第15夜【猿夢問答】

【猿夢問答】


「今晩は。今回は、常に週二回の締め切りと戦っている哀れな筆者にネタを提供してくれる、ということだけれども」

「有名ネット怪談への考察、というか妄想だっけ、あのシリーズ、結構好評みたいじゃないの。実は私が以前から温めていた『猿夢』に関する妄想があるので、良かったらシリーズの一つとして使って欲しいなと思って、連絡した次第」

「猿夢……。投稿者の見た悪夢を、そのまま書いたような話だけれど、あれで妄想して怯えてるなんて、君も、なかなかの怖がりだね」

「ま、類は友を呼ぶ、ってね。取り敢えず、猿夢の粗筋を先に紹介しておこうか」

「知らない人も居るだろうしね。猿夢は2ちゃんねるの『死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?』、いわゆる『洒落怖スレ』の初代スレッドに2000年に書き込まれた話だ。もう20年前の話なんだな。投稿者は明晰夢、つまり、これは夢なんだと自覚できるタイプの夢をよく見るタイプで、その夢もそうだった。無人駅のホームに立っていると、もうすぐやって来る列車に乗ると怖い目に逢いますよ、とアナウンスで警告される」

「やって来たのは『遊園地などにあるお猿電車』(原文より)で、投稿者は警告を無視して、後ろから三番目の車両に乗ってしまう。すると『子供の頃に遊園地で乗ったスリラーカーの景色』(原文)と酷似したトンネルに入った段階で、惨劇が始まる」

「まず、次は活けづくりです、というアナウンスの後に、一番後ろの車両に乗っていた男性が小人の集団に切り刻まれる。続いて、次はえぐり出しです、というアナウンスの後に、投稿者の後ろの車両に乗っていた女性が小人にスプーンで目玉を摘出される。早く夢から覚めなければという思いと、自分はどうなるんだろうという好奇心の板挟みで身構えていると、次は挽肉です、とのアナウンス。何やら機械の音が迫ってくる中、明晰夢のくせになかなか覚めない状況にもがき苦しんで、何とか現実に帰還できたけれども、4年後に全く同じ内容の夢を見てしまう」

「その時も、何とか夢から覚めることに成功したのだけれども、『また逃げるんですか~次に来た時は最後ですよ~』(原文)と覚醒後の現実世界でアナウンスが流れてきて、次に見たときは心臓麻痺とかで死んじゃうのかな……と怯えた様子で投稿は終わっている」

「このあと、『自分も見ました』といった調子の猿夢に関する投稿が幾つかあって、若干の差異があるんだけれども、正直に言って、アナウンスされる残酷な殺人方法が増えているだけって印象なので今回は省略する」

「拷問ホラー映画『SAW』のパチもんじゃないんだからね」

「手厳しいな。それで、君の猿夢に関する妄想について聞きたいんだけど」

「結論から先に行ってしまうと、これは希死念慮に捉われた人の話なんじゃないのかな、と妄想していたら怖くなったんだよね」

「い、いきなり重い話題になったな……えーっと、取り敢えずはその説に従って、お話を再確認していこうか」

「猿夢のアナウンスが心の声だと仮定しよう。最初のホームにいた時に聞こえるアナウンスは、希死念慮に捉われるな、そっちの方向に思考を持っていくなという自身への警告と考えられるんだ」

「なるほど、でも投稿者はお猿電車に乗ってしまった」

「だから心の声も、宜しくない方向に思考をシフトチェンジしたわけだ」

「なるほどね。お猿電車やトンネルの様子が幼少時の記憶を再現している、というくだりも、死ぬ前に見るとされる走馬灯を彷彿とさせるな。しかしね、肝心の場面で出てくるのが、活けづくりだの、えぐり出しだのっていうスプラッター映画ノリなのは、どうなんだ」

「確かに現実味がないよ。それが良いんだよ。希死念慮に捉われて『酷い死に方をしてやる!』と思い詰めて、最初に思いつく荒唐無稽な死に方ってわけさ」

「活けづくりとか考えている段階なら、まだ大丈夫ってことか」

「ただ、活けづくりの次がえぐり出し。実現出来る可能性が、本当に若干、という程度だけど増しているように感じないか」

「つまり、その……そういった気持ちが高まっているという表れか」

「そういうわけ。そして、最後は?」

「挽肉……あーッ、そういう事が言いたいの、君は。ヤバいな。うわーッ」

「活字で悶えるなよ。そうだよ、このお話の舞台は何処なんだって話。駅だよね。つまり、挽肉とは、飛び込み自殺の暗示なんだ。つまり、本当に飛び込むかどうかは別として、精神状態が良くない考えを実行してしまう段階にきているってこと」

「えーっと……ちょっと……君との今後の関係性を考え直すわ」

「おいおい、妄想だって最初に断っているだろ。あとは手短に纏めようか。最初は、思春期特有の何かを悪い方向に考えすぎた結果、そんな夢を見た。でも思い止まった。4年後に見たときは大学生、今回も大丈夫だったけれど、次に似たような思考パターンに陥った時は、後戻りできないかもしれない。そんな心の叫びが、現実世界で聞こえた『次に来た時は最後』というアナウンスになったのさ。以上、考えすぎる怖がりによる猿夢妄想でした。読者の皆さん、真に受けないように!」

「えーっと、採用」

「早いな、おい」


※次回、日曜更新では「リゾートバイト」もしくはツイキャスでの考察企画で上手くいかなかった「禁后」に挑む予定です。



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