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虎次郎は廊下を歩いていた。廊下はとても静かだ。誰も歩いていない。だが、始業式の日になると、多くの生徒が歩いて、賑やかになるだろう。そう思うと、これからの新しい人生に期待が膨らむ。
今度は校長に挨拶をしないと。校長はどんな人だろう。怖いんだろうか? 優しいんだろうか? 優しい人であってほしいな。
虎次郎は扉をノックした。
「はい」
虎次郎は扉を開いて、校長室に入った。そこには50代の白髪混じりの男がいた。この男が校長のようだ。見た感じ、優しそうだな。
「失礼します。今日からこの学校に着任しました、杉村虎次郎と申します。よろしくお願いします」
と、校長は名前に反応した。虎次郎の事を知っているようだ。虎次郎は驚いた。この人は、僕を知っているんだろうか?
「杉村、久しぶりだな」
と、虎次郎は思い出した。高校の頃の担任だった、滝本春貴(たきもとはるき)先生だ。まさか、ここの校長をしているとは。ここは親戚だらけだな。
「滝本先生!」
だが、虎次郎は気づいた。ここでは校長先生だ。どうしよう。校長先生と言わなければならないのに。
だが、滝本はあまり気にしていないようだ。笑みを浮かべている。
「でも、今は校長だけどな」
「そうなんだ」
どうやら許してくれたようだ。それよりも、久しぶりに虎次郎に会えて嬉しいようだ。
「でも、杉村、昔と変わってないなー」
「そうですか?」
虎次郎は照れた。あれからかなり変わったのに。どうして変わってないと言ったんだろう。全くわからないな。
「まぁ、再び会えて、嬉しいな。これからもよろしくな」
滝本は立ち上がり、虎次郎の肩を叩いた。とても期待されているようだ。そう思うと、これから頑張って、みんなの期待にこたえなければと思えてくる。
「うん」
だが、虎次郎は浮かれない表情だ。本当にここでやっていけるんだろうか? 不安だらけだ。元プロサッカー選手で、英語が得意なだけでやっていけるんだろうか?
「どうしたの?」
滝本は不安になった。どうしたんだろう。何か不安でもあるんだろうか? あるのなら、気軽に言ってみてよ。
「い、いや、何でもないよ」
だが、虎次郎は何も問題ないと言う。弱音を吐いてはだめだ。弱気は最大の敵だ。常に強気で頑張っていかないと。
「そっか」
滝本は笑った。初めてやって来て、緊張しているのだろう。誰だって、最初は緊張するものだ。だが、やっていくうちに慣れてくるだろう。
と、滝本は思った。せっかく新しい先生がやって来たのだから、今日は歓迎会でもしようかな? この近くの焼き鳥屋で飲み会を開けば、気持ちが和らぐだろうから。
「今夜は飲もうかな?」
すると、虎次郎は少し気持ちが和らいだ。まさか、新しく入っただけで、飲み会に誘われるとは。なかなかいい所だな。緊張しているけど、ここで皆と飲んで、意気投合できればいいな。
「いいじゃん、行こう行こう!」
虎次郎の嬉しそうな表情を見て、滝本も嬉しそうだ。どうやら気に入ってくれたようだ。早く連れて行かないと。
2人は廊下を歩いていた。今日の飲み会の事を、職員室の先生にも伝えないと。きっとみんな、喜ぶだろうな。
2人は職員室にやって来た。滝本の姿を見て、先生はみんな注目した。校長があまり来ることはないからだ。
「よーし、今日は新しく着任した先生の歓迎会だ!」
そこにいた先生は驚いた。まさか、今日は歓迎会になるとは。突然の知らせだが、とても嬉しい。虎次郎がやって来ただけで、こんな事があるとは。
「いいじゃん!」
「杉村先生、いいでしょ?」
「うん」
虎次郎も乗り気だ。僕のために、本当にありがとう。
「じゃあ、駅前の『鳥まる』で歓迎会しようじゃん! 俺、予約しとくから」
「ありがとうございます!」
滝本は職員室を出ていった。飲み会の予約をしに行ったようだ。滝本が出た後、生徒のいない職員室は大盛り上がりだ。飲み会の話だからだ。生徒の前では、飲み会の話はしないようにしている。子供にはあまり話したくないようだ。一部の生徒はこの時間帯、部活の練習をしていて、職員室にいない。または、春休みで家にいるか、友達の家にいる。
校長室に戻ってきた滝本は、机にある電話の受話器を取り、テンキーを押した。これから予約したい居酒屋に電話をするようだ。
「もしもし、鳥まるさんですか? 私、滝本春貴といいますが、午後6時から4人の予約、大丈夫ですか?」
「はい、いいですよ」
「ありがとうございます」
予約を取る事ができた。今夜は飲み会だ。今年1年頑張れるように、そして虎次郎が来たのを祝おう。
しばらくして、職員室に再び滝本がやって来た。再び、先生は滝本に注目した。
「みんな、予約取っといたからね」
それを聞いて、みんな喜んだ。急の予定だけど、予約はうまくいくんだろうか不安だったが、うまくいったようだ。
「ありがとう。楽しみだな」
だが、滝本は残念そうな表情を見せた。行けない人もいるようだ。
「村山先生は子供がいるから、だめだよね」
村山は子供がいるから、行けないようだ。どうやら、子供がまだ小学生のようだ。
「うん。ごめんね。息子の事があるもんで」
村山は残念そうだ。本当は行きたいのに、子供の事があるので、ここ最近はあんまり飲み会に行った事がない。だけど、それは子供のためだ。
「いいよ。子供を大切にするって、いい事だもんね」
「うん」
滝本は職員室を後にした。
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