クオン幻想放浪記

きびだんご先生

【1】行き過ぎた好奇心

ほれそこの者よ。ワシが面白い話をしてやろう。

なぁに。つまらぬものでは無い。

これはの、どれほど不幸な目に合っても尚誰かの為に各地を旅するというよくある話じゃよ。


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東雲。

春の訪れを告げる光は、海の上を走り、ビルの隙間を通り抜け、カーテンの間隙を縫って僕に差しかかる。

「さぁ、今日も一日頑張りましょうかね…」

そんなことを呟きながら僕は一日の支度をする。

「はぁ…。20歳になってもまだ朝は辛いな…」

閑静な部屋に向かって黒髪の青年はそんなことを繰り返し呟く。

「行ってきます」

いつもと同じ一日が始まった。

大学での一通りの授業を終え、放課後。

「はぁ…相も変わらずつまらない授業だったな」

そんなことをぼやいていると、不意に後ろから声をかけられた。

「ほ〜う?つまらなくて悪かったな玉響久遠君?」(たまゆらくおん)

「あ…浅野教授…今日もイケメンですね」

やる気のないような感じで答える。

「お世辞はいい。君も早く帰りなさい。ここで何もしないくらいならね」

「はい」

二つ返事のように答え、僕は大学を後にした。

家にかえり、夕食を食べ、風呂に入り、寝る。変わりのない平凡な毎日を過ごしていた。

つまらないなどの愚痴を零しながら僕は朝を迎えた。

またいつもと同じ1日が始まる。

閑静な部屋の中で支度をし、行ってきますといい家を出る。

つまらない授業を受け、先生と同じような問答を繰り返す。

そんな一日を終え、帰路に着く。


つまらない一日を憂いながら変わらないはずの道を歩いていく。

すると、目の端に普段見ない赤色を捉えた。

後ろの山に押し出されたかのような小さな鳥居がそこにただあった。

元は赤かったであろうそれは、長年手入れがされていない様で所々漆が剥がれていた。

「あれ?こんなところに鳥居なんてなかったよな?」

そう思うのは当然の事だった。この道はほぼ毎日通っている道であり、鳥居があるのならば気づかないはずはないからであった。

人間。好奇心には逆らえないもの。それは例に漏れず僕もだった。

自分知らない「世界」への好奇心が膨れきった僕は、鳥居の中へと消えていった。


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鳥居をくぐり抜けると、中には所々壊れかけの石畳が階段のように積み重ねられた参道のようなものが続いており、その横には等間隔で石灯籠がそこにはあった。

更にその周りには下生えが生い茂っており、参道以外は見えなくなっていた。

「なんなんだよここは、鳥居と言い参道と言い何年放置されていたんだ?階段も階段で結構長いし…」

そんなことをブツブツ言いながら階段を上る。

もう中程にまで差し掛かった頃だった。

「・・け・・・・」

どこからか声がする。誰か人がいるということに喜びを感じながらも、それはおかしなことでもある。

「なんでだ?声がする。

でもここに来るまで人なんて見かけていないし足跡も何もなかったよな…」

そんな疑問を無視するかのように声の主は言い続ける。

「たす・・・・・」

「また聞こえるな…しかも…『たすけて』と言っているのか…?後にもなんか言っているみたいだけれど…最後の1文字が聞きづらいな…」

得体の知れない声の主。そんなものに触れていては当然恐怖心も現れてくる。

「早めに正体を確かめてさっさと帰ろう」

僕の中で考えが一致した。

駆け足で参道を上る。

数秒後には階段の頂上に鳥居があるのが見えた。

「声はあそこからか?」

そう考えると同時に階段を登りきった。

そこにはとても長い年月が経っているであろうボロボロの神社とその右側には御神木があった。

ここでも下生えが生い茂っているが、怪しいところなんて何もなかった。

「あれ?何も無い?

気のせいだったのかな?」

後頭部に手を当て、周りを見渡す。

しかし、やはりそこには神社以外何も無い。

「まぁ、探せばなんかあるでしょ」

そんな考えで、僕は境内の中を探し回った。

調べていくうちに夜になったが、僕は気にもせずに本殿や御神木などを調べて行った。

その中で、1つの看板に目が着いた。

「なんだこれ。この神社に祀られている神様のことかな?ん〜?『境界を司る神様』?見たことない神様だな」

運気や金運などのご利益の神様ならまだしも、「境界を司る神様」なんてものは聞いたことが無かった。

「まぁいいか。ここであったのも何かの縁だろうしね」

そんなことを言いながら、僕はお昼に食べなかった大福をそっと御神木の目の前にお供えした。

その時だった。

その場の一切の風が凪いだ。

耳に響く静寂が煩い。

唐突に後ろからの強烈な気配を感じ振り向くと、そこには形容し難い「なにか」がいた。

「それ」は人の形をしながらも全身が真っ黒でススのようなモヤで体が包まれており、時折口が本来見えるはずであろう部分から嗚咽のような声を漏らしていた。

「うわぁぁああぁあああ!!!!」

思わず悲鳴をあげると、「それ」はゆっくりと上半身だけをこちらにぐにゃりと曲げ、そのまま僕の方へゆっくりと迫り始めた。

僕の中で様々な思いがこだまする。

アレはなんだ?人なのか?どこから出てきた?安全なのか?なぜこちらに向かってくるのか?

あれに触られたら何をされるのか???

考えが浮かんでは僕の脳を通り過ぎていく。

その中で一つ僕の中に漸く浮かび上がってきた思いがあった。


逃げろ!!!


そう考えると同時に、僕は階段に向かって走り出した。

後から声が聞こえる。

「た・けて・・・!!!!」

その声で気づく。コイツだ。先程まで得体の知れない声の正体はコイツだった。

だが、そんなことを考えている暇もない。

「それ」は遅いながらも確実に自分の方へ迫ってきているのだから。

声を無視し階段を駆け下りる。

自分でも驚く程の速さが出ている。

だが、「あれ」から逃げ切れるならば何でもいい。

少しして入口の鳥居が見えてくる。

もうすぐで逃げ切れる。

「やった!もうすぐだ!!逃げ切れる!!」

逃げ切ることしか頭になかった僕は勢いよく鳥居を抜けた。

「よし!逃げきれた!」

そう叫ぶ僕の横には、妖しく光る2つの光。

その妖光はけたたましい叫び声をあげると、僕の体に衝撃を与える。

体が宙を舞い、大地へと叩きつけられる。

(あぁ…死ぬのか…クソ)

薄れゆく意識の中で、僕は神社に行ったことを深く後悔しながら、ゆっくりとその瞼を閉じた。

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