大阪からやって来たちょっぴり不良の僕と不良に憧れる令嬢の恋物語 !
崔 梨遙(再)
第1話 はじめまして!
「なにジロジロ見てんだよ!」
それが最初の言葉だった。
家の近くのコンビニの前に、お嬢様がドレスを着てしゃがみこんでいた。
確かに僕は思わずジロジロ見てしまった。
“なに見てんだよ”と言われても仕方ないかもしれない。
でも…見るでしょ! だって、セレブなパーティーに行くようなドレスだし、ネックレスとか装飾品も高価そうで目立つことこの上ない。
だけど、不快感を与えてしまったのなら仕方がない。謝ろう。
「すみません」
「失礼だろう。って、言いながら見るなよ。鬱陶しい」
確かに謝りつつもまたジロジロ見てしまった。
「すみません」
僕はお嬢様の隣に座った。
「ジロジロ見て楽しいのかよ」
「楽しくはないですが気になります」
「何が気になるんだよ」
「どうしてこんな所にお嬢様がいるのかなぁって……」
「お嬢様がコンビニの前にしゃがみこむのが珍しいのかよ」
「はい、とても珍しいです」
「珍しいのか?」
「そもそも“お嬢様”が珍しいです」
「そんなに珍しいのかよ」
「ドレスってだけで珍しいです」
「そんなものなのか?」
「え?」
「一般人からすれば珍しいのか?」
「ええ、とても」
「お前、高校生だよな?」
「はい」
「何年だ?」
「2年です」
「同い年じゃねえか」
「そうでしたか」
「同い年だぞ」
「はい」
「なんで敬語なんだよ」
「僕は平民、一般人ですから」
「生まれた家が貧しかろうが裕福だろうが関係ないだろ?」
「そうでしょうか?」
「そうだよ、実際、私が稼いでいるわけじゃない。親だ、親」
「そうですけど、つい敬語になりますね」
「気に入らない、すぐに敬語をやめろ」
「ほな、やめるわ」
「うわ、いきなり関西弁になった」
「大阪から引っ越して来たばっかりなんや、しょうがないやろ」
「大阪から来たのか」
「そうや、せやからこの辺のこともよく知らん。お嬢様がいることも知らんかった」
「そうか、そうだろうな」
「“そうだろうな”とは?」
「私はここら辺では有名だからな」
「お嬢様として?」
「それもあるが、大不良として有名なんだ」
「不良に憧れているのか?」
「うん、憧れている。というより、もう不良になっている」
「……」
お嬢様は髪こそ明るい茶色だが、落ち着いた黄色いパーティードレス、耳にピアス、指に指輪、手首にブレスレット、首にネックレス。今からどこかのパーティーに出席するかのような姿だった。
「何故黙る?」
「全く不良に見えへんねんけど」
「嘘だ!さっきの“ジロジロ見んなよ”とか、めちゃくちゃ不良っぽかっただろ?」
「いや…特に…」
「じゃあ、どうしろというんだ?」
「そもそも服装が良くない。どこから見てもお嬢様や」
「そうなのか…って、どこを見ているんだ?」
「え?谷間」
僕はビンタされた。
「見るな」
「見せるな」
「私の服を見てどう思う?」
「黄色い」
「見たままじゃないか」
「いいと思う」
「どこがいい?」
「上品に身体のラインが表現されている。Eカップだろ?」
僕はまたビンタされた。
「私の胸の話をしているんじゃない」
「だって、ドレスやもん」
「ドレスを着た不良がいてもおかしくないだろう?」
「……」
「ほら、ピアスも指輪もブレスレットもネックレスも校則違反だぞ」
「どう見てもお嬢様や。暗くならないうちに帰った方がええで」
「どうして?」
「誘拐されるで」
「大丈夫だ」
「なんで楽観的やねん」
「そこに黒い車が停まっているだろ?」
「うん」
「私のボディーガードが乗っている」
「めっちゃ、お嬢様やんか」
「やるな! ここまで私に反論した者はいないぞ」
「……友達いてへんやろ?」
「……私は一匹狼だからな」
「俺、帰るわ」
「待て、話の途中だぞ」
「これ以上話してもなぁ。一匹狼やなくて、ただの一匹やろ?」
「じゃあ、聞く。不良はどんな服装をするんだ?」
「コンビニならジャージ! もしくはスウェット!」
「ジャージか?」
「ジャージは知っているやろな?」
「馬鹿にするな、運動するときに着る服だ」
「そうだ」
「だが、困った」
「どうした?」
「ジャージは学校のものしか親が買ってくれない」
「少し待てるか?」
「時間はあるが」
「俺のジャージ、1着あげるわ」
「そうか、ありがたい、頼む。買い取る」
「俺のお古だから金は要らんよ」
「お前、いい奴だな」
「よく言われる。ほな、ちょっと待ってて」
僕は黒地のジャージの上下を持ってコンビニに戻った。
お嬢様は相変わらず缶コーヒーを飲みながらコンビニの前に座っていた。
「お待たせ」
「ありがとう」
「コンビニのトイレで着替えろよ。インナーのTシャツも持ってきてるから」
「ちょっと待ってくれ」
「どないしたんや?」
「足が痺れてすぐには動けない」
「…ごゆっくり」
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