ダンジョンへ ※第二王子視点
「ブレット様は、ダンジョンに興味ある?」
お姉さんから期待するような目で見られながら、そんなことを言われた僕は――。
「……あります」
そう答えていた。お姉さんがダンジョンに興味津々という話を聞いたことがある。だけど僕は、そんなに興味があるというわけでもない。むしろ本心では、儀式の時の恐怖が蘇ってくるので二度と近寄りたくないと思っている。
でも、僕は興味があると答えていた。お姉さんの気を引きたくて、嘘を答えてしまった。少し後悔したけれど、お姉さんの嬉しそうな表情を見てしまえば仕方がないことだったと思う。
「ほんとに!? じゃあ、私と一緒に行ってみる?」
「はい。行ってみたいです」
一緒に、という言葉が僕を惹きつける。お誘いを断ることは出来ない。お姉さんが、こんなに嬉しそうなんだ。
そういう話し合いがあって、僕はダンジョンに行く準備をすることに。父にも許可を得て、必要な道具も用意してもらった。ダンジョンに行くのは二度目だ。儀式の時以来のことになる。
約束の日になり、僕はお姉さんと一緒にダンジョンへ。
「今日は、危険な場所には行かないようにするね。安全圏で、モンスターと戦い慣れるための練習をするよ!」
お姉さんは、本当に慣れている様子で進んでいく。護衛の兵士にも指示を出して、安全を確保してくれているようだ。僕は、そんな彼女の後ろについていく。情けないけれど、怖いんだ。
「大丈夫。ここなら、何があっても助けることが出来るから。安心して」
「はい。ありがとうございます」
僕を気にして、優しい言葉をかけてくれるお姉さん。その声音には温かさを感じた。心強さも感じられた。だからなのか、怖さが和らいだような気がする。
「そろそろ休憩しようか! 疲れたでしょう? 体力回復薬もあるから飲んでみて」
「はい……」
お姉さんに促され、僕は腰を下ろせる場所へと移動する。そして、そこで渡された回復薬を飲むことにした。ちょっと苦いな……。
「どうかな?」
「えっと……美味しくはないですね」
「ふふっ。それが、ダンジョンの味よ」
「なるほど」
よく分からないけれど、そういうことらしい。まぁいいやと思いつつ、飲み干す。すると体が楽になったように感じる。
「さっきよりも元気が出てきました」
「それは、良かったわ。それじゃあ、もうひと頑張りしましょうか」
それからしばらく歩き続けて、モンスターとの戦闘を何度か繰り返して、ようやく目的地である階層までたどり着いた。今日は、ここまで行くのが目標だった。無事に目標達成である。
「予定通り。それじゃあ今日は、帰りましょうか」
「この先には行かないんですか? まだ余裕があるんでしたら、行ってみたいなって思いますけど」
お姉さんと一緒に居ることで、僕のダンジョンに対する恐怖は消え去っていた。だからだろうか、先に進みたいという気持ちが強くなっている。
「んー……。正直に言うと、もっと先に進んでみたくてウズウズしている自分がいるの。でも、危ないところには行きたくないっていう気持ちもあって。迷っちゃうわ」
お姉さんは頭を悩ませていた。どうすれば良いのか考えているようだった。それなら、お姉さんのやりたいようにやってほしい。
「あの、僕のことは気にせず。お姉さんのやりたいようにやって下さい」
「わかったわ。それじゃあ今日は、帰りましょう」
「いいんですか?」
「もちろん! 私のやりたいことは、何事もなく無事にみんなで帰ること。無理する必要はないもの。ということで、帰りましょう」
「わかりました」
僕が居なければ、もう少し先へ進めるだろう。でもお姉さんは、僕のことを考えて我慢してくれたんだと思う。申し訳なくなると同時に、嬉しかった。
こうして、僕の二度目のダンジョン探索は無事に終わった。この経験により、僕のダンジョンに対する恐怖症も無くなった。
またお姉さんと一緒に、ダンジョンへ行ってみたい。
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