1-02b 学園長の見送り
わけがわからず動揺している
学園長の頬には傷があり、年齢を重ねた者特有の落ち着きと
「ようこそ、キリ。あなたで最後です。さあ、この台座にその辞典を乗せて。ああ、ホルダーごとで構いませんよ」
さあ早く、と後ろで先程の女性が霧を急かす。
霧はおたおたしながらも、言われるがままに目の前の優美な台座――本を置くための傾斜がついた、台座上部に辞典を置いてみた。その途端、ピカッと台座と辞典が眩しい光を放つ。霧は驚いて、ビクッと体を震わせた。
(え、え、何今の?! なんの仕掛け?! てか、どっかで見たことある、これ……どこだっけ?! それに何でみんな、あたしを知ってる感じなんだ?!)
挙動不審の霧とは対照的に、学園長は落ち着いた雰囲気を崩さず静かに言った。
「うむ、いいですよ。辞典が認識されました。さあ、辞典を取ってホルダーを肩に掛けて。ケープのホルダー通しに固定しておくといいですよ、今日は風が強い。飛ばされないように」
霧は素直に指示に従い、辞典をホルダーごと肩にかけると、ケープに付いているホルダー通しに固定した。そうして不安げに学園長を見つめる。指示をもらえなければ、次にどうすればいいのかまったく分からない。その霧の気持ちを見透かしたように、彼はポンと霧の肩に優しく手を置いて言った。
「大丈夫、何も心配いりませんよ。リューエストも先に行きました。下で合流できるでしょう」
(リューエスト?! ……え……ちょ、何なのさっきから、この既視感?!)
霧が戸惑いながら眉をしかめていると、後ろから先程の女性が困ったように言った。
「あら、やっぱりあの子ったら先に行ってしまったのね。んもう、仕方のない子。妹を置いていくなんて……」
妹? 誰のことかな?――と、霧が首を傾げていると、学園長は「では旅立ちなさい」と言いながら霧の背中をそっと押して、扉の外へと誘導した。そして晴れ晴れした表情で、霧にこう告げる。
「良い入学旅行を!」
サッと右手を外へと振り、学園長が扉の外へと霧を誘う。
「あっ……! ああっ……っっ!!」
霧は息を呑んだ。
強い風が頬をなぶってゆく。
振り返り見上げると、大空を背景に西洋の古城を思わせる優美な建物がそびえている。霧は今、その城から出てきたのだ。
「こ、こ、これ、知ってる、この、城……っ!」
そう、霧はこの光景を知っていた。
「う、う、嘘でしょ……、これ……ああ、ああっ!! ここはっ……『ククリコ・アーキベラゴ』!! 魔法士たちの、空飛ぶ古城学園!!」
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