第20話 実技試験の結末
凄まじい剣の応酬に四苦八苦しながらも何とか剣を合わせていく。しかし紅蓮に纏われた剣は俺の心を打ち砕くがごとく軽々と俺の膂力を超える衝撃を与えてくる。
まさか紅の騎士団の騎士団員が出てくるとはな。ゲームでは飛ばされた入学試験の内容がまさかここまで豪華なモンだったとは思わなかった。
なるほどな。こういうイベントが用意されてるから自前の剣じゃなくて模造剣なんだ。
「本当にここまで来れる学生がいるとは驚きだぜ。いっつもこの仕事が回ってきた時はティーカップを片手に受験生が苦しむ姿を見るだけだったんだがな!」
そう言って振るわれる斬撃は最早一介の学生では到底受けられないほどの重厚な衝撃を伴う。
もう返事なんてしていられない。攻撃を防御するので精いっぱいである。
何せ紅の騎士団と言えばどの団員もゲーム中で最強キャラランキングの上位には位置する。多分ステータスだけで言えば俺の今のステータスの百倍かそれ以上だ。
本来なら勝てる相手ではない。そして向こうもそれが分かっているからか多分手を抜いてくれているのだろう。
これは絶好のチャンスだ。ローグ先生が指導から離れて強者との戦闘というものから離れていた。ただ、ステータスを伸ばすのはこういった絶対的な強者との戦闘が一番なのだ。
そしてステータスの伸びは当然勝てれば一番良い。そしてこの相手に勝つには油断している今しかない。
唯一対抗できるであろう切り札をここ一番のところで使えばおそらく勝てる。だからこそ防戦一方になりながらもその機を伺っていた。
「ほう、これも対応できるか。ならもうちっと飛ばしてくぜ!」
そう言った瞬間、これまでよりもスピードが劇的に上昇する。
「やっべ」
想定以上に速くなった相手の剣に対応できず、無防備となった俺の横っ腹に突き刺さる。
思考が飛ぶ。
それほどの衝撃が横っ腹から感じ取ったときには俺の体は近くの大木に叩きつけられていた。
「痛ってぇ……」
ズキズキと痛む腹を抑えながら相手の方を見る。結構飛ばされたらしく、紅の騎士との距離は10mほど離れている。
模造剣でも俺の身体強化魔法を貫く強さ。これ俺じゃなかったら死んでるだろ。
「まだいけるか?」
「いけます!」
俺は立ち上がり、剣を構える。その時、俺の頭の中を刑法のような音と共にこんな声が聞こえてくる。
『著しい身体機能の低下がみられました。カウントが終了次第強制的に送還します。5、4、』
これが強制送還の合図か。多分魔方陣をくぐったときに付与されるんだろう。だが、こんな絶好のチャンスを阻止されてたまるかよ。
「解除」
俺はカウントが終了する前に自分へかかっていた強制送還の魔法を解除する。
「おいおい、イカれてやがんなお前。安全装置を自分で外すことがあるかよ」
「こんな絶好の機会、二度とないと思いますので」
そう言うと俺は再度全身に身体強化魔法を纏わせる。あの速さの剣戟についていくためには今の俺の体に合わせた強度なんて考えていられない。
ミシミシと体中から聞こえてくる骨の軋み。ここまで身体強化魔法を高めなければ相手できないだろう。
「もう一度、お願いします!」
「おう! 来いよ!」
一歩また一歩。踏み込むたびに地面に足がめり込む。そして生み出されるのは理から外れた速度。
全身から聞こえてくる骨の軋み、伝わってくるすべての痛みが脳内麻薬によって打ち消されていく。
ああ、いいね。この高揚感が楽しくて俺はこのゲームをやめられなかったんだ。
相手の剣に合わせて剣を振るう。さっきまでよりも更に強力になった相手の斬撃を一振りで受ける。
受けた瞬間に、鋭い痛みが体をつんざく。
それを厭う事もなく今度は俺の方から斬撃を繰り出す。
渾身の力を込めた一閃。それは軽々と止められてしまう。だが俺は気にすることもなく二、三と斬撃を放っていく。
そこで違和感に気が付いたようで、相手は俺から距離をとるように後方へと飛びのく。
「なんだ? どんどん強くなってる?」
「ご名答」
俺が今自分にかけている魔法は倍加の魔法。体が耐え切れないほどの出力を可能にしているのがまさにこの魔法のお陰だ。
攻撃する度に力が上がっていく。ただし一度防御してしまえばリセットされてしまう。
もう俺に攻撃以外の手段は残されていなかった。
後方に飛びのいた相手との距離を詰めると更に威力が増した攻撃を振るい続ける。
「おいおいこんなの見せられたら俺も本気で行くしかねえじゃねえかよ!」
そう言った瞬間、相手の斬撃が今の俺とほぼ同等にまで膨れ上がっていく。ここまでしてもまだ届かねえのかよ。
「むしろ燃えてきたぜ!」
双方が威力を上げていく。相手の斬撃をスレスレで回避しながら攻撃を繰り出す。
一度でも防御してしまえばこの力の均衡は崩れ去る。
一瞬たりとも気が抜けないその剣戟の中、一つの赤い斬撃が俺の警戒網を抜けて襲い掛かってくる。
「終わりだぜ!」
勝ちを確信した一言が耳に聞こえてくる。
この一撃を食らえば負ける。俺もそれは理解している。勝ちを確信するだろう、俺がもう抵抗できないと分かっているだろう。
だからこの瞬間を
刹那、俺の姿が消え相手の背後へと現れる。
「楽しかったです」
「嘘っだろ……」
振るわれた斬撃は壮絶な破壊力を伴って紅の鎧を突き破る。
魔法を発動してからこれまでに俺が剣を振るった回数は百を超えている。その全てを吸い込んで成長したその一撃は最強の騎士団といえどただでは済まない。
凄まじい衝撃波を伴って吹き飛ばされた相手の体は地面に深い溝を作っていく。
「これで立ち上がれたらバケモン過ぎるし流石に勝ちだろ」
その姿を見送った俺はその場にドカッと倒れこむ。あの魔法を使った代償がデカすぎる。
もう指一本も動かせない。
ボケーッと何もない空間を見つめ続ける。
そういえばここからどう脱出しよう。確か送還魔法を解除しちゃったから帰り方知らなくない?
まあいざとなったら空間魔法でごり押ししよう、そう思っていたその時であった。
「やって……くれやがったな、小僧」
声の方を振り返るとそこには剣を支えにして立っている紅の騎士の姿があった。
あれでまだ立てるなんてどうなってんだよ。おかしいだろ!
「まさか空間を転移できるなんてな。まんまと騙されたぜ。最初の一撃、お前わざと受けただろ」
「……まあそうですね」
空間魔法で不意打ちをするべく温存するために最初の一撃では空間魔法を使って回避することはしなかった。
あそこで使っていたらここまで深手を負わせられなかっただろう。
最上級の騎士とはそれほどに強い存在なのである。何せ、ラスボス相手に主人公と同じくらいしっかり役割を果たすしな。
「でもその感じですと俺の負けみたいですね。俺、もう立てませんし」
「ケッ、何言ってやがる。意識がある時点でお前の勝ちだ……よ……」
ドサッという音が聞こえる。そしてその瞬間、景色があの無機質な試験部屋へと切り替わる。
「君、大丈夫か!?」
「シュバルッ!」
最後にそんな言葉が聞こえてきて俺の意識は途絶えるのであった。
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