第3話:キャロルの事情

 キャロルの言い分はこうだ。


 小さな頃から二歳年上のシェリルと比べられて育った。

 家庭教師から

「お姉様を見習いなさい」

 と言われ続け、努力をやめた。

 なんでも姉が先に与えられる。

 ドレスもアクセサリーも。羨ましくて妬ましくてたまらなかった。

 十歳を過ぎれば、先に娘らしくなっていく姉への賞賛の言葉を聞いて羨んだ。


 歳の差を考えれば当然なのだが、キャロルにとっては理不尽極まりないことだったようだ。

 努力を怠らなければ、勉学は順当に二年後に到達するし、待てば与えられるものなのだが、キャロルにとっては「今」目の前で行われていることが重要だった。


 国王と王妃への謁見の後のデビュタントの夜会で、キャロルはシェリルの婚約者のエルネストに言った。

「シェリルではなくあたしと結婚してください」

 傍にはパートナーのディーン・セイリンがいたし、他のデビュタントの娘やそのパートナーや家族がいた。もちろんキャロルの家族もシェリルもいた。

 エルネストが

「冗談が過ぎる」

 と窘めると、キャロルは堂々と言った。

「冗談じゃないわ。あなたが好きなの。シェリルよりあたしの方が絶対にあなたのことを好きだし、あたしは若いからいいでしょ。結婚しましょう」


 呆然とした一同の前で、エルネストは言い切った。

「私はシェリルを愛している。他の誰かとは結婚しない。君はマナーさえ満足に守れないのか」


 そこでようやく呪縛が解けたように母がキャロルの頬を打った。

「恥を知りなさい!」

 そして父は即座にキャロルの腕を掴み、会場を後にして馬車へ放り込んだ。

 残った家族一同は、セイリン伯爵家に「詫びは後ほど」と告げて、帰宅の途についた。


 しかし翌日、セイリン伯爵家から婚約破棄の申し出があり、こちら有責で受け入れるしかなかった。


 キャロルは両親から厳しく叱責されたが、ツンと横を向いて反省の色を見せなかった。


 結局キャロルはシェリルの結婚式が済むまで半年以上、自室で謹慎となった。

 その間、シェリルやセシリーやコンラッドが何度も諭したり話を聞いたりしたが、キャロルは頑として口を開かなかった。


 シェリルとエルネストの結婚式が済むと—キャロルは出席を許されず自室に軟禁されていた—、父はキャロルの嫁ぎ先を必死に探した。

 やっと受け入れてくれたのがリプセット子爵家で、当時抱えていた負債を肩代わりすることが条件だった。


 醜聞と負債の肩代わり。

 リプセット子爵家ではそれで持ち直して、少しずつ負債をアンダーン伯爵家へ返済して、今ではこちらの方の分が悪い。

 それなのにキャロルはブランドン・リプセットを蔑ろにしている。


 その後の五年間、醜聞と謹慎を繰り返すキャロルなのだ。


「あたしが悪いんじゃないわ。エルネストと結婚できなかったせいよ!シェリルのせい!セシリーもあたしをばかにしているんでしょう!?」


 アンダーン伯爵家ではキャロルを蔑ろにした覚えはない。むしろ末っ子だからと甘やかしたことを後悔している。


 確かに勉学やマナーの点でシェリルに劣っていたが、年の差を考慮して甘めに見ていた。年頃になればどうにかなるだろうと。


 今、キャロルの様子を改めてみると、侍女の方が淑女然としている有様だ。

 自分を「あたし」と子供っぽい呼称をつかう点は言うまでもない。


 それにしても、そこまでキャロルがシェリルやセシリーに劣等感を持っていたとは。

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