第9話


 神様は、なかなか冥土へ連れて行ってはくれない。いつか、いつかと、その時を待っていた。自分からは連絡する術を失った、娘。妻はとっくに神様からいただいた招待状で、旅立った。だから、いつか自分が死んだ時、さまざまなことを押し付けられるのだろう、娘。

 生きているうちに、会えるはずなどないと、思っていた。嫌い嫌われ、すれ違い。会いたいと甘えることなど、許されないと、思っていた。少しも近づくことなく、ただ、時が過ぎた。遺産をたんまり残せたらよかったのに。そんなことはできず、ただ、自分の亡骸を燃やせる程度の、微々たる金しか持っていない、クズ野郎。どの面下げて、娘に会おう。面がないから、仮に会えることになったとしても、会いに行けない。そう、意地を張ったりも、していた。

 タカコ、タカコ……元気だったか?

 今は、あの頃と違って、幸せか?

 ガミガミうるせぇ親父がいないだけで、気が楽ってもんだろう。

 ああ、こんなことなら、あの子にクマを、やらなきゃよかった。いいや、あれは、あの子にやって、よかったか。きっと、お前はもう大人になって、俺とは違って、あのクマに執着しちゃあ、いねぇだろうから。

 おお、神様。今の今まで、冥土行きを遅らせてくれて、ありがとう。おかげで、会えたよ、会いたい人に。ただ、欲を言うなら、もっと、幸せな再会が、よかったよ。

 ああ、神様。ずっと、娘に会いたいと願い続けてきたのなら、この瞬間は、反転したのでしょうか。永年の願いを、俺は間違えたのでしょうか?

 神よ……神よ――。



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