地上最強の傭兵・獣人世界編

薔薇クルダ

第三部 第一章

第1話 始まりの町ソリエン再び

 お待たせいたしました。これが「地上最強の傭兵の第三部「獣人国編」になります。


 人獣戦争の後、中央大陸は獣人の支配する世界となって100年が経ちました。そしてこの世界に復活したゼロの新しい冒険が始まりますがどうなるのか、先行きは不透明のままです。


 復活したミレは、またまだ生きているであろうカラスとカロールとはどう絡んで行くのか。


 ご期待ください。


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一人の男が歩いていた。黒い服の上下に黒いマントを羽織って、頭にはフードを被っていたので顔は良く見えない。


 さほど大きな男ではない。身長は178㌢位だろうか。やせ過ぎもせず太り過ぎでもない。むしろ必要な筋肉が体にぴったり張り付いていると言った感じだ。


 時折風に吹かれてなびくマントから見える左は服の袖が上腕部から揺らいでいた。つまりこの男は片腕だと言う事だ。それも別に気にする風もなく男はただ無造作に歩いていた。


『元の世界に戻るまでにはまだ少し時間が掛かりそうだな。仕方がない、せめてこの腕が元に戻るまでもう少し待ってみるか』


 男が辿り着いたのは獣人国の一つ、キングサルーンのヘッケン州ソリエンと言う町だった。


『この辺りは以前はもう少し活気と華やかさがあった様に思ったが少し変わった様だな』


 男の足はこの町の冒険者ギルドに向かっていた。ギルドの場所はこの男の知る昔と同じ所にあった。


 ドアを開けて中に入るとむっとする熱気が襲って来た。少し荒々しい熱気だ。


 そして予想通りと言うかこの中にはヒューマンは一人もいなかった。


 普通なら怯む所だがこの男は何事もない様に受付カウンターに向かった。


「どの様なご用件でしょうか」


 この辺りのくだりは昔と同じだと思った。それに獣人にしては可愛い顔をした受付嬢だ。ネコ科の獣人か。


「ああ、冒険者登録をしたいのだが」

「初めてですか」

「そうだな、そうなる」


「わかりました。ではこちらにご記入をお願いいたします。代筆が必要ですか」

「いやいい。自分で書ける」


 そして男はすらすらと登録用紙に必要事項を書いて受付嬢に渡した。


「ゼロ様で職業は薬師ですか」

「そうだ。だから薬草採取の依頼でもあれば助かる」

「わかりました。では先ずその前に魔力量の検査をしていただきます」


「まだそんな事をやっているのか」

「はい、魔力量を測っておきませんと依頼を受けるにも危険が伴いますので」

「そうか、仕方ないな」


 そして魔力量を測った結果は魔力量1、つまり魔力量殆どなしと出た。


『やっぱしな。まだ負の因子が残っているのか。あのクソ神め』


「おい、この野郎、魔力量1だとよ。信じられるか。こいつもう殆ど死人じゃねーのか」

「おい、それにこいつはヒューマンじゃねえーか。何でヒューマンがこんな所にいやがるんだよ」


「ヒューマンであろうが獣人であろうが冒険者に成る事に制限はないだろう」

「生意気な事言ってやがるぜ。何ならここで一思いに殺してやってもいいんだぜ」


「お前ら冒険者ギルドの規則は知ってるよな、ギルド内での暴力沙汰はご法度だ。冒険者登録の取り消しになっても良いのか」

「何だと、この野郎」

「やめとけガンズ。そいつの言う通りだ」


「それにな、俺に魔力があろうがなかろうがお前らには関係のない事だろう。俺が魔物に食われて死んだとしてもお前らは気にもしないだろう。なら放って置いてもらおうか」

「確かにこいつの言う通りだぜ。こいつがおっちんじまったとしても俺らにゃ関係のない事だ。むしろヒューマンが死ねば清々するってもんだぜ」


「そうだな。なぁねえちゃん、こいつの冒険者登録を受けてやれよ。いつくたばるか先が楽しみだぜ」

「そ、そんな無責任な事を」

「それじゃーそう言う事で宜しく頼む」


 なんか滅茶苦茶な理由でゼロの冒険者登録が決まってしまった。ランクは勿論最低のFランクからのスタートだ。そしてゼロはまずいつもの様に薬草採取から始めた。


 ゼロが薬草を求めて町の防壁を抜けて外に出て森に向かって歩いていると後ろからつけて来る者が一人いた。


 ゼロには追跡者がいる事はわかってたが殺意がなかったので無視していた。その男はどうやら狼獣人の様だった。


 するとその男がいきなり後ろからゼロを襲った。恐らく羽交い絞めにでもするつもりだったのだろう。


 しかし次の瞬間男は青空を見上げる形になっていた。つまり投げ飛ばされて背中から落とされたと言う事だ。


「俺に何か用か」

「おいおい、人を投げておいてその言い草はないだろう」

「襲って来たのはお前の方だろう」


「確かにそうだがよ、ちょっと気になる事があったんで試させてもらった」

「何を試す事がある。俺は冒険者に成り立てのFランクだぞ」


「どこがFランクだ。俺はこれでもDランクだぞ。その俺を投げ飛ばしておいてFランクだと、冗談もほどほどにしろよ」

「冗談も何もFはFだ」


「確かにな。いや、そうじゃなくてだな、お前の態度がでか過ぎるんだよ」

「何がでかいんだ」


「あのなーよく聞け、初めてこの町にやって来て、しかも初めて冒険者ギルドに登録すると言う新米冒険者が古株の冒険者に喧嘩を売るか。しかもお前はヒューマンだぞ」

「別に喧嘩を売ったつもりはないが、それがどうかしたのか」

「あのなーお前、状況を理解しろよ。お前は狙われてるんだぞ」


「誰が俺を狙うんだ」

「決まってるだろう。さっきいちゃもんを付けてたやつらだ。あいつらはここいらじゃちょっとした問題児でな。新人潰しとも言われてる」

「何処にでもいるゴク潰しだな」


「しかしお前、よくそんなでかい態度でいられるなこの獣人の町で」

「獣人の町だろうがヒューマンの町だろうが馬鹿は馬鹿だろう」

「おいおい、まったくお前と言う奴は恐れと言うものを知らんのか。ヒューマンが一人でのこのこと獣人の町に来たら普通はビビルだろう」

「そうなのか」


「そうなんだよ、わかってるのかお前は」

「俺には獣人もヒューマンも興味はない。ただ依頼を達成するだけだ」

「そうかい、じゃーまぁ気を付けて行くんだな」


 とは言ったものの、どうしても気になるのでその狼男は陰からゼロの後をつけていた。すると予定通りと言うか、町が見えなくなった所で例の3人組が現れた。


「ようヒューマン、まだ生きてる様だな」

「生きてるも何も、まだ何もしてはいないが」

「そうかい、ならこの辺りで一度死んどくか」

「俺は最近生き返ったばかりでな、まだ死ぬ気はないんだが」

「何を訳の分からない事を言ってやがる、死ねや」


 そう言って殴りかかって来た男の右手首を捕ってゼロは投げた。すると男はまるで重力が増加したようにその場にグシャと叩きつけられて動けなくなってしまった。


「このやろう、よくもやりやがったな。ぶっ殺してやらー」


 残りの二人が剣を抜いて斬りかかって来たがゼロにはかすりもしなかった。そして振れば振るほど腕に重みがかさみ男達の動きが鈍くなって来た。


「こいつ、どうなってやがる。確かこいつは片腕だったよな。それに武器も持ってねー。たかがヒューマンなのに何故倒せねーんだ」

「武器は持ってなくても二本の足は健在だぞ」


 そう言ってゼロは片足ずつで男達を蹴り飛ばして行った。それだけで男達は二度と起き上がって来る事は出来なかった。しかしゼロとしては珍しくまだ殺してはいなかった。


 その代わりゼロは辛うじて意識のある2人に威圧を掛けた。男達はぶるぶると震えてもう二度とゼロの前に顔を出す事はないだろう。


『やっぱりあいつただもんじゃねーな。面白れ―』


 ゼロが今いる所はかってヘッケン王国があった国のソリエンと言う町だった。今でも町の名前はソリエンだがヘッケン王国ではなくヘッケン州となっていた。


 この呼び名はゼロがとある国の区分けを真似てゼロマに教えたものだった。ゼロマはそれを使った様だ。


 ただ町全体が少し退廃した感じになっていた。以前ここでは穀倉類もよく取れたのだが今ではそれに従事する者がいないそうだ。だから町も荒さが目立ってしまう。


 そして冒険者達が闊歩する町となっていた。無論この町は昔から冒険者の活動は盛んだったがそれなりに普通の暮らしとのバランスが取れていた。


 しかし今はそれがない。荒々しさだけが目立つ。これも戦争の後遺症か。


 ゼロに取ってこの町は始まりの町でもあった。ゼロがこの世界に落ちてきて始めて居ついた町、それがここだった。


 そしてこの町の後方に広がる広大な森、「返らずの森」は今でも健在だ。それだけが唯一の救いになっていた。


『懐かしい森だ、これがあればまだ助かる』


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 やっと「地上最強の傭兵」の第三部が始まりました。


 再びゼロの冒険が始まったのですが、今回は獣人の支配する世界での活動となります。ヒューマンの世界との違い、ゼロは今度の旅をどうこなして行こうとしているのか。

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