第12夜【こういうの】

【バンボロ事件】

学生時代に聞いた話なんですが、後輩のМ君がしみじみと呟くんですよ。「同じ場所を、深夜と次の日の早朝に通るもんじゃないですね」って。

どういう事なのか尋ねてみたら、1週間ほど前にバイト先で棚卸しがあって、そのおかげで、かなり遅い時間に帰宅したんですって。

その時に、普段使っていないルートを近道だからってんで、自転車で激走していたら、チョキン、チョキンと音が聞こえて来る。

どうやら、自分の進行方向にある、一軒家から聞こえて来るんですね。近づいていくと、オバちゃんと言っていたから中年女性なんでしょうが、女性が一人、大きな庭バサミを持って玄関先の植え込みを剪定していた。

時計を見たら夜の12時前で、おまけに彼女は、何の明かりもない状態でチョキン、チョキンとやっている。

「その人の横を、チャリで通る時が一番ゾクゾクしましたよ」って、彼は言ってましたね。帰宅して一息ついてから、夏の時分でしたから、日中は暑いので、涼しくなった夜中に剪定作業をやっているのかも……って何とか理性的な結論にたどり着いたので、その日は就寝したんだそうです。

М君は次の日、朝早くから家を出る用事があったんですが、ちょっと気になっていたので、目的地からすると露骨に寄り道になるんですけど、前夜、オバちゃんが剪定していた家の前を通ってみた。

そうしたら……お巡りさんが二人いるんですって。家の人から話を聞いている様子で、「今度は、その人が来たらすぐに連絡してくださいね、駆け付けますんで」とか言ってる。

……そうなんですよ。

家の人が言うには、知らない中年女性が、勝手に植え込みを剪定バサミで切り始めたみたいなんですね。ゾクゾクしたどころじゃない、本当に危なかったんですよ、М君。

そのあと特に進展は無かったみたいで、一度きりの気持ち悪い出来事だったらしいんですが(誰だったのか特定できないのも怖いですがね)。

この話、私とМ君の間では映画『バーニング』に出てくる殺人鬼の日本限定の名前(もともとはクラプシー)をとって「バンボロ事件」って呼んでいるんです。バンボロって、凶器が大バサミなので。


【気づかないもんだな】

 最近、DMで貰った話。性別は不明。

 半年ほど前に体験したのだそうだ。

 仕事の帰り道、そこは車一台がギリギリ通れるくらいの道幅なのだが、そこを歩いていたら、前方から高校生数人が横一列になって此方に向かってくる。近くに塾があるのだ。しかしお喋りに夢中で、全く列を乱す気配がないので仕方なく自分が隅に避ける羽目になった。通り過ぎる瞬間も直後も、全く道を譲った大人に配慮してくれない。若いうちは自分もこうだったのかな……とか思っていたら。

 「高校生たちの後ろから一人の男子高校生が歩いてきたのですが、彼は露骨に不機嫌な顔をしていて、しかも右手を前にグッと突き出していました。そして指を開いて、指折り数えている……前に居るのが丁度五人なんですね、それで数え終わったらギューッて強く握る。私は動揺して立ち止まって彼を観察してしまう形になったのですが、どうやら、その動きを繰り返しているようでした」(以上、基本的に原文のママ)。

 しかし前の連中はお喋りに夢中で、背後で異様な挙動を繰り返す人物に一切気づいていないようだった。

 気づかないもんだな……と、それ以上の詮索はしないようにして帰途についた……とか思っていたら。

 「なんだかスゴく右手が痛いんですよ。なんだろうと思ったら、私、自分では全く自覚が無かったんですけど拳を強く握り締めていて、締めすぎて、爪が掌に刺さらんとする勢いだったんです。意味不明なんですけど、その時は背筋がむやみに震えてきちゃって、急いで走って帰りました」(同)

 気づかないもんだな。


【こういうの】

 崎田君(仮名)は、高校生の時にクラスメイトの川島君(仮名)からヘンテコな話を聞いた。川島君は両親と兄が二人居て5人家族なのだが、決まって他の4人が居ない時に「チャイムが変な感じで鳴る」のだと力説した。

 そのチャイム音は「鳴っている途中で電源が切れたようにプッツリと止まる」のだが、実際に家で使っているチャイムではないし、決まって川島君の背後から聞こえるのだという。自分の部屋に居ても、トイレに居ても、階段を下りている途中でも、それは変わらずに後ろから聞こえるのだと。

 その時の崎田君は「疲れてんじゃないの」と一蹴した。川島君も「そうかなぁ」とだけ言って、別の話題に移った。

 何年も経って、成人した二人は同窓会で再会した。二次会も終わって解散という頃に、崎田君に対して、酒の飲めない性質らしい川島君が家まで車で送ってやろうと提案してきた。ベロベロに酔っていて、バスや列車だと眠りこけてしまう恐れのあった崎田君は、しどろもどろにお礼を言いつつ、川島君の車に乗車した。

 繁華街を抜けて、街灯の間隔が空いてきた頃に、背後から「ピン………ポッ」と音が聞こえた。助手席に座っていた崎田君はギョッとして即座に振り返ったが、後部座席には何もない。

 混乱していると、運転している川島君は特に気にする様子も見せずに「前に話したことなかったっけ?」とだけ聞いてきた。酔った頭で何とか正解にたどり着いた崎田君は、「ああ!」と呟いた、ただそれだけだったけれど、川島君は「こういうのなんだよ」とだけ言って、別の話題に移った。


次回、かぁなっきの妄想が炸裂。

「リョウメンスクナ」をひたすら怖がる予定。

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