1.5

「ねえ、見るの辞めたげてよ」

「えっ……w あ……」「あ…w ごめん」


 悟はまだ理解していない。彼が右斜め前の席の女子生徒に、無意識下で熱烈な視線を送っていたことに。

 その女子生徒は前々から彼のことを友達に相談していた。凄い視線を感じる、だとか、どこ見てるか分からないし、なんか唇がずっと微妙に震えていて怖い、だとか。

 悟は少しずつ言われたことを理解し始めた。自分が呆けた先の景色に、確かにあの子のポニーテールが揺れていたかもしれない……と、ブレザーの肩に散らばった雲脂を気にして、軽く払い落しながら思った。

 悟は宛先も無い考え事を、下手なリリックに乗せて考えていた。大方ノイズのような言葉たちに埋もれて、答えのようなものは見つからなかったが、時々生まれ落ちる真理っぽい言葉に啓示を受けた気になっていた。


「まがいものばかり」


 小さな声で彼はそう言う。昨日、自転車に乗って練馬の実家へ帰宅していた時にふと出た言葉の一部分。


「まがいものばかり……」


 誰が? 何が? 彼の中のでは、その矛先は見つけられなかった。紛いモノじゃないモノも分からないと気付くのには、まだ若いからなのかもしれない。

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