021:機械少女の初体験


 スペンサー少佐の華々しき登場の後、ピースは余りに狭いコクピットからすごすごと這い出した。


 一応、両手を頭上で組んで敵意ないことを主張していたが、余りに卑屈にすぎたのか捕虜だと思われ、連行されかけた。


 それをスペンサーが呼び止めて曰く。


「彼女は私の協力者だ。同時に、入隊希望者でもあるらしい。身柄は私が保証する。他組織からの来客プロトコルに則って、対応して欲しい。NAWについては彼女の同伴の元、検閲すること」


 かなりの我儘だと、ピースは思ったが、担当の兵士は敬礼し、内容の概ねを了解した。


 最後の検閲内容については、NAWの装備及びパーツの脱着を認めないというところで落ち着いたようだ。交渉をまとめる事にかけて、少佐殿は全く持って一流である。


 そして、スペンサーはこう言い残して、例の歩兵と共に管制塔らしき建物へと向かった。


「話を付けてくる。出来る限りの報酬を引っ張ってくるつもりだ。楽しみにしていて欲しい。それまで、キング特務一等兵と行動を共にしてくれ。整備ドックぐらいは見学させてくれるかもしれない」


 スペンサーが紹介した兵士は愛想の良い微笑みで迎えてくれた。


 キング特務一等兵。

 糊の効いた軍服に身を包んだ年若い少年で、髭の一本も生えていない。


 物腰は柔らかで、小麦色の肌と黒目がちな目が特徴的だ。首には溶接ゴーグルが掛かっていて、どう見ても不釣り合いである。

 訝しげにその手のひらを見てみると、火傷や油のシミが付いている。


 恐らく、暇を持て余していた整備兵をそのまま来客対応用に仕立てあげたのだろう。


 ピースもこれ以上なく愛想良く微笑んで見せる。


「初めまして、ピース・ランバートです。第五空白地帯で鉄屑漁りをやっていました。今年で17歳のサイボーグです」


 滑らかに動く義肢を前に差し出し、握手を求める。


 対して、キングは少しばかり動揺してそのゴーグルを決まり悪そうにいじりながら対応した。


「ようこそ、101前線基地へ。全身機械義肢の方なんて初めて御目にかかりました…」


 彼が言わんとする事はよく分かる。


 機械技師への神経直結が成功する確率は低く、それを何度も繰り返すのは魂をベットしてブラックジャックを繰り返すのと大差ない。

 狂人と思われても仕方ない。

 

 しかし、それを表に出すこの少年は、腹芸が板に付いていないとも言えるだろう。


「そこまで畏まらなくて良いですよ。年も私の方が下でしょうし」


「その、僕の方が年下です…」


本当マジ?」


 ピースは敬語を使えなかった。


 それは彼女が知り得る限り、人生で初めての事だった。

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