第17夜【リゾートバイトについて】

【リゾートバイトについて】

 ネットで伝播した怪談の中には、長々とディテールを説明したが故にボリュームが凄いことになっているお話も多数存在する。内容を是非する前に、長いというだけで嫌煙される傾向のある昨今、さりとて要約では話の肝が掴めないものもあるし、リアルタイムでスレッドに書き込まれていくのを目撃したユーザーが羨ましくてならない。

 さて「リゾートバイト」である。2009年に今は無き怪談投稿サイト「ホラーテラー」に書き込まれ、その後2ちゃんねるの「洒落怖」スレに転載されて広まったネット怪談古参組だ。

 簡単に粗筋を述べると、海沿いの地域にある旅館に、夏休み限定のアルバイトで赴いた大学生3人組の一人が、誰も居ない2階へ、宿の女将さんが食事を運んでいく姿を目撃する。彼らが興味本位でこっそり2階を探索すると、大量の残飯と、扉にお札の貼られた封印された部屋を発見する。不可解な物音に見舞われた一同は慌てて逃げだし、一晩中奇妙な影を目撃し続けたBの口添えもあってバイトを辞めることにする。女将さんから巾着袋をもらって帰途に就くと、後を追ってきた旅館の旦那さんがお祓いを勧めてきたので、彼に従って「おんどう」と呼ばれる場所へ行く。お坊さんに警告されて開けてみた巾着袋の中には大量の爪が入っていた。3人は「おんどう」に一晩籠り、外から執拗に介入しようとしてくる怪異の猛攻を耐え忍ぶ。実は宿の女将さんが亡くなった子どもを蘇らせるために、この地域に伝わる臍の緒を使った儀式をアレンジした独自の呪術を実行しており(この辺りは説明が複雑なので実際の投稿文を読んで確認してほしい)、学生たちは危うく生贄になるところだったのだ。途中で儀式が途絶した報いか、女将さんはもう助けられないのだと言われた……。登場する怪異のクリーチャー然とした具体的な特徴については、今回の妄想とは何の関係もないので敢えて省略する。気になった方は元の投稿を読んでもらうとして、これが「リゾートバイト」の粗筋である。

 お気づきになっただろうか。そう、なぜ、この物語の題名は「リゾートバイト」なのだろうか。登場する怪異の具体的な名称が言えないとしても、「2階の開かずの部屋」或いは「臍の緒の儀式」、ちょっと捻って「おんどう」なんか良いかもしれない。少なくとも、早い段階でバイトどころでは無くなる話なので「リゾートバイト」は的確な題名ではないだろう。


「うんにゃ、正しいよ」とは一言多い知人女性。今回も彼女に協力してもらった。「やっぱりこれは、リゾート地でアルバイトをした話なんだよ。霊感のあるB君が『旅館の女将さんが変な儀式を行って化け物と交信しているようだから、台無しにする』っていうバイトを」

 この指摘(?)を受けた私は慌てて元の投稿文を読み返した。バイト先を決めたのが誰かは明示されていなかったが、女将さんが2階に上がっていくのを見たと最初に話しだすのはB君、彼女の後をつけてみようと提案するのもB君である。B君は次の日に、より詳細に2階について調べてその結果を話すことで友達2人の好奇心を刺激し、3人での探索を実行に移すことに成功する。なるほど。

 探索中に、霊感の強いB君は危険を察知したのか、ビビり散らかすことで「俺こういうの、気になったら寝れないタイプ」(本文より)という性質の投稿者に、まんまと単独で封印された扉まで向かわせている。なんとか儀式の調和を乱すことに成功し、怪異に翻弄されつつも部屋まで戻った後に「ごめんな。俺なんかよりお前のほうが全然怖い思いしたよな。それなのに俺がこんなんでごめん。助けに行かなくて本当ごめん」(本文より)とフォローすることも忘れない。その後に交わされる「Bに見えていたもの」に関しては、すべてが嘘というわけではなく、友人2人と共にバイトを辞めるための口実作りとして、自ら見たものを誇張して話していたのではないか、と私は判断している。

 ここまで書いていけばお分かりの通り、B君限定裏バイト(今、出来た単語)の、依頼者は旅館の主人であろう。追いついてきた主人とB君の会話は、2人を「おんどう」に誘導する為のお芝居であり、若干、2人の交わす会話が要領を得ずフワフワとしているのも、最後にB君が泣き崩れれば、お人よしの2人は、これ以降の展開に疑問を抱かないだろう……という確信があった故の雑なやり取りなのだ。そしてこれまた、前から打ち合わせてあったお坊さんに協力してもらい(お坊さんとの会話も輪をかけてふわふわしているが、後略)「おんどう」で一晩かけて憑いてきた怪異を祓い、女将さんの元へ矛先を向けさせることで、B君のアルバイトは目的を達成したのである。知らぬは投稿者とA君ばかりなり。

 という仮説は、もちろん私と知人の妄想の産物であるので、読者の皆さんは本気にしないようにお願いしておく。ただこの仮説に従って……後半、定期的に行われる怪異に対する説明は、B君も旅館の主人もお坊さんも、関係ない2人に本当の事を話しても仕方が無いからと適当な内容をアドリブで喋っているとして……読んでいくと、要所要所でなかなかにスリリングな会話が交わされているので、是非、時間のある方は本文を読み直してみることをお勧めする。

 ちなみに知人女性お気に入りのシーンは「女将さんに直接、2階の部屋を見たって言うか言わないかで話し合う時のB君の立ち回り」であり、読者の皆さんに妄想して頂きたいのは、旅館の手伝いをしている近所の女の子、美咲ちゃんはご主人の息がかかっていたのか否か、ということらしい。皆様のご意見(ご妄想?)を頂けれれば幸いです。

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