第11夜【八尺様】
前回予告したとおり、有名なネット怪談に対する私の行き過ぎた妄想(考察とは言えない)をご紹介する企画、第二弾である。
八尺様と言えば高身長の女怪の代表格であり、2008年に2ちゃんねるの洒落怖スレで登場して以来、何度も映像化・漫画化され、「子どもを狙う大女」というキャラクターとして定着している怪異だ。しかし、この洒落怖スレに書き込まれた八尺様に纏わる体験談には隠されたシナリオがある……と、怖がりの私には思えてならないのだ。
投稿者は高校生の頃、父親の実家にしばしば一人で出向くことがあった。ある時、一人で縁側で寛いでいた彼は、八尺様と遭遇する。有名な「背の高い女がぽぽぽ……と発声しながら移動しているのを見てしまう」シークエンスだ。変な人が居るよ、と祖母と祖父に話すと二人の様子が変わり、「今日は泊まっていけ。いや、今日は帰すわけには行かなくなった」(原文より)と告げられる。
八尺様は地蔵によってこの地域に封じられている怪異で、彼女に魅入られると数日でとり殺されてしまうという。近所から霊媒師らしき老婆がやってきて、何やら慌ただしい雰囲気になり、投稿者も事の重大性に気づく……というのが序盤の流れである。
ここまでの段階で、違和感を覚えた方も居るだろう。この老夫婦は、人をとり殺す化け物が徘徊している状況を隠したまま、孫を独りぼっちにさせていたのだ。
原文では、15年間何も事件が起きていない(ので、油断していた)という言い訳めいた説明がされている。では、投稿者が一晩籠ることになった二階の様子を原文から引用してみよう。
「そこは窓が全部新聞紙で目張りされ、その上にお札が貼られており、四隅には盛塩が置かれていた。また、木でできた箱状のものがあり(祭壇などと呼べるものではない)、その上に小さな仏像が乗っていた。あと、どこから持ってきたのか、『おまる』が二つも用意されていた」。
如何だろうか。油断していた割には、投稿者が「しばらくして」(原文より)と形容する程度の時間で、準備が整いすぎではないだろうか。
そもそも二階に立て籠もる切実な理由が無い。八尺様が、一定の地域に封印されている怪異であるのならば、その地域から投稿者を逃がす、つまり家に帰らせるのが通常の対応なのではないか。
この老夫婦は露骨に投稿者を家に引き留めているのでは……。そういった疑念を念頭に、夜の場面を思い返して頂きたい。投稿者を外におびき寄せるべく、祖父の声で呼びかけてくる八尺様との攻防が展開するが、このくだりで、投稿者は気づいていないが、とんでもない事が起きているのだ。
祖父の声が聞こえたと思った投稿者は 「思わずドアに近づいたが、じいちゃんの言葉をすぐに思い出した」(原文)ので思い止まる。そう、前後に八尺様が窓を叩いてくる描写で見逃されがちだが、八尺様は家の中に入ってきているのだ。この時、老夫婦と霊媒師は何処に居たのだろうか。別の場所に避難し、投稿者を一人きりにさせていたのではないか。
しかし単に八尺様に投稿者を生贄として捧げるのならば、このような回りくどい方法はとらないだろう。彼らの真の目的は何なのか。それは投稿者が村を脱出するクライマックスで明らかになる。
投稿者はワンボックスカーに「何人かの男たち」(原文)に「八方すべてを囲まれた形」(原文)で乗り込み、「じいちゃんの運転する軽トラが先頭、次が自分が乗っているバン、後に親父が運転する乗用車」(原文)の順番で出発する。「バンに乗った男たちは、すべてじいちゃんの一族に関係がある人で、つまりは、極々薄いながらも、自分と血縁関係にある人たちだそうだ。前を走ったじいちゃん、後ろを走った親父も当然血のつながりはあるわけで、少しでも八尺様の目をごまかそうと、あのようなことをしたという」(原文)という説明がされるが、八尺様は決して目が見えない怪異ではない。さらに、軽トラと乗用車は露骨に運転手一人しか乗っておらず、これでは偽装の意味がない。すし詰めになっているワンボックスカーにお目当ての投稿者が乗っている事を八尺様に教えている、としか思えないではないか。
此処に至って、私は老夫婦の、この村の人々の目的を理解して慄然とした。彼らは自分たちの土地に居座る忌まわしい存在、八尺様を厄介払いしたかったのだ。しかし除霊やお祓いでは出ていかない彼女を、「気に入った相手についていく」という形で村から出て行って貰おう、と画策したのである。二階への籠城、そして意味のない脱出作戦は、八尺様に、より投稿者に執着させるための障害だったと考えると辻褄が合う。
しかし、幸いなことに計画は上手くいかず、投稿者は難を逃れた。「それから十年経って」(原文)この体験を投稿している当時に、祖母から電話で「八尺様を封じている地蔵様が、誰かに壊されてしまった。それも、お前の家に通じる道のものがな」(原文)と伝えられたという。投稿者は何が起きるのかと怖がっているが、これは八尺様が結局十年間ほど何も被害を出さずに、元の土地に留まっていた事を意味している。地蔵様が壊された原因は不明だが(村の誰かが自棄を起こしたのかもしれない)、基本的に八尺様は子どもを狙う怪異なので、成長した投稿者が襲われることは二度とないだろう。
それにしても、孫を犠牲にしてまで、村から怪異を追い出したい……と思い詰めるほどに八尺様の被害は凄まじかったのだろう。投稿者が、祖父母の元へ昔から通っているにも関わらず、同世代の若者と遊んだ描写が全くないことからもそれが伺えるではないか。
……というわけで、以前、ツイキャスで雑談した内容を元に、原文も参照した上で追加増補版としてお届けしたわけだが、今回ご紹介した内容は当然ながら全て、怖がりな私の妄想なので真に受けないで頂きたい。
おまけ。粗暴な言動の知人による感想。
「祖母の最後の台詞、ヤバいよね。お前の家に通じる道のものがな、って……確か元の投稿文だと、村と投稿者の普段暮らしている家って車で二時間くらいの距離なんでしょ?東西南北合ってたって、通じる道なんて言い切れないよね、普通。十年前にお前の所に行った筈なのに……っていう心の叫びが出ちゃってるじゃん。おばあちゃんね、悪いけど、お化けは人間の都合じゃ動かねぇもんだよ」
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