第17話:初めてのデート2
話し合いの末、今日はゲームセンターに行くことになった。
乗り換え駅の近くにある大型デパートに足を運ぶ。ここにはレーシングゲームやシューティングゲームなど多種多様のゲームがあった。
最初に行ったのはクレーンゲームだ。安藤さんのお気に入りのキャラがぬいぐるみ化されていたので、二人で挑戦した。
「やったー!」
三回目にしてコツを掴み始め、五回目で取ることができた。
安藤さんは受け口からぬいぐるみを取り出すと、両手で持ちながらジャンプする。本当に欲しかったのだろう、大層嬉しい様子だった。
「最上くんは何か欲しいものとかある?」
「いえ……特には……」
僕の部屋には置物なんて一つもない。ぬいぐるみを一つ置いてもなにも変わらないどころか、寂しそうな感じさえしてしまう。
「遠慮しなくていいのに」
安藤さんは僕の答えに不満のようで唇を尖らせる。
自分だけ得をするわけにはいかないみたいだ。
「別に…遠慮なんて……」
そうは言いながらも視線を巡らせ、何か欲しいものがないか考える。
「あっ! では、一緒にあれをやりませんか」
「どれどれ?」
安藤さんは僕の指差した方を見る。
そこには『モリオカート アーケードグランプリVR』の文字がある。
VR版のモリカ。
コンシューマーゲームでは三人称視点でレーシングゲームを行う。だが、VRでは一人称視点でレーシングゲームを行うため、本物さながらのレースを楽しむことができるみたいだ。
「へぇー、面白そうだね! やろう!」
安藤さんはそう言うと、僕の手を握って走り始める。彼女の手は小さく、ほんの少し冷たかった。
まさかこのタイミングで手を繋がれるとは。ぬいぐるみが取れたことに高揚して行動が大胆になっているに違いない。
「着いた! 空いてて良かった……ね……」
僕の予想は当たっていたようで、安藤さんは僕に微笑みかけると、自分の手を見て瞳を大きくした。
「ご、ごめんね!」
すぐに手を離し、両手を上げる。まるで拳銃を突きつけられたみたいだ。
「別にいいですよ。恋人同士なんですから」
「っ! そうだね。ありがとう」
大きく開いた瞳を潤わせ、柔らかい笑みを浮かべる。
昨日とは打って変わって笑顔の多い彼女の姿はとても魅力的だった。
少しして僕たちの番がやってくる。
ゲーム内のキャラたちが使っている一人乗りの小さい車。それに座ってVRゴーグルをかける。すると、ゲームセンターを映し出していた視界は瞬く間に別の場所へと様変わりする。
「うおぉ!」
見えるのは常夏の海岸。
目の前には見覚えのある白と黒のチェックのラインが引かれている。ぐるっと顔を左右に向けると車に乗ったキャラクターたちを横から見る形になる。
僕は本当にモリカの世界に来てしまったようだ。
刹那、スタッフがゲームスタートの合図をする。
それと同時に、右側に信号を持ったキャラクターが現れた。聞き馴染みのある音を聞くと、自然にアクセルを踏む。
いつもプレイしていた甲斐あって無意識にスタートダッシュを切ることができた。ただ、いつもと比べて、視点、操作、態勢が違うため思うように走ることができない。
「おっと!」
ジャンプする部分に差し掛かると、それに応じて乗っていたカートが前のめりになる。さらに、アイテムの攻撃を受けるとカートは横揺れを起こす。
キャラクターたちはこんなにも壮絶な戦いをしていたのか。
僕はいつもやっているゲームをより身近に感じることができた気がした。これはクセになりそうなゲームだ。
「はぁ……」
4レースを終え、VRゴーグルを外す。
バーチャルの世界に馴染んだことによって、ゴーグルを外しても現実に戻ったようには感じられなかった。視界がクラクラする。
僕は全てのレースで一位だった。伊達に毎日プレイしているわけではない。
「楽しかったね!」
ゲームを終え、コーナーを出たところで安藤さんが感想をもらす。瞳をキラキラと光らせていた。僕だけでなく、彼女もまた大いに楽しんでくれたようだ。
「VRって初めて体験したけど、あんなにリアルなんだね。モリオの世界に本当に行ってしまったかのようだったよ」
「ですね。僕もVRのモリカは初めてでしたが、すごく面白かったです」
「ふふっ。最上くん、今すごく楽しそうだね」
安藤さんは僕の顔を見て微笑む。僕が彼女の楽しんでいる姿を見て嬉しくなるのと同じで、彼女も僕が楽しんでいることを喜んでいるみたいだ。
何だか本当にカップルっぽいな。いや、カップルなんだけど。
「じゃあ、次はあれやろ!」
そう言って、僕の腕を持って右方向に回転させる。
見えたのは、血で塗ったような字で書かれた『脱出病院』の文字だった。
「ホラーVRですか?」
「うん。私、ホラーが結構好きなんだよね。さっきのようにほ本物さながらに楽しめるんだったら、絶対面白いと思うんだよ!」
「それは同意ですけど……」
つまり、お化け屋敷のようなゲームということになる。
僕は安藤さんと違って怖いのはあまり得意ではない。色々なことに気を取られ、精神が擦り減るのだ。
「もしかして怖いの苦手?」
僕の感情を読み取るように、安藤さんは訝しげな声をあげる。
「そ、そんなことないですよ」
強がって惚けるように答える。
「じゃあ、行こっか!」
僕のリアクションを見た安藤さんは不敵な笑みを浮かべると、僕の片手を両手で握り締め、半ば強引に連れて行こうとした。僕は彼女にされるがままに『脱出病院』のある方へと引っ張られる。
そうしてプレイした『脱出病院』は、失神してしまいそうになるほど恐ろしいものだった。
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