レストランエドヤ
「──はい、そういったわけでですね、このミソ! モリーさんのところと提携して開発致しました。ほら、ライスはお肉やカレー、ドリアにプディング以外でどうやって食べるのー? なんて悩んでおられる奥様方もいらっしゃると思いますが、ただ炊いたライスを握って、ミソ塗って焼くだけでこの香ばしさ! この味わい! そしてちょっと砂糖で甘みをつけて、肉や魚を漬け込んで焼いたらもう、ライス何杯でもお代わりできる絶品のおかずになるんですよ。そして新発売キャンペーンで通常七百ガルが今回は五百ガルでご提供でございます。買うなら今が一番お得です!」
味噌焼きおにぎりは試食で出しやすい。何といっても食べやすい。
そして味噌漬けの豚肉も、焼いた時の味噌の香りにジューシーな肉の脂が加わって、これまた食欲そそりまくりである。
どちらも試食は大好評で、用意していた味噌二百瓶は早々にはけた。
前回のカレーで『エドヤ』の名前はある程度認知されたようで、前よりもお客さんは集まっていたし、俺の害のない笑顔と軽やかな話っぷりに買う予定もなかった味見だけの人も買わせたのは大きい。これで購入した人がリピーターになってくれたら御の字である。
瓶詰の瓶のお金も加わるので、三百グラムで七百ガルとカレー同様に少々お高い価格だが、まあそんなに大量に使うのでなければ割と使いではあると思う。
「いつものトマトスープや塩味のスープに飽きた時にはミソスープにもできますよー。クズ野菜でも何でもどんどん入れちゃってください、野菜のいいダシが加わって一層美味しくなりますからね」
笑顔で見送り、モリーの店の前の試食コーナーをジェイミーと片付ける。
モリーは午前中からどこかへ出かけてしまったし、モリーの店は、
「僕がが店番してるので、帰りの土産でも見てきたらどうですか?」
とジェイミーに勧められた。
昼寝しているジローたちが起きたら、市場の方でも行ってみようかなどと考えていると、モリーが店に戻ってきた。
「あ、モリーさんお帰りなさい」
「母さんお帰り」
「ああ、ミソの試食販売はもう終わったのね。ちょうど良かったわ。ジェイミー、店は今日は閉店でいいわ。二人に大事な話があるのよ」
「え?」
モリーはそう言ったかと思うと、扉についてるプレートを『CLOSE』にひっくり返した。
少々鼻息の荒いモリーに俺とジェイミーが「???」となりつつも、店じまいをして奥の居住エリアに入る。
アイスティーを運んできたモリーにお礼を言い、ジェイミーと三人でキッチンのテーブルに座る。
「あのね、ちょっとお隣さんと話をしてきたのよ。カフェの件で」
「え?」
モリーがお隣のご夫婦と話したところ、思った以上に好条件だったとのこと。
あのカフェはまだサッペンスがここまで町が大きくなる前に買った店なので、当時で二千五百万ガルだったこと。すでに分割で払いは済んでいるが、買ってからもう二十年以上経っている。
当然あちこち建物の修繕が必要なこともあって、多少の値引きは考えていたとのこと。
「でね、ここからが重要なんだけど」
とモリーが話してくれたのだが、不動産業者に頼むとやたらと時間とお金がかかるのだそうだ。
少しでも商品価値を高めるために、リフォームやら不具合を直してから売るためらしい。
だが、双子の孫の世話という急ぎ案件がある彼らは、そんなに悠長にしてはいられない。
できるだけ早くルルガに向かいたいのである。
「だから、もう長い付き合いだし、もしモリーが買ってくれるなら一千万ガルでいい」
と言われたそうなのだ。
「……それは破格ですね」
修繕が必要ということだし、内装工事も含めて数百万ガルはかかるかも知れないが、それでもこの立地でその値段は激安である。
「そうなのよ。──で、私が買おうと思うの。ジェイミーもいつまでもうちの店番するだけでなく、独り立ちもして欲しかったし、こんな条件で買える物件滅多にないもの」
「おお! おめでとうございます」
俺が買えなかったのは少々残念だが、まあこれもご縁だ。
「僕が店長ってこと? 母さんそんな急に……」
ジェイミーは驚いているが、嫌がっている様子はない。
隣同士で親子で商売ってのもいいよね。家族仲がよいってのは素晴らしい。
「それで、オンダにもぜひ協力して欲しいのよ」
「私が?」
「ええ。あなたの国の料理をメインで出したいのよ。もちろんライセンス料は払うわ。どうかしら?」
ジェイミーも料理については子供の頃からやっているので、調理については不安はないそうだ。
最近の新しい調味料、カレールーやミソ、そしてこれから出る予定のショーユなどを広めるためには、ある程度のクオリティーで食事が提供されていた方が都合がいいし、売り上げも上がる。俺もモリーの店もWINWINである。
「なるほど、そういうことですか……」
俺はアイスティーを飲みつつ少し考え、提案する。
「モリーさんには日頃お世話になってますし、料理のレシピは教えます。提供スタイルについてもサポートします。ただライセンス料は要らないのですが、一つだけお願いがあります」
「お願いって?」
「店名に『エドヤ』の文字を入れて欲しいんです。私はエドヤの知名度を上げて、商品が売れるようになってくれたらそれでいいので」
俺はフランチャイズ展開を考えていた。
今後ホラールや王都ローランス、ルルガなど別の町でも店を開きたい。エドヤの商品を売りたい。
最終的に調味料が広がってくれて、うちの商品が売れればそれでいいので、ライセンス料など別に要らない。だいたい俺が知ってるだけでオリジナルで考えた料理でもないし。
エドヤの名前を使うので、オーナーが教えた味だけは大きく崩さずに運営してもらえるだけでいいし、自分が管理しなくていいのは大きなメリットだ。
勝手に宣伝してくれて、美味しければ調味料も売れる。
うちの便利グッズや美容品もついでに売れる。そらもう万々歳である。
「レストランエドヤ、とかそういうので構わないの? 本当にそれだけでいいの?」
「構いませんよ。その代わりといってはアレですが、今後とも調味料の開発よろしくお願いします」
「そんなのこっちからお願いしたいぐらいだけど……オンダは欲がないのねえ」
モリーが呆れたような顔で俺を見た。
「いや欲まみれですよ。私もジローたちを養わないといけないですし、店も繁盛させたいですから」
結果的に店の調味料の売り上げに繋がるのだから、無欲とは言わないだろう。
ただジェイミーに料理を作ってレシピを教えたりするには、少々時間がかかる。
俺もいつまでもサッペンスに滞在していられないのだ。
「レシピの件ですが、私もホラールを長く不在にするわけにはいきませんので、一週間か二週間ほどレシピ習得でジェイミーにホラールに来てもらうことは可能でしょうか?」
「まだショーユも出来上がらないから時間はあるし、カレールーや瓶詰の処理で今は二人のパートの女性も雇っているから、私の店の方は全然問題ないけど、ジェイミーはどう?」
モリーがジェイミーを見ると、彼は笑顔で頷いた。
「オンダさんの作るもの全部美味しいし、覚えるの楽しみだよ! 母さんの店の売り上げにも貢献できるだろうし、人付き合い苦手な僕も、いつまでも店の手伝いだけってわけにもいかないからね」
「まあジェイミーったら大人になって。母さん本当に嬉しいわ」
モリーが目を潤ませて彼を抱き締めていた。
翌日、俺はうちの子たちとカレールーに瓶詰ミソを抱えてホラールに戻った。
数日遅れてジェイミーもホラールにやってくるが、どうせ教えるついでである。
ホラールでフランチャイズに協力してくれるところはないか、マニュアル作成してくれる人はいないか、とアマンダとジルに相談することにした。
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