『声の持ち腐れ』

 やっと迎えた休日。爆睡してやろうかと思ったが、2時に目覚める。

 二度寝でもするか…と思ったが。妙に目が冴えちまって眠れそうにない。

 仕方がないから、起きてメシ食って、エナドリ飲んで、パソコンに向かっている訳さ。

 

 昨日は気楽なバイト。しかし、案外に忙しかった。イベントがあったのだ。

 そのせいか、バイトも2人体制。相方が居ると仕事はサクサク片付く。

 その相方さんは仕事中に妙に俺に話しかけてきた。

 最初は話好きな方かと思ったが…

 

「小田さん。声が麒麟の川島に似てますよねえ」

「はえ?そうですかい?」

「うん。私、麒麟の川島のラジオが好きでよく聞くんだけど、その感じにそっくり」

「自分じゃよく分かりませんなあ。はっはっは」

「その笑い方も似てる」

 

 お笑いコンビの麒麟の川島氏。実は彼に似ていると言われる事が良くある。

 ルックス面はまったく違うが、声が似ているらしい。

 麒麟の川島氏と言えば、良い声で「麒麟の川島です」というネタが印象深い。

 と、言うことは俺も案外良い声をしているのだろうか?

 声に関して言えば。初就職の際に褒められた事がある。

 俺の初就職先は販売業で。声は武器になる。

 

「小田、お前の声はよく通る。ええもんや」

 

 しかし、俺は声に関しては自信がない。低い事は知っているが、良い声ではないと思っている。

 それに人間、体の構造上、自分の声は正確に把握出来ない。

 コンプレックスがある…とまではいかないが。仕事を始めるまでは声なんて意識もしてなかった。

 

 声。

 声が良いのなら。声を活かした仕事に就いていたら、俺はどうなっていたのだろう?

 声優?柄じゃない。ナレーションなんかは興味があるが。演技なんてできそうにない。

 …声を活かせる仕事って何があるんだろう?声優しか思いつかんぞ。

 それに声優さんの中には俺なんかより良い声の人がたくさん居る。

 

 …最初にやっていた販売かな。声を活かせそうな仕事は。

 もう辞めて久しいが。昔はこの声で売出しとかやっていたのだ。

 懐かしい。しかし、もう販売の仕事には就きたくない。在庫管理の地獄や発注の地獄を知っているからだ。

 

 このように。持っている才能?でも腐れてしまう事は多々あるようだ。

 俺は声の持ち腐れをしている。しかし、別にそこに後悔はない。

 才能?なんて。天から与えられた何かであり。自分で獲得したものではない。

 人間、最初から持っているものより、後天的に獲得したスキルに愛着が湧くものだ。

 いや、別に俺に何かしらのスキルがある訳ではないが。

 

 さあて。

 今日は久々の休み。何をしようかな?

 とりあえず。小説を1本書きたい。そして。二度寝でもぶちかまそう。

 明日に向けて英気を養いたい。

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