復讐代理人!
崔 梨遙(再)
1話完結:2500字
OL、真亜美は27歳。浴びるほど酒を飲んで自宅のマンションに帰って来た。交際相手の香坂慎也が、実は妻子持ちだということを知ったのだ。その日は日曜日、偶然、ショッピングモールで妻子を連れて歩いている慎也を目撃した。慎也は29歳。合コンで知りあった。慎也の妻は、美人だったけれど何故か少しやつれていた。
真亜美は包丁を握った。そして、刃を左の手首に当てる。慎也とは、結婚の話まで出ていたのだ。真亜美は慎也と結婚するつもりだった。だから、何回か貢いだこともある。真亜美は絶望していた。
包丁を握る手に力を込めた瞬間、真亜美はふと力を抜いた。そして、何かを思い出したように急いで携帯を取りだした。
「はい」
「起きてた? 私、真亜美だけど」
「寝てたに決まってるやんか、どないしたん?」
「倫子、まだ復讐代理人の方はやってる?」
「うん、ぼちぼち」
「じゃあ、私が依頼する!」
「真亜美が? 別に依頼は受けるけど、相手は誰?」
「わかった、この香坂慎也について調べてみる。調べ終わったら連絡するから」
「お願いね! あ、報酬はどうしよう?」
「あなたが貰う慰謝料の半分でどう?」
「貰った中から払えばいいの?」
「うん、じゃあ、近い内に連絡するから」
「わかった、連絡待ってるから」
次の金曜日、真亜美は倫子に呼び出された。真亜美は半休を取っていた。真亜美が待ち合わせのカフェに行くと、久しぶりに会う倫子と見知らぬ女性がいた。
「真亜美、ここやで」
「倫子、久しぶり。元気そうね」
「真亜美、こちらは香坂雫(しずく)さん」
「あ、慎也の奥さんだ! この前見た!」
「慎也の妻の雫です」
「倫子、どういうこと?」
「奥さんも私達の仲閒やで。度重なる浮気とDVで、離婚したいのに離婚できないらしいねん。まあ、そんなことやろうと思ったから声をかけたんやけど。そしたら、めっちゃ協力してくれて助かったわ」
「それで、何か進展はあったの?」
「うん、まず私がハニー・トラップを仕掛けた。真亜美と雫さんを見て、慎也は胸の大きい女性が好きやとわかったから、私から慎也を誘ってみた。私も胸は大きいからね。それで、一緒にホテルに入るところを写真に撮ってもらった。それから、私が暴行されたっぽい写真も撮ったの。ちなみに、その時のカメラマンは雫さんやねんけど。その時、慎也は睡眠薬入りのビールを飲んで寝てたわ」
「へえー! 結構ギリギリの線まで攻めたわね」
「それで、自宅のパソコンを見せてもらったら、浮気相手とのHな画像データや動画データが沢山! しかも、ドライブレコーダーでいろんな女性とホテルに入るところも押さえられた。雫さんの協力のおかげやで。慎也は部下の女性にも手を出してたこともわかった。更に、最近結婚した部下の奥さんと関係があることもわかったんやで。慎也って、ほんまに最低やな」
「雫さんは、これからどうするんですか?」
「この写真と動画を持って実家に帰ります」
「倫子は、この写真と動画をどうするの?」
「慎也と慎也の実家に送るの。それから、慎也の会社」
「会社にも?」
「だって、徹底的に復讐したいやろ? 慎也は会社の部下や部下の奥さんにも手を出していることがわかったから、これを送れば会社での立場は悪くなるはずやねん」
「会社を辞めたら、慰謝料は?」
「ちゃんと調べたわ、慎也の実家はかなりの金持ちだから大丈夫やで。慎也の実家が払ってくれる、というか払わせる」
「でも、直接私に入る慰謝料は無いじゃない。どうやって倫子に料金を払うの?」
「雫さんの慰謝料を多目に慎也から貰って、一部を私達が貰うの。私と真亜美、150万ずつぐらいでどう?」
「私はそれでいいけど」
「もっとお支払いしますよ」
「あら、嬉しい。あ、そうや! 雫さん、私と一緒に慎也の実家に行きましょう。私、弁護士やし、ハニー・トラップで被害者を装ってるし、同じく慎也の被害者の雫さんが同席してくれたらありがたいねん。だって、子供も殴ってたんでしょう? 勿論、雫さんも殴られてたやろうけど」
「緊張しますけど、行きます。慎也の親に、私達の体の青あざを見せてやりたいので。私、できちゃった婚で結婚してから3年、地獄でした」
「心配せんでええよ、離婚したら男を紹介するし、働きたいなら仕事も紹介するから。当社のアフターフォローは完璧です」
「私は?」
「真亜美はお留守番!」
慎也は困っていた。会社を辞めることになってしまった。入社以来、営業成績トップ、若くして主任になり、そのまま係長、もうすぐ課長という出世コースだったのに、その道は断たれた。元々、強引な営業でお客様からのクレームが多く、社内では横柄な態度で嫌われていたから、会社で慎也を弁護してくれる者はいなかった。会社に送られた写真で、部下や部下の妻との不倫も、取引先の女性との不倫も明らかになった。
実家から、激怒した父親から電話があった。田舎に帰ってこいとのことだ。慎也の父親は、雫に多額の慰謝料を支払ったという。雫と息子の体の青あざを見た時、慎也の母は泣いたらしい。これから、月々の養育費も支払わなければならない。家には妻も子もいない。どうしてこんなことになったのか? 慎也は公園のベンチで泣いた。
「「「イエーイ!」」」
その日、真亜美と倫子と雫が、雰囲気の良いフレンチレストランで祝杯をあげた。
「これで復讐は終わりやね。どう? 真亜美は満足した?」
「満足した。なんかスーッとした」
「倫子さん、真亜美さん、ありがとうございました」
「真亜美、雫さんには、ウチの仕事を手伝って貰うことになったから」
「そうなの?」
「ちょうど、事務員が辞めたところだから」
「就職おめでとう、雫さん」
「雫さん、真亜美、今日はゲストも呼んだから」
「倫子さん、こんばんは」
「いやぁ、美人揃いですね」
「お邪魔します」
「倫子、何、このイケメンは?」
「今日は合コン。天野さん、島さん、柳さん、私の知人のイケメン3人、今日はみんなで盛り上がるで!」
それからしばらくして、また倫子に電話がかかって来た。復讐の依頼だ。世の中には、“復讐したい人”がどれだけいるのだろう? と思いつつ、倫子は電話に出る。今日も、倫子達は裁かれるべき人間を裁くのだった。
復讐代理人! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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