嫌われ王子、国を捨て亡国の王女を助ける
空野進
第一章
第一話 嫌われ王子、王女を助ける
プロローグ
大国、アルムガルド王国第三王子、テオドール・フォン・アルムガルドは悪役の中で特に嫌われていた。
特筆した能力はなく、いつも戦いは手下任せ。
その癖に偉そうな言動をしてはいつもメインキャラの妨害をしてくる。
しかも美男美女ぞろいのメインキャラたちと比べるとやや小太りで、人を睨むような威圧的な目をしていたこともあり、鼻につく高圧的な態度をとっていると思われていたのだ。
ただそれはあくまでもメインキャラ側の視点である。
視点が変わるとまったく違った見方ができることを俺はこの嫌われ王子に転生して知ることとなったのだ。
そのことを知ったのは俺が十二歳の誕生日だった。
気楽な第三王子。
しかも何よりも攻撃魔法が重んじられるこの世界で俺の適性は『支援』と『治癒』であったこと。
一切攻撃魔法が使えない俺は妾の子ということもあり、早々に王位継承権を剥奪され、晴れて堕落した生活を送ることに……とはならなかった。
俺の兄である二人。
軟派な性格をしておりライバル的立ち位置で最終的には主人公と共闘する第一王子、ルーベルト・フォン・アルムガルド。
弱いものの味方をする正義感が強い第二王子、ジークハルト・フォン・アルムガルド。
これだけ聞くとメインキャラらしく見える。
しかし、メインキャラたちにはゲーム中は見えない欠点があったのだ。
彼らは王子なのにほとんど政務をしないのだ。
ルーベルトは常に外で女性を追いかけている。
ジークハルトは己を鍛えることしか興味がない。
確かにここは恋愛RPG『
ただRPGの出来が良く、男女問わず人気が出た作品で、俺もそれなりにやりこんでいた。
だからこそライバルキャラである第一王子ルーベルトが女性を追っかける性格なのはゲーム上ならわかる。
RPGでもあるので、レベルを上げるために己を鍛えるのもわかる。
でも現実ならそうじゃないだろ、と言いたくなる。
そもそも婚約者がいるのに別の女性を追いかけるなんて相手にも失礼だし、妾にするのなら相応の立場の相手から選べばいい。
道を歩いていたらかわいい子が居たから宿に連れ込んだ、なんて王位継承権第一位である王子がするべきことではない。
第二王子は一騎打ちか少人数同士の戦いしか興味がない。
本来なら兵を率いる立場であるにも関わらず、だ。
王位継承権第二位は自分から突っ込んでいって敵味方を混乱させるような単細胞がすべきことではない。
そこを補っていたのが嫌われ王子たる第三王子の俺、テオドールだった。
政務をこなし、周りの者たちには指示を出して仕事を任せていた。
兄たちにも次期王なのだから、と
ゲーム中だと、ルーベルトの女性関係に口出ししたこともあるし、ジークハルトは無理やり軍勢の指揮の練習をさせるように騎士団長に決闘するように根回しをしたこともある。
主人公側だと嫌われていた行動の数々も全てこの国を……、ひいては二人の王子のことを思っての行動であった。と視点を変えてみるとよくわかるのだった。
更に兄たちがやらない政務を肩代わりしていると「妾の子が王位を奪おうとしている」と王子たちに噂を流される始末である。
普段の行動を見ていたら俺にその気がないことくらいわかりそうなものなのだが、結局立場と見た目でどんなに国を憂いて行動をしても嫌われていくだけであった。
そんな裏の視点はゲームではまるで描かれることのなかった。
そのせいもあってテオドールは嫌われ王子と呼ばれるようになったのだ。
本当は誰よりも国のことを思って行動をしていたはずなのに。
他のメインキャラはまだ出会っていないが、あまり良い予感はしていない。
ゲーム性を出すためにキャラの性格を極端にすることはよくあることなのだから。
とにかくこの先のゲーム展開を知っている俺からしたら先は読めている。
俺に待ち受けているのは主人公たちに倒されるという破滅的な未来だけだった。
更にもっといえば俺が倒されたことでこの国自体もまともに政務を行える人物がいなくなり、衰退していくのが見えている。
それでも俺は転生後、色々と動きはした。
主人公たちが解決する王都貧困街の疫病発生を未然に防いだり、魔族と同盟関係を結び侵攻を防いだりしたのだ。
ただ、主人公たちなら賞賛された出来事も俺が行うと「どうせ貧困街の住民を奴隷にしようとしてる」とか「魔族と手を組んで王国を滅ぼそうとしている」なんて言われてしまう始末である。
ここまでするともはや馬鹿馬鹿しく思えてくる。
原作ならばこんなに馬鹿にされながらもテオドールは頑張っていたのだが、俺にはそこまでこの国に思い入れはない。
頑張っても破滅。
自堕落な生活を送っても破滅。
もはやこの生活を送り続ける理由が俺にはなかった。
「国を……出るかな」
どうせこの国にいても自由はない。
兄二人が俺のことを嫌っているのならむしろ国を出るのは容易いことだろう。
思い立った瞬間に俺は父である国王に話をしに行くのだった。
◇◇◇◇◇◇
ここで少し予定が崩れる。
父の執務室には既に二人の兄がいたのだ。
「父上、リンガイア王国より救援の依頼が来ていたと思いますがどうされるのですか?」
珍しくルーベルトが尋ねていたようだ。
いや、小声で「あの国の王女はかわいいのに……」と言っているところからいつも通り女にしか興味がないようだったが。
「無論、見捨てる。救援を頼んできておるのにまともに金も支払えんなどと助ける必要もない。もとよりあのような小国にはなんら価値がないがな」
国王陛下たる俺の父、アルデバラン・フォン・アルムガルドは荘厳たる声で告げる。
ある意味、この親にしてこの子あり、とよくいったものだ。
金が全ての守銭奴である父は損をするとわかると絶対に動かない。
勇者とか現れても最低の金額しか出さないタイプだった。
「魔族との戦争なんて俺の出番はないからな」
なぜかジークハルトはそれで納得している。
一国で対抗できないから救援を頼んでいるわけだし、そもそも魔族は人類共通の敵である。
『
いずれ敵になる相手なのだから共闘をして相手を弱らせるのも良いと思うのだが、そういう考えには至ってくれないのだ。
「あの、父上。よろしいですか?」
「お前か。今は忙しい、あとにしろ!」
俺の姿を見た瞬間に吐き捨てるように言ってくる。
その様子を見て二人の兄は嘲笑をしていた。
「父上はお前に使う時間はないそうだ」
「今は重要な話をしている。お前にする話はない」
「いえ、だからこそ今聞いてもらいたいのです」
時期を逃してしまったらこのままずるずると原作開始まで出て行けない気がする。
強い決意の下、俺は国王に向けて言っていた。
「なんだ? 手短に言え」
「実は私、この国を出ようと思っています」
「――なぜだ?」
国王は鋭い視線を向けてくる。
「
「はっはっはっ、ようやくそのことに気づいたのか? いいぞ、出て行け」
ルーベルトは高笑いしながら言う。
それを聞いて国王は目を閉じる。
「何の支援もせんぞ? この国を出るというのならアルムガルドと名乗ることも許さん」
「もちろんでございます」
むしろこれから衰退していくであろう国の名なんて俺の方が名乗りたくなかった。
「はっはっはっ、お前の私物くらいは持って行って良いぞ。でも、早々に出ていくと良い。嫌みなお前が消えてくれてみんな喜ぶだろうな」
ルーベルトの高笑いを背に受けながら俺はそのまま部屋を出て行くのだった。
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