第16夜【続・かなしばり】

【続・かなしばり】


 金縛り縛り(今、生まれた言葉)で、まさかの第2弾である。たぶんタイトルで損をしていて、閲覧数も少ないと思われるので好き勝手にやらせて頂く。

 

 山下さん(仮名)の場合。

「私の辛かった金縛りは社会人一年生の時です。寝てすぐに金縛りになって……冷蔵庫が開いたんですよね」

「物がパンパンに詰まっていたわけではなくて……」

「たぶん、その時は冷凍食品一つとバターしか入ってなかったですね」

「何かすいません。続きをどうぞ」

「それで、すぐに閉まらなくて……たぶん、3分くらい開いてたかな、それで閉じた瞬間に金縛りも解けました。それで、何か増えていたり減っていたら嫌だから、次の日、スーパーで後先考えずに食べ物をドカ買いして詰め込んで、分からないようにしました」

「なるほど」

 皆さんも金縛りに遭った時に冷蔵庫が開いたり閉じたりしたら、山下さんを見習ってみてください。


 鴻池君は、中学生の時に遭った金縛りが怖くて仕方がないのだという。ふと目が覚めると金縛りになっていた。この時点で十分異様だったが、隣の空き部屋に誰かが入ってきて、シクシクと泣き始めた。幼い子どものようだった。幼過ぎて性別が分からないくらいの。困惑していると、続いて誰かが入ってきて、泣いている人を慰め始めた。女性だ。

「その二番目に入ってきた奴の声がね、二択なんです」

「というと」

「母親か姉なんです」

 金縛りが解けても隣室での二人の声は続き、一時間くらいして不意に止んだ。おっかなびっくりで隣の部屋に確認しに行ったが誰も居なかった。そのあと二回ほど似たようなことがあったので、今でも二人が少しだけ怖いのだそうだ。


 これは高校の時にクラスメイトから聞いたんですけど、彼が中学生の時に、2階の自室で寝転んで漫画を読んでいたら、不意に眠気が襲ってきたんだそうです。でも時計を見るとまだ夜8時くらい。そんなに疲れていないのに、どうしたんだろう、と思っていたら金縛りに遭った。

 何もかも不自然だよな……と思って身構えていると、いきなりドアを開けて、お祖母ちゃん……父方の祖母がドアを開けて入ってきて、彼を無視して窓を少しだけ開けると「空気が籠っているのは良くない」とブツブツ言いながら出て行った。

 そのお祖母ちゃん、確かに同居しているんですけど、腰が悪くて一階で暮らしていて、到底、階段なんて登れない状態だった。何とか金縛りを解いて窓の方を見ると、確かに僅かながら隙間が生じている。

 ドアの方を見ると、そちらもちょっと開いてて、間違いなく誰かが金縛りにあっている時に部屋に入って来たのは確かだ。その後すぐに、お祖母ちゃんは具合が悪くなって病院に入院しちゃって、そのままなんだそうです(当時の話)。

「俺が祖母ちゃんの元気な姿を見た最後が、金縛りの最中ってことになっちゃったら厭だよな」って言ってましたよ。

 

 夢と連動する金縛りという、かなりタチの悪いものもある。三年ほど前の体験だそうだが、Sさんは夢の中で女子高生時代に戻っていた。ただ教科書を読み上げるだけの生物の授業が眠くて仕方がない。夢の中なのに眠りそうになった。すると後ろの座席から「次、あたるよ。眠っちゃだめだよ」と右肩を突いてくる。高校生時代、生物の授業で生徒が何かを答えさせられたり、教科書を読まされることは無かったので(それもどうかと思うが)、何を言っているんだと無視していたが、指先によるツンツンがしつこい。たまらずに振り向くと、全く知らない大人の女性が真顔で自分を見つめていた。

 覚醒したSさんは、ギャッと叫ぼう……としたら叫べなかった。金縛りだ。目だけは動いたので真っ暗な部屋を見回すと、知らない女が「へへへ」と苦笑しながら部屋の中をウロウロしていたので、人生初めて気を失ったという。これは悪い金縛りだ。よくない。


【たまごゲーム】

 本来なら金縛りオンリーで第16夜をお届けするべきなのだが、前述のSさんが「ついでに」話した話を最後に紹介したい。

 小学4年生の時に、夏休み前の一週間から10日ほどの期間だけ、「たまごゲーム」という変な遊びが流行ったのだという。

 「ルールはシンプルで、家から生卵を割らずに学校まで持ってこれるか、っていうだけ。先生たちには内緒でね。勿論、卵が割れていたら負けです。別にそのままじゃなくて、割れないように入れ物に入れたり、柔らかいもので梱包していいんですよ」

 そのゲームはクラスメイトの5人でやっていたのだが、いつも同じ子が負けていた。わざとではない証拠に、その子はいつも悔しがっていた。何しろ、その子が言い出しっぺなのだ。自分が考案したゲームで負け続けるなんて、なかなかの屈辱だ……って、なかなか割れないでしょう、卵。

「うーん、全員セーフか、その子だけ割れてるか、どちらかでしたね」

「ところで、さっきから『その子』と仰ってますが」

「はぁ……その……思い出せないんですよね、名前が。いや別に何事もなく卒業したんですけど、中学も高校も違ってたので」

「小学校の卒業アルバムを見れば分かるでしょう」

「名前のところを塗り潰してあって、分からないんです」

「だ……誰がやってるんですかね」

「たぶん、私なんですけど、全く記憶にないんですよね。他の3人もそうだったみたいで。もちろん、別のクラスメイトに聞けば分かるんですけど、ちょっとやめておこうかって」

 彼女のリアクションからして本当に訳が分からないなあ……という様子だったので、仲良しグループに走った亀裂の果て、というわけではないようだ。

 ちなみに私としては真顔で「多分、私なんですけど」と言われた時が恐怖の最大瞬間風速であった。

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