第16話 浮浪児のもって来た呪符

Side:アルミナ・オルタネイト


 第2、第3、第4回と炊き出しをやって、今日は5回目。

 ハッカ草は毎回スーッとする草を売りつけにきます。


「なあ、あんた。この草を銀貨3枚で毎回買っているけど、自分達で採って来れるはずだ。なぜしない?」


「当ててみせて下さいな」

「うーん、投資か。俺を抱き込みたいんだな」


「ええ。あなた、元薬師ですよね。患者が死んでお尋ね者になっている」

「酷いな、調べたのか」


「あなたに非がないことも知っています。ですが、悪い患者の家族に当たりましたね」

「そうだな」


「私に仕えませんか。守って差し上げます」

「いいのか?」

「ええ」

「分かった厄介になる」


 ハッカ草をスカウトしました。

 薬師なら諜報員として最適です。

 各村などを回っても問題ないですし、紹介状さえあれば貴族の屋敷にも薬師として潜入できそうです。


「なあ、火点けの呪符があるんだ。買わない?」


 炊き出しの最中に、侍女が浮浪児に話し掛けられています。

 偽物でしょうか。

 盗品ということも考えられます。


「どう致しましょう?」


 侍女が振り向いて私に判断を仰いだ。

 偽物だとなったら、オルタネイトがカモだと思われます。

 これは良くありませんが、試しにこの場で使ってみればいいのです。


 盗品は厄介ですね。

 ですが、断るのも勿体ない。

 せっかく話し掛けてくれたのですから。


「試しに1枚使ってもよろしいでしょうか?」

「おう良いぜ。好きなのにしろ。その代わり試しに使ったのも、お代は頂くけどな」

「それと盗品ということが判明したらオルタネイトの全力をもって貴方を逮捕します」

「買ったんだよ、魔王から」


 私はギクっとしました。

 一瞬、魔王がこの国に現れたのかと思いました。


 ないですね。

 魔王の称号を持つ者はこの時代に存在してません。

 きっと二つ名か、自称ですね。

 大きく見せようとする輩にありがちなことです。


 1枚試しに使います。

 あらっ、魔力の流れを感じませんでしたわ。

 ですけど、火は点きました。


 興味をそそられました。

 恐らくオルタネイトで売っている呪符のどれよりも性能が良い。

 バリアブルにもこんな品はないですね。

 火点けなら、15マナは必要なはずなのに。


「全部、買います」

「1枚銅貨6枚だよ、呪符は4枚で、試しに使ったのを入れると5枚。ええと」


 浮浪児が指を折って金額を計算しています。

 5掛ける6で大銅貨3枚です。


「大銅貨3枚ですね」

「信用するぜ。炊き出しするような貴族だものな」

「商談成立ですわ」


 猫舌なのか泣きだした子供がいます。


「ふうふう」


 女の子がスプーンに息を吐きかけて冷やしてます。


「熱くない?」

「熱くないよ。美味しいよ」


 泣いていた子は食べるとにっこり微笑みました。


「美味しい!」


 微笑ましいエピソードです。

 女の子は私と同じぐらいの歳です。


「ねぇ、友達になりませんこと」

「私がですか」


「ええ、さっきの子供は貴方の弟ではないですよね」

「うん、知らない子」


「その優しさが尊いのです」

「私はお母さんにしてもらって嬉しかったから」


「友達にはなって下さらないの」

「私で良かったら」

「私はアルミナです」

「ソレノ」


 友達もできた。

 打算もあるけど彼女が気に入ったから。


 炊き出しが終わり、呪符を調べたくて急いでいたのか転んでしまいました。


「ふぎゃ」


 はしたない悲鳴を上げてしまいました。


「大丈夫?」


 起こしてくれたのは若い女性です。

 スラムには珍しく嫌な体臭がしません。


「ありがとうございます」

「泣かないのね」

「ええ、貴族ですから」

「可哀想、泣きたい時に泣けないなんて」


 私はこの女性が好きになりました。

 今日は人と縁がある日です。


「あなた私に仕えませんか?」

「私はお尋ね者なのですが」


「何をやったのです?」

「乱暴されそうになり村長の息子の右目を潰しました」


「それは正当防衛では」

「村で裁判すれば村長が裁判官です」


 確かにね。


「王都で裁判して無罪を勝ち取りましょう。真偽官を呼べば、無罪確定です」

「よろしくお願いします」

「とりあえず、あなたはカスミ草ね。そう名乗りなさい」

「はい」


 帰ってさっそく、呪符を調べる。

 色や形は従来の物との差異はなし。

 魔力量判定の魔法を使って貰って、呪符の魔力使用量を調べる。

 驚いたことに限りなくゼロに近いらしい。

 使ってすぐに回復してしまうから、計測できないようだ。


 むむっ、こんな品が溢れると、おそらく呪符の産業は壊滅ね。

 一人で作れる量は高が知れているけど、技術を教えれば、大人数で作ることも可能。


 次からの炊き出しは、浮浪児の呪符を買い取りますの立て札を立てた。

 もちろん偽物を警戒して初顔の浮浪児は試しに呪符を使う。


 十分な量の呪符が集まりました。

 王都では売りません。

 売り捌くのは地方です。


 魔王という人物の実力は魔王の名に相応しいですね。

 呪符だけでも魔王を名乗れますわ。

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