18、ゆうとは、友だちを家に連れてきたいようです

「というわけで、ゆうとはれんくんを家に呼んで、AI詩を鑑賞する遊びを一緒にやりたいみたいなんだ」


 ゆうとと「学校の行き帰りで見かけた生き物」というテーマで作られた詩を読んで遊んだ日の夜。お父さんは、お母さんにゆうとと話した内容を伝えていました。お母さんは、難しい顔をしてしばらく考え込んでいます。


「一緒に遊ぶのは構わないのだけれど、生成AIを使って遊んでいること、れんくんのご両親はどう思うかな。ほら、最初わたしも、AIは差別的な回答を示してくることがあるから、こどもとの遊びに使うのは少し不安があったし」

「確かに、れんくんのご両親の考えは尊重しないといけないな」


 生成AIの存在が世間に広まり、家庭でかんたんに使えるようになったのはここ数年のことです。取扱いに気を付ければ子どもとの遊びに使えるとお父さん・お母さんが気づいたのはさらに最近です。れんくんの両親が、この遊びを思いついたときのお母さんのような心配を持ったとしても不思議ではありません。


「わたし、れんくんのお母さんにチャットしてみるね。ゆうとが他の家で、生成AIを使った遊びをすることを考えたら、親同士でちゃんと同意をしておいたほうがいいと思うから」

「それがいいかもね。どんな道具でも、こどもにとって悪い影響がないようにうまく大人が使えば問題は起きないと思うが、実際に他人の家で遊ばせるとなると、大人同士で相手の『大人』を信用できるかどうかにかかってくるだろうから」


 お父さんの言葉は抽象的でしたが、お母さんには言いたいことがよくわかりました。いくら、生成AIを「適切に」使えば安全だという知識があったとしても、それを扱う大人のことが信用できなかったら、じぶんの子どもを預けようとは思いません。最終的にゆうととれんくんが一緒に生成AIを使って遊べるかどうかは、れんくんの親御さんがゆうとのお父さん・お母さんを信用してくれるか否かで判断されるのです。


「れんくんのご両親とは、面識があるのか?」


 お父さんは、気づかわしげにお母さんに尋ねました。授業参観や運動会などはなるべく一緒に参加しているお父さんですが、まだまだそれらのイベントは、他の家のお母さんが参加している場合が多いのです。よそのお母さんに話しかけることにちょっと抵抗感があるお父さんは、親同士のコミュニケーションをほとんどお母さんに任せきりにしていました。そのため、「ゆうとの友だちの名前」は知っていても、親御さんのことはよく知らないのでした。

 お母さんはゆっくり頷き、スマートフォンのチャットアプリを立ち上げます。


「うん。ゆうとの一番仲がいい友だちだから、何度か直接話したこともあるよ。何でもお父さんが大手商社の管理職みたいで、すごくお金持ちみたいだね。でも奥さんは気さくな人で、話しやすいからたまにチャットもするんだよ」


 お母さんはチャットアプリの中で、赤い花のアイコンをタップするとザーッと指を走らせます。どうやらそれが、れんくんのお母さんとのチャットのやりとりのようです。会話の内容までは見えませんが、確かに会話が続く間柄であることが感じさせられました。


「そうか。なら、チャットのやり取りで確認ができるってことだね」

「うん。大丈夫だと思うよ。フットワークの軽い人だから、何か疑問点があったらすぐに電話をくれると思うし。順番としては、わたしがれんくんのお母さんに話をしてみて、OKだったら私とお父さん、どっちが半休を取れるか調べる。それで、ゆうとかられんくんにその日遊びに来られるか聞いてもらう。そんな感じで進めようか」


 てきぱきと段取りを指示するお母さんに頼もしさを感じながら、お父さんは頷きます。


「わかった。もし俺が手伝えることがあったら言ってほしい」

「おっけー。しいていうなら、半休を取れるように頑張ってほしい、ってところかな。わたしのところ、今繁忙期だから半休は難しいかもしれなくて」

「善処します」


 お父さんは苦笑いを浮かべました。ただでさえ、男性で時短勤務を許可してもらっている社員は少ないのです。ゆうとのためとはいえ、学校行事などのわかりやすい理由なしに半休をとるのは、少し気が引けるのでした。でも、部長は優しいので、事情を話せばきっとわかってくれるはず。お母さんはれんくんのお母さんに説明をしてくれるのだから、じぶんは部長に説明するのを頑張ろう。お父さんは己にそう言い聞かせて、明日の予定として頭の中にメモしておくのでした。

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