第10夜【あの時はどうも】他

【わざわざ】

 現在は社会人である川口君が、小学四年生の時にキャンプ合宿に参加した時の思い出。二日目の朝に彼と友達三人が寝泊まりしていたテントの入り口に、ピンク色のハサミが置かれていて、ちょっとした騒ぎになったことがあるという。

 「刃物の部分はケースに入っていたんですけどね。そうそう、そのケースにマジックで女の子の名前が書いてました。なんだったっけな、ええっと……ちょっと待って下さいね」と言って川口君はスマホを取り出し、恐らくはメモ帳を確認したのだろう、「○○〇〇ちゃん、でした」と頷きながら教えてくれた。

 わざわざどうも。


【電話のようなサムシング】

※この項目は、投稿者の承諾を得た上で、頂いたDMを改稿したものです。

 かぁなっきさんへ

 この間DMさせて頂いた時に最後にチラッと書いたサムシングについてですが、取るに足らない勘違いや幻覚の類とかだと思うので、期待されると困っちゃいます。

 要は、夜中に目が覚めた時に、机の上に昭和の黒電話みたいなサムシングが置いてある事が何度かあったってだけの話です。私は一人暮らしで固定電話は契約していないし、昭和レトロ家具好きでもありません。

 そのサムシングは音は鳴りませんが、暗い部屋の中で(一応は距離を取って)ジッと見ていると、やがて細かく動き始めるんです。難しく言うと蠕動って言うんですか。あ、この漢字はピッタリかもしれませんあの動きに。この動きが始まると、ジリリッとは鳴っていませんが、電話が鳴ってるみたいな感覚に陥ります。

 ただ、相手は電話のようで電話じゃない黒いサムシングですから、迂闊に触るわけにもいかない。どうするべきかなぁ、でも動いているよなぁ、と悩んでるうちに、サムシングはいつの間にか消えてしまうんです。

 ホントそれだけのしょうもない話です。以上、失礼しました!

DMを読み終えた私「取り敢えず、電気点けよっか、次から」

 

【ジェイソンの模倣犯】

 アメリカ在住のホラー映画ファンであるKillian.H.Gore氏の著書『The Real FRIDAY THE 13TH』(Snony Morning Books,2021)はアメリカ中のキャンプ場を舞台にした実際の殺人事件、失踪事件、幽霊騒ぎ、都市伝説の類が所狭しと詰められた、自費出版の労作だ。

 この本の中には、当然ながら、ジェイソンの模倣犯についての記事もある。「そう言えば、『13日の金曜日』って、世界中に熱心なファンを持つ人気ホラー映画なのに、この手のマイナスな話題を聞いたことが無いな」と思った読者も居るだろう。

 ……イギリスのウェールズ地方で1995年に四人の男性を殺害、他にも少なくとも39件の男性が犠牲になった性被害事件に関与したとされるピーター・ムーアは、取り調べ中に「俺は誰も殺してない。友達の罪を被ったんだ」と主張し始めたので、一応、誰なんだと尋ねた刑事に「ジェイソン」と真顔で主張した。正確には男の恋人が居て、そいつがジェイソンという綽名で呼ばれているヤバいヤツだったんだ……という事らしいが、当然、今に至るまで、何言ってんのコイツ……本気か?的な受け取り方しかされていない。

 ……イギリスのロンドンとサセックス地方で2004年にわずか3日の間に4人を殺害、2人に重傷を負わせたダニエル・ゴンザレスは3人目の犠牲者を襲撃した時だけジェイソン然としたホッケーマスクを被っていたが、そんな扮装をしたせいでマスクから被害者のDNAが検出できたという。収監後、獄中で自殺している。

 熱心なファンが調べても、この模倣犯と呼ぶのにも躊躇いがある2件だけなのだから、少なくとも「13日の金曜日シリーズは世間に悪影響は与えていない」と断言して良いだろう。証明終わり。


【あの時はどうも】

 松村さんは学生時代にブログで日記を書いていたのだが、とある書き込みが原因でブログを閉鎖した。

書くネタが無くなって、それでも毎日更新を明言しているのだから何か書かねばならないと呻吟した挙句に、ものは試しと初めて夢日記のような代物をアップしてみたのが良くなかった。

 夢の中で、彼女は実家近辺と大学生時代に過ごした街が混ざり合った、存在しない商店街を散策していた。

 三階建ての立派な書店を見つけて中に入る。二階にあった「サブカルコーナー」で『真夏の特選・猥怪談』みたいな題名の、夢魔や性霊に襲われて難儀する話ばかりが収録されている、ヘンテコな本をパラパラ読んでいたら目が覚めたのだった。

 ブログでは、露骨な表現は伏せて「B級ニュースが載っている本」ということにしておいた。

 それから数日たって、ブログに「あの時はどうも!」というコメントばかり残す閲覧者が現れた。何処ぞのアドレスを貼り付けているわけでもなく、何がしたいのか、愉快犯には違いないが、目的がサッパリ分からない。

 名前の欄には毎回、「秋野昭」(もちろん、仮名である)と書き込まれてあった。この名前が、夢の中で読んだ猥怪談本の著者名に酷似しているのだという。

「一文字違うんですけど、もう、ニアピンですよね」と、誰目線なのか分からないコメントをしてくれた松村さんは、同時期に、今まで見た夢を覚えている性質だったのに一切思い出せなくなったことと関係が合ったら結構厭だなと思い、ブログを閉鎖した。その後はまた、夢の内容を思い出させるようになった。

 どうやら夢というのは、あまり他人に広めるべきではないものが稀にあるらしい。


【次回予告】

 編集さんが褒めてくれたのでネット怪談妄想シリーズ第2弾やります。

 

 

 

 



 

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