釣る人
雑貨屋少女はしばしば魚を仕入れて店で売る。
そのため、魚に関してはそれなりに明るい。
上がった魚を見ているとシエリアの前に男性がやってきた。
つばの大きい麦わら帽子に、ポケットのたくさんあるジャケット、下はハーフパンツを履いていた。
色黒でなかなかワイルドな印象の青年だ。
「…俺のパートナーになってくれ」
「⁉」
シエリアは思わず飛び
「そそそ、そんないきなり!! ま、まずはお友達から……」
男性は
「…何を言ってる。釣り大会にでるから手伝ってくれと言っている」
「は?」
少女も同じ表情をした。
「ヴィッカーだ。よろしく頼む。それで、頼みなんだが…」
どうやら青年は単なる依頼で来たらしい。
「セポール釣り大会の二次を抜けた。次は決勝だ」
シエリアは素直に感動した。
「すごいじゃないですか!! 優勝を狙っていけるのでは?」
だが、青年は首を左右に振った。
「大会規則を読まなかった俺が悪いのだが、決勝はパートナーがいないと参加できん。他の連中は早々と仲間を見つけたようだが、ぼっちの俺には厳しすぎてな」
そう言いながら彼はうなだれた。
見た目に反してあまり対人関係が得意でないらしい。
「俺が1人で釣るから腕前は一切問わない。死ぬほど勇気を出してあんたに頼みに来た。これでぼっちとは言わせない!! 頼む、俺と大会にでてくれ!!」
なんだか彼が
話を聞く限りは大して難しくなさそうだったので、シエリアは依頼を受けた。
「わかりました。一緒に大会に出ます。やるからには優勝しましょう!! で、大会はいつですか?」
「明日だ」
「えぇ……」
依頼人は気まずそうだ。
「ギリギリまで決断できなかった。すまない……」
また厄介な話になってきた。
だが、勇気を出して頼み込んできた彼の気持ちを
その足で彼らは会場のシュレイン湖の下見にきた。
青年はボートを出すと器用に
釣り竿は本格的で、シエリアが見たこともない機構をしていた。
「うわぁ…!!カッコいいなぁ!! 私の分もあるんですよね?」
「ない」
そう言って彼が手渡してきたのはただの
「この高度な釣具はあんたには扱えん。この
シエリアはくちをとんがらせながら、ウキのついた餌を水面に投げた。
なんでも決勝は釣った数を競うらしい。
この日、なんだかんだで彼女は2匹釣ることが出来た。
ビギナーズラックというやつである。
大会当日、シュレイン湖の岸辺には多くギャラリーが集まっていた。
セポール市民は
なんとも
そういうわけで、釣り大会の会場にはかなり人が集まっていた。
女性アナウンサーが解説を始める。
「はーい!!セポール釣り大会決勝、はっじまるよ〜!! ルールは簡単。2時間の間に2人1組で出来るだけ多く釣ったチームが優勝です。サイズ、ボウズは関係なしで〜す。とにかく釣っちゃって〜!!」
こうして大会開始の花火があがった。
開始直後にヴィッカーは岩場のそばにつけた。
「ここの深みは穴場だ。いくぞ!!」
「はい!!」
ヴィッカーは30分ほどで5匹を釣り上げた。
一方のシエリアはまだ1匹も釣れていない。
ただ、全体的にはなかなか良いスコアである。
このペースで青年が釣れば優勝も狙える。
その時だった。彼がボートの上にしゃがみこんだのだ。
「ヴィッカーさん!!」
異常を感じてシエリアが近づくと、彼はとても苦しそうだった。
「くそっ……船酔いだ。おえっ…昨日、緊張で……ううっぷ。一睡も…できなかった。睡眠不足は乗り物酔いの天敵……俺としたこ…おええ!!」
「ムリしないで、安静にしてください。私がヴィッカーさんを優勝させてみせます!!」
青年は力なく笑った。
「フ……言ってくれるォエエ!!」
だが、時間ばかりが過ぎていき、残り30分を切ってもシエリアは1匹も釣れていなかった。
苦しそうにヴィッカーはつぶやいた。
「ランカーは8匹は釣っているだろう。これではもう勝ち目がない。すまなかった……いや、ありがとう。夢を見させてもらったぜ……オオウッ!!」
シエリアはボートの上でバタバタし始めた。
彼女のカバンから"リッチなふ菓子"が転げ落ちる。
「うわああぁ!!ムリだよあと30分で4匹なんて!!私1人でできるわけないよ!!どぉしよぉ〜〜!!」
雑貨屋がドタバタしたせいで、袋の中身が粉砕された。
更に、身体でつぶされた袋も破裂して吹き飛んだ。
シエリアがうなだれて絶望していると青年が叫んだ。
「おい!!見ろ!!おまえのふ菓子に魚が群がっているぞ!!」
水面を覗き込むと大小様々な魚影がみてとれた。
「こいつぁたまげた。
こうしてヴィッカー&シエリアペアは残り30分で
そして大会は終わり、結果発表となった。
「2位のトルトル&アットンのペアは9匹です!!そして1位はヴィッカー&シエリアの13匹でしたーーッス!!」
観客たちは声援と温かい拍手を送った。
優勝チームには来年の決勝参加券とトロフィーがもらえます!!
舞台袖から縦に長い像が出てきた。ムッキムキの男性がワイルドに魚を釣っている。
「は〜い。ギュースト・ロデンの"釣る人"です。"魂のこもった"トロフィーです!!おめでとう!!」
こんなものをもらっても困るなぁとシエリアが思っていると、ヴィッカーも同じことを考えていたのか先手を打ってきた。
「この大会はおまえのおかげで勝てた。その証に、この像をもらってくれ!!」
気づくとシエリアは両手でトロフィーを抱えさせられていた。
大会終了後、青年は他の参加者と楽しげに談笑していた。
その姿を見るに、自分をぼっちと称していたのが嘘のようだった。
依頼がきっかけになってくれたのなら本望だなと思いつつ、少女は店に帰った。
もらったトロフィーは重くはないが、非常にデカい。飾るところに悩む。
とりあえずシエリアは像を店の奥においた。
どこに置くかと眺めていると、毎日少しずつ向きが変わった。戻しても変わる。
「あれ?おっかしぃなあ。動かして無いんだけどなぁ……」
怪奇現象に鈍い少女はいたちごっこだと像を放置した。
気づくと"釣る人"は"居なく"なってしまった。
しばらくしてセポールのあちこちの水場で謎の像が目撃されるようになったのだった。
……ヴィッカーさんはもう、ぼっちじゃないと思います。めでたしめでたし。
"釣る人"さんは戻しても戻してもキリがないので放任主義にしました。
いつのまにか無くなってしまったので、物好きな人にが持っていってしまったのかもしれません。
いくらなんでも、独りでに像が歩くなんてありえないですし……というお話でした。
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