ケガのいらぬ功名

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ケガのいらぬ功名

私は自転車の荷台にスカートを整えて横座りすると彼の腰にキュっとしがみつく。

「くすぐるなよ?マジ事故るから」

「ばーか。……そんな余裕ないよ」

「それもそっか。じゃ、行くぞ」

「……うん」

そしてゆっくりと二人が乗った自転車が、始めはヨタヨタと動き出す。

私は落ちないように、それに重心がブレて彼の運転を邪魔しないように彼の背中に顔を埋めてしがみつく。

ノーヘルの私は、耳が彼の心臓に密着する。

こんなの相談できない。言葉にすらできない。

ドクンドクンと、それは熱を持って脈動する。




「っっっっっっっ!!!」

上の空だった私は、降りてた歩道橋の階段を一段踏み外した。

もうだいぶ下った後だったので、階段を転がり落ちる経験はしなくて済んだものの。

変な足の着き方をしたのだろう、右足首がジンジンする。

嫌な予感がしたので、皮を撫でるように足首に触れると熱があるし、気持ち膨らんでいるような?

私は嫌だな嫌だなと思いながらも好奇心に負けて立ち上がると右足に体重を掛けた。

かはっ、と変な空気の漏れ方がした。

私は再びしゃがみこんで足首を抱える。

……あーもう、どうしよう。バス停までまだ距離がある。

ここで蹲っててもラチが空かないし。バスを乗り過ごしたらこの足のまましばらく待つことになる。

保険証は家だし。頑張って帰らないと。

私は意を決して立ち上がると、ヒョコヒョコと、右足を刺激しないように歩く。

でもどうしても痛いものは痛い。


キィーッ。


ブレーキ音を立てて、私の目の前に一台の自転車が停まった。

「何やってるんだよ、お前?」

「どうにも、ヘマやらかしちゃってね」

私は脂汗をかきながら軽口をたたく。彼は視線を私の足首に落とす。

「えっち」

「めっちゃ痛そうだぞ?」

彼は私の茶目っ気には乗らずに普通の反応を返している。目と声には気遣いが見え隠れした。

「そこそこね。もうバス来ちゃう。急いでるから、またね」

「いや、そのペースじゃ絶対無理だろ?乗れよ」

「え?」

彼は自転車の荷台を指差した。

「乗れよ?家でいいんだろ?ほら、早く」

「いや、でも……怒られちゃう」

「ま、緊急事態だ。でも、おまわりさんに見咎められたら……その時は一緒に怒られてな?」

そう言ってニカっと笑う。

「じゃ、乗れよ?」




相談を持ち掛けられたのは、今日の放課後のことだった。

「ねえ、ぶっちゃけどういう関係なの?」

と、一人でいるところに級友二人が声を掛けてきた。

「普通に友達だけど?え、なんで?」

「いや、一番仲良いのあなただしさ。どうなのかなって……この子がさ、好きなんだって」

半歩後ろにいた彼女がモジモジしながらコクリと頷く。

正直二人とはあまり親しくないので良く知らないが、その引っ込み思案の彼女は女の子女の子していて可愛いらしいと思った。

ぶりっこ、なのか本当に大人しい性格なのか分からないが、私には絶対マネができないタイプだ。それだけに正直羨ましく思う。

その彼を好きらしい彼女が口を開いた。

「だから、どうなのかなって。実は内緒で付き合ってたりしないかなって。

だからって諦められる訳じゃないけど、だから探りを入れてみたんだ。でも、何でもないんだよね?」

その内容にタハハと苦笑いを浮かべる。どうやら、可愛らしいだけではないらしい。仲良くなれそう、と少し思った。

「もう、それ探りじゃないから?ド直球に聞いてるから。……うん、ただの友達。だから好きにしたらいいよ。応援は……まあ、あまり器用じゃないから期待しないで欲しいけど」

その私の返事に彼女は控えめに微笑む。

「うん、それだけで充分だよ。教えてくれてありがとう」

そう言って彼女らは去って行った。


「さて、帰るか」


私は下駄箱で靴を履き替えると帰路につく。

なんだかどこかに寄っていく気分でもなくなったので真っすぐにいつものバス停に向かった。

しかし、あいつにも好意を寄せてくれる女子が遂に現れたか。

アレのどこがいいんだかと思いながら、でも確かに気さくで話しやすいし

結構優しいところもあるし。でも、相手の気持ちを考えてないで強引なところもあるしなぁ。

……そう考えると、確かにああいう女の子らしい女の子とは、相性良さそうだなと考える。

歩道橋の上から、流れていく車の列を眺めながら思う。


「もう、今までみたいな接し方しちゃ、ダメだよな……」


そう思いながら、歩道橋の階段を降りだした。





「ねえ、彼女とか作らないの?」

「あぁっ!?急に何聞いてんだよバカっ!?」

自転車が一瞬大きくグラついた。

「きゃっ!?」

「おっとゴメンっ!?……お前もそんな声出す事あるんだ?」

表情は見えないけど、声に揶揄いの声音が乗っていた。

「……どうせ、らしくないよ」

「いや、そうじゃなくてさ、あー、……新鮮だって話。……まだ真っすぐ?」

「うん、真っすぐ」

家が徐々に近づいてくる。

「あのさ、後ろに女の子乗せて自転車やバイク走らせるのって、やっぱり男子的に嬉しいシチュエーション?」

「そうな、可愛い女の子だったらな!」

そう言ってカラカラと笑った。

「そっか。人生で一度ぐらい、そんな事があればいいね?」

「ああ、そうだな。人生で一度ぐらい可愛い女の子と二人乗りしてみたいな」

そう言って彼は快活に笑うと嘯いた。

でも言葉とは裏腹に、彼の背中越しに聞こえてくる心音は早い。

私で、ドキドキしてるのか。それとも自転車漕ぐのを頑張ってくれたせいか。どちらにせよ、嬉しい。

心苦しさと痛みと嬉しさでごちゃ混ぜになりながら、家に着いた。

ふぅー、……病院行こ。

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