは幸いだった。


 医務室は相変わらず繋がらない。ホテル内で何かがあっても直接警察や消防には連絡をしてはいけない規則だ。まずは関係部署に連絡を入れるがこちらも通じない。


 フロントの内側からふたり、頭を出したのが見えた。



「マネージャー! 無事ですか!」



 頭から血を流していたが、しっかりとした顔つきでフロントの中からフロントマネージャーの金城かなしろさんが出てきた。後ろからは弓塚ゆみつかさんが血のにじむ腕を押さえて現れた。



「東条くん、お客さまを……確認してくれ。ふた家族、ラウンジに座っていらしたはずだ」



「あの、大丈夫……ですか?僕に手伝える事があれば」



 フロントのあまりの惨状に廊下に待たせていた少年がすぐ後ろまで来ていたのに気が付かなかった。



「大丈夫、危険ですから、こちらでお待ちください」


 近くにひっくり返っていた椅子を起こして少年を座らせ、テーブルと椅子が山になっている窓の方へ、お客さまを助けに行った。

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