俺だけ異世界に行けるっぽいので、亜人女子の動画撮って稼ぐことにした

あらばら

第1話 泉のエルフ

「――アンタはいつまでニートやってんの!」


 この日も俺はオカンに叱られている。

 ご飯を食べるためにリビングへと降りるたびに、そういう小言を言われる。

 まぁ、仕方の無いことだ。

 御年24歳。

 やる気がなくなって大学を中退してもう4年目。

 その4年間、俺はずっとニートをしている。

 親のすねかじり。

 なんの取り柄もないクソ野郎だ。


「このままニートやってると周りの子と差が付くって分かってる!? 幼なじみのケンちゃんはもう結婚までしたらしいじゃない!!」

「へえ」

「へえじゃないの!! 家にお金も入れないニートのアンタは本当にどうしようもない男だわ! 働かないならいい加減追い出すわよ!!」


 本日のオカンは激おこだった。

 一緒に夕飯中のオトンが「まあまあ」と諫めるほどである。


 食後、部屋に戻った俺はベッドに寝転がってため息ひとつ。


「……分かってんだよ」


 そう、分かっている。

 言われるまでもなく、このままじゃダメだと分かっている。

 でも何をすればいいのか分からない。

 俺は何をして稼ぎたいんだろうか。


「……ハメ撮りの販売って、いい商売だよなぁ」


 ムシャクシャした気分を解消するために一発抜くことにして、俺はハメ撮りの販売サイトを漠然と眺めていた。

 相手への出演料ってどれくらいなんだろう。

 販売数に応じてインセンティブを渡したりもしているんだろうか?

 よく分からんが、エロは絶対に需要が減らない普遍的な分野だからな。

 マーケットとして狙うのは最適だわな。


「はあ……俺もこういうので稼ぎてーな……」


 一応、動画の編集技術はある。

 高校、大学と映研に所属していて、実際に映像をイジったりしていたから。

 でも俺がこの手のハメ撮り販売をやるのは現状無理だ。

 ハメ撮りに応じてくれる女子の知り合いなんて1人も居ないから。


「はあ……真っ当にバイトでもするしかないんかね……」


 今日のオカンは怖すぎた。

 きちんと稼いでお金を家に入れないと殺されるかもしれない。

 

「ま……とりあえずシコろう」


 焦ってもしょうがないのでシコシコ。

 それから賢者の冴え渡った頭でバイト情報サイトを見て回り、あーでもないこーでもないとにらめっこしていたら寝落ちした。

 

 次に目覚めたとき時刻は深夜2時だった。

 おしっこを済ませて二度寝しようとしたが、そのとき俺は妙なことに気付いた。


 ……押し入れの戸がガタガタと揺れているのだ。

 まるで風でも吹いているみたいに、内側から。


「え……」


 気になって開けてみたら、俺は度肝を抜かれることになった。

 だって戸の向こうにはどこぞの森が広がっていたからだ。

 深夜の森だ。

 ほー、ほー、と梟みたいな鳴き声が木霊している。


「……何これ……」


 夢でも見ているんだろうか。

 きっとそうなんだろうと思った。

 俺は気付くと踏み出していた。

 夢なら別に冒険してもいいよなと思って。


「お……」


 少し歩いていると、目の前に綺麗な大きめの泉が現れた。

 そして、泉の中心には誰かが居た。

 色白な裸体を清めている銀髪の美人だ。

 耳が尖っている。

 まさかエルフか。

 俺はズボンに入ったままだったスマホを取り出して写真を撮った。

 すぐ撮影に走るのは現代人のサガだ。

 夢だから撮っても無意味だろうが、とりあえず1枚。


「――誰だ」


 そして気付かれた。

 フラッシュを焚く設定だったせいで……。


「……人間ヒュームの男か?」

 

 そのエルフは手元のタオルを身体に巻くと、俺の方に近付いてきた。


「こんな時間にこんな場所でヒュームが何をしている? ここは亜人領だぞ」

「あ、えっと……」

「ヒュームが亜人領に侵入するとどうなるか知っているか? 侵入理由にもよるが、最悪死刑だ」

「――っ、し、死刑って……お、俺はただふらついていただけで……」

「ふむ……迷い込んだということか?」

「あ、ああ……すぐに引き返すから見なかったことにしてくれ……」


 夢なんだから別に許しを請わなくてもいいんじゃないかと思ったが、一応そうしてみる。


「まぁ、今回は見逃してやろう」

「ホントか?」

「ああ、見つかった相手が私で良かったな? ヒューム嫌いのヤツなら問答無用でそなたを引っ捕らえて詰め所に連行していたはずだ」

「あ、ありがとう……」

「さあ、他の者に見つかる可能性は少なかろうが、さっさと行くがいい」

「ああ……じゃあな」


 俺は小走りでその場をあとにした。

 来た道を戻って、押し入れの戸を探す。

 すると木の幹に一体化している戸を見つけた。


 良かった……あった……。

 消えていたらどうしようかと思った……。


 俺は部屋に戻って押し入れを閉めた。

 ふぅ、と安堵しつつもう一度押し入れを開けてみると、普通に布団がしまわれているだけの空間に戻っていた。


「やっぱ……夢だったんだよな……?」


 今この状況もまだ夢なんだろう。

 まだ夢の中であって、目覚めていない……はずだ。


 そう考えながら俺はベッドに寝転がって二度寝した。

 夢の中で二度寝。

 変な感じだが、とにかく寝た。


 そして朝に目覚めたとき、俺はふとスマホのギャラリーを確認してみた。

 すると――


「……え……」


 泉で身を清める銀髪エルフの全裸写真が普通に残っていた。


 Why?

 どういうことだ……?

 まさかアレは夢じゃなかった、とでも……?


 こうしてこの日、俺は摩訶不思議な現象に遭遇したのである。

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