親友
執行 太樹
昼下がりに、京都の鴨川沿いを歩いた。4月中旬の鴨川に吹く風は、肌に温かく、心地よかった。
休日の鴨川は、多くの人で賑わっていた。私は、三条駅から河原町方面へ歩いた。寺町商店街から先斗町を抜け、四条大橋に出た。私は、人混みに疲れ、大橋の隅にある階段を川沿いに降りた。
四条大橋の下では、人々がそれぞれ思い思いの時間を過ごしていた。カップルで会話している人たち、家族でおやつを食べながら団らんしている人たち、1人で河原に佇んでいる人、実に様々だった。私は、そんな人たちを横目に、大橋から少し離れた、人気もまばらな場所に移動した。そして、座りやすい河原を見つけ、腰を下ろした。
私は、鴨川の方を眺めた。1匹の鴨が、川を泳いでいた。なにか獲物を探すわけでもなく、ただ川の流れに逆らって泳いでいた。私は、それを眺めた。時間だけが流れていた。
仕事は、それとなく順調だった。やりがいもあった。楽しく感じていた。ただ、それは人間関係を除いてであった。
私は、自分に自信がなかった。昔から、相手の顔色を見て行動するところがあった。どうしても、相手に自分の意見を伝える勇気がなかった。自分の意見を言うことで、周りから嫌われてしまうんじゃないか、距離を置かれてしまうんじゃないか。そんな不安が、いつも頭の片隅にあった。私は、自分で自分の人生を生きにくくしていた。
鴨川の方を見ると、どこからかもう1匹、鴨が泳いできた。2匹は寄り添うこと無く、ただお互いが近くをそれぞれ流れに沿うように泳いでいた。
私は、単純な人間関係が欲しいだけだった。ただ、気楽に過ごせる相手と、楽しい時間を共有できるだけで良かった。おそらく、それが人生で1番大切なことなんじゃないのか。
高校の頃、友人が言ってくれた言葉を思い出した。互いに、自分の夢について語った時のことだ。私は、自分のしたいことについて、夢中で話していた。
お前らしくて良いと思うよ。友人は、そう言ってくれた。その言葉に、心が温かくなった。勇気をもらった。自分のままで良いのだ、と安心した。そんな友人を大切に思った。
あの時は、ありがとう。心のなかで、私はそう呟いた。
鴨川の方に目を向けると、いつの間にか、2匹の鴨は居なくなっていた。ただ、川のせせらぎだけがあった。
陽が少し傾きかけてきた。私は腰を上げ、お尻についた砂利を手で払った。風が気持ち良かった。
鴨川のせせらぎと、離れた所から雑踏が聞こえていた。大橋の上は、未だに八坂神社へ向かう観光客で賑わっていた。
親友 執行 太樹 @shigyo-taiki
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