老兵 第2話:冒険者に
ドルット。メルシア大陸北部に位置するパルッタ王国の中でも
更に北側に位置する町。
ムース村と交流のある唯一の町で、知名度はそこまでない。
しかし、辺境の地と言うことで魔獣が多数生息する地域が広がっており、
冒険者の間ではそれなりに有名。
儂が一番最初にここに立ち寄った理由は・・・再び冒険者になるためじゃ。
ドルットにある冒険者協会支部はパルッタ王国国内で4番目に大きいと
言われておる。
酒場、鍛冶屋、道具屋、換金所、受付、待合、医務室、訓練場、宿屋・・・
兎に角、何でもある。
そして、昔と何も変わっとらん。外装も、内装も、雰囲気まで。
「おじいちゃん?なんの御用でドルット冒険者協会支部へ?」
儂が懐かしみながら歩いていると、一人の若い受付嬢が丁寧に
話しかけて来てくれた。
口調から察するに、儂のことを初めて冒険者協会に来た老人だと
思っておるようじゃ。
だがまあ、口調は優しく丁寧。顔は・・・まだまだ若いな。
恐らく成人したての娘じゃろう。
なにより、わざわざ受付から離れて儂のところまで来てくれた。
上々上々。世の中に出て1年目にしてこの丁寧さなら、
経験を積めば良い受付嬢になるじゃろう。
ああ、孫も後10年もすればこの娘と同じくらいの年頃になるのか。
まあ、その頃には儂はとうに妻と仲間の下へ行っとるだろうがな!
「おじいちゃん?そんなニコニコした顔してどうしたの?
何か良いことでもあったの?」
おっといかんいかん。歳のせいか、余計なことを考えることが多くなってしもうた。
わざとではないが、お嬢さんのことを無視してしまった。
「いや。冒険者の登録はどこで出来るんじゃったかの?」
儂は優しいお嬢さんの気遣いに甘え、冒険者登録の窓口の場所を聞いた。
「ああ、それならこっちだよ!」
儂の問いにお嬢さんは、そう言いながら儂の手を引っ張って登録用の窓口へと
連れて行ってくれた。
ほっほっほ。こうして手を引っ張られると、孫のことを思いでしてしまうのう。
などと考えておると、あっと言う間に登録用の窓口へと着いていた。
儂は優しく可愛らしいお嬢さんに感謝を述べ、
ポケットから銀貨を一枚出してお嬢さんの手の上に置いた。
お嬢さんは最初は遠慮していたが、儂の感謝の印兼これからの励みにしてほしいと
言うと、素直に受け取ってくれた。
まあ実際は、孫のように可愛らしいお嬢さんを甘やかしたくなっただけ
なんじゃがな。
それはさて措き、早速冒険者登録をするかのう。
「すまん。冒険者登録をしたいのじゃが」
儂がそう言うと、登録用の窓口の受付嬢は、さっきのお嬢さんよりも
手慣れた手つきで色々と説明してくれた。
まず、手数料として銀貨6枚を払わなければならないらしい。
はぁ。昔は銀貨1枚でよかったと言うのに・・・世の中が変わるのは速いのう。
次に、試験を受け、合格者は3日間の講習の後、
冒険者として正式に登録されるらしい。
ここは昔と変わっとらんな。
「冒険者協会のルールや、会費、ランク制度、などについては合格後の講習で詳しい
説明をさせていただきます。・・・他に何かご質問はありますか?」
儂は受付嬢に「最も近い試験日はいつかのう?」と聞いた。
すると受付嬢は「少々お待ちください」と言い、
受付の奥の方へと走って行ってしもうた。
1分くらいしてから戻って来た受付嬢は、
軽く息を整えてから「明日の午後です」と教えてくれた。
儂は受付嬢に感謝の言葉を伝え、ポケットからチップを取り出そうとした
のじゃが・・・。
銀貨どころか銅貨すら見当たらん。
昔、師匠から貰った次元収納(腰袋)を探っても、貨幣は一切見当たらん。
そんな風に困っておると、儂の異変に気が付いた受付嬢が心配して話かけてくれた。
「どうかされましたか?」
う~む。こんなジジイが「いや、お金がなくてのう」なんて言えば、
即座に家族の下へと連れて行かれてしまう。
いや、最悪騎士団の駐屯所へ連れて行かれてしまうかもしれん。
困ったのう・・・あっ!そう言えば、冒険者協会には換金所があったはずじゃ!
(※換金所:冒険者協会で唯一誰でも使用できる場所であり。
魔人・魔物・魔獣の素材を換金できる。
主に、ハンター・騎士団・自警団が活用する。
冒険者も活用できるが、等級(ランク)には一切影響しない。)
(※ハンター:冒険者協会に所属せずに、魔人・魔物・魔獣を狩る存在。
冒険者協会のルールに縛られることなく活動できるが、冒険者協会の施設の使用ができない上、保証を受けることも出来ない。。)
そこでなら、儂が魔大帝討伐時に集めた魔獣の素材を換金できるはずじゃ!
「いや・・・。換金所はどこにあるのかの?」
儂がそう言うと、お嬢さんは一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに笑顔に戻って換金所の場所を教えてくれた。
儂は改めて受付嬢に感謝を述べ、早速換金所へと向かった。
換金所の窓口に立っておったのは、先程、
登録用の窓口まで案内してくれたお嬢さんだった。
「あっ!おじいちゃん!どうしたの?登録は上手くいったの?どうしてここに?」
お嬢さんは、まだまだ子供らしさの残る可愛らしい反応を見せて、
儂に質問攻めをして来た。
孫以外からこういう質問攻めを受けるのは初めてじゃから、
なんだか不思議な感覚じゃの。
まあそれはさて措き、儂は今までの経緯をお嬢さんに軽く話した。
「そうなんだ!でっ?でっ?何を換金したいのっ!」
儂は興奮してピョンピョンと跳ねるお嬢さんを落ち着かせて、
素材の鑑定士を呼んで来るようにお願いした。
お嬢さんは儂のお願いを不思議がりはしたが、素直に鑑定士を呼びに行ってくれた。
そして、数分程待つとお嬢さんと一緒に真っ白な髭を生やした、
偉そうな奴が出て来た。
「爺さん、わざわざ俺を呼び出す必要はなかったんじゃないか?え?」
うむ。見た目通りに高慢な奴じゃ。
それに、そんな立派な白髭を生やしとる奴にジジイ呼ばわりされとうないわっ!
まあそれはさて措き、儂は次元収納から幾つか魔獣の素材を取り出し受付に
置いた。
それを見た途端、高慢そうな鑑定士は驚いた様な顔をし、
続けてポケットから眼鏡を取り出した。
そして、素材を手に取って舐めまわすように見る。
ほっほっほ。それもそうじゃろうな。
儂の置いた素材は全て、儂が魔大帝討伐の途中に倒した魔獣の素材。
つまり1等級の魔獣の素材。相場は金貨1000枚以上。
今置いた素材の総額は・・・ざっと金貨2万枚。
王都の中央街に大きな豪邸を建てても、おつりが返って来るわ!!
などと考えていると、素材を見終わった鑑定士が困ったような顔をした。
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