新聖女
領地の建物が徐々に立ち並び、それなりの街と言えるようになってきた頃、俺はリンガイア国王に呼び出しを受けていた。
話の内容はアルムガルドのことである。
「……それでいつ婚約を発表する?」
「そんな話じゃなかったよな?」
突然ボケてきたのかと思う話に思わず突っ込み返してしまう。
ただリンガイア国王は冗談でもなんでもないようだった。
「実はアルムガルドの連中が新聖女を立てて、旧聖女を倒そうとしてるんだ」
「……どういうことだ?」
聖女は原作の主人公。
排除されることはそうそうないと思っていたのだが。
「なんでもアルムガルド国内で大暴動が起きたらしい。国王はそれを治めるために原因は元聖女にあると声明を出したようだな」
あながち関係ないとも言い難そうだが、それにしても新聖女を立てるのは予想外であった。
そもそも聖女とは神の信託を受け、旅の過程で力をつけて、いずれ魔王すらも討伐できるほどの聖魔法を覚える存在である。
暴動が起きたからと言って簡単に変えられるような存在でもないと思うのだが、それも神の啓示があったのだろうか?
「なんにしても俺には関係のない話だな。聖女を明け渡してほしいというのなら渡すだけだ」
「そうはいかないらしいよ。なんでもただ聖女を要求しているだけではなく、第二王子の廃嫡と第三王子の復帰を求めているらしい」
「はぁ!? 俺は追い出された身なんだぞ? どうして今更戻ると思ってるんだよ!?」
あまりにも頭がお花畑すぎて頭痛がしてくる。
「ただそうも言っていられないんだ。なにせ今のアルムガルドは第一王子が行方不明だからね」
王位継承権第一位のルーベルト。
彼がいなくなったとしたら確かにアルムガルドは騒ぎになるだろう。
しかし、まだ第二王子が……。
「そういえば第二王子も捕まえていたな」
「そういうことだ。二人がいなくなればアルムガルドの王族は君しかいなくなる。つまりそういうことだ」
「そもそも第一王子が行方不明だなんてどうせ女漁りに精を出しているだけじゃないのか?」
俺がアルムガルドにいた時もポッと姿を消してはたまに女連れで戻ってきたりしていた。
ただそうではないと言いたげにリンガイア国王は首を横に振る。
「どうも事情が違うらしい。彼が奴隷としていた女性たちの奴隷紋が消えたらしい。これは持ち主になにか起こらないとまず消えないもので、暴動の原因もこの奴隷紋が消えて、強制的に奴隷にさせられていた者たちが騒ぎ出したのが原因のようだ」
「なるほどな……」
大方どこかで女がらみのトラブルに巻き込まれて身動きが取れなくなってしまったのだろう。
運悪く命を落としている可能性もありそうだ。
「つまり俺がアルムガルドに戻されないように。リンガイアの王族であるリフィルとの婚姻を発表しようとしているのだな」
「話が早くて助かる」
「それなら俺としても早い方がいいな。新聖女が来てからじゃ遅いだろう? でも噂の新聖女というのも見たい気持ちはある……」
「ま、まさかリフィルから乗り換えようとしているんじゃないよな!?」
リンガイア国王が威圧ある表情で睨んでくる。
それを涼しい顔で受け流す。
「会ったこともない相手に乗り換えるはずないだろ……」
「その言い方だと会えば乗り換えるという風に聞こえるぞ」
「とにかく敵を見ておきたいというのは当然だろう?」
「それなら早速貴族たちを集めて婚約の発表をする。そうなればアルムガルドからお前を返せと言われても突っぱねることができるからな」
◇◆◇◆◇◆
偽聖女はすぐさま大神殿の中から選ばれていた。
容姿が良く聖魔法も使え、皆から好かれている存在。
そのうえで従順で傀儡にしやすい人物、と考えて選ばれたのは若干八歳の少女であった。
「わ、わたしがせいじょにえらばれたからには、かならずまおうをたおしたいとおもいます」
たどたどしい口調で宣言する新聖女。
どうにも可愛らしさが先走り聖女らしい威厳はまるでない。
とはいえ、この愛くるしいマスコット聖女登場のおかげで民衆の大暴動は治まり、むしろ聖女に力を貸してくれようとしていた。
そんな折、裏切り者である旧聖女の居場所が判明する。
「申し上げます。
「リンガイアといえば魔族によって支配された地……」
「わかりました。わたしがみずからおもむいて、こうしょうをしてまいります」
カンニングペーパーはあったのだが、はっきりとした聖女の言葉に周りにいた人たちから歓声が上がっていたのだった。
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タイトル
『転生勇者は破滅回避のために黒幕として君臨する』
URL
『https://kakuyomu.jp/works/16818093079155755838』
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