ほぼノンフィクションホラー

崔 梨遙(再)

1話完結:約1000字

 若い頃、もう20年以上も前のお話。僕達は、夏の夜、心霊スポットの廃病院へ行った。僕、沖田、永倉、鈴木の男4人だった。沖田の車で行った。沖田は僕等のリーダー的存在だった。


 車から降りて、山の空気を吸いこむ。真夜中とはいえ、車の外は暑い。山の空気の美味さより、生暖かい空気にウンザリする。そんな中で、僕達は肝試しにここに来たのだ。肝試しは何回かやっていたが、怪奇現象にお目にかかったことは無かった。だから、実は誰も期待はしていなかった。どうせ、今夜も何も無く終わるだろう。みんな、そう思っていた。



「ほな、みんな、行くで-!」


 沖田が先頭を歩こうとする。と、鈴木が叫んだ。


「待ってくれ! みんな、これを見てくれ!」


 半袖のTシャツから出た左腕を指し示す鈴木。懐中電灯の明かりで照らすと、カタカナで、“ヤメロ”という文字が浮き上がっていた。


「なんやそれ?」


 沖田も永倉も無関心だった。


「行くなっていうことちゃうか?」

「アホ、どうせ自分で引っ掻いたんやろ?」

「なんで、そんなことせなアカンねん。おい、ヤバイって。多分、俺の守護霊さんが止めてるねん。俺の守護霊は強いらしいから」

「守護霊? なんやそれ。みんな、鈴木は放っといて行こうや」

「待てや、みんなが行くなら俺も行くわ」


「なんも無いなぁ」

「そやなぁ」

「もう、1階から5階まで、全部見たんとちゃうか?」

「なんか、スプレーの落書きはあったけど」

「なんで、心霊スポットって落書きがあるんかな?」

「もうええ、なんか、退屈してきたわ」

「もう、帰ろか?」

「帰ろ、帰ろ」


 ところが、なかなか出入り口が見つからない。同じ所をグルグル回っている気がする。そこで、朝陽を浴び始めた頃、ようやく僕達は外へ出ることが出来た。


 すると、また鈴木が叫んだ。


「沖田、背中! 背中!」


 沖田はTシャツを脱いだ。沖田の白いTシャツの背中に、泥の手形がついていた。


「おいおい、誰のイタズラやねん? このTシャツ、気に入ってるのに。みんな、手を見せろ」


みんな、手のひらを見せた。みんな、手に泥などついていない。


「あれ? おかしいなぁ。なんやろ? これ」

「おい、見ろ!」


 三度、鈴木が叫んだ。振り返ると、病院など無かった。何も無かった。では、僕達は一晩中、どこをさ迷っていたのだろう?







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ほぼノンフィクションホラー 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る