第42話 腕ひしぎ十時固め

 午前の授業が終わり、クラスはそれぞれの動きを始めた。


 因みに朝礼前に気絶した赤史はというと、雑に椅子に座らせられている。そう、とても雑に。


 午前の授業がすべて終わっても目を醒まさないが大丈夫か、コレ…。少々心配になったので起こすために肩を揺すった。揺らさない方がいいか? とも思いはしたが、時すでに遅し。既にオレは彼の肩を揺すっていた。


「んぇ…?」


 間抜けな声を出しながら重そうなまぶたを開いた赤史を見て、ただ単に寝ていただけだなと確信した。起き上がる赤史を見てオレも肩に乗せていた右手をソッと下ろした。


 無駄な心配だったようである。


 キョロキョロと辺りを見渡すでもなくぼんやりとした顔でジッと此方を見つめる赤史に、表には出さないものの困惑した。何を言っていいのかわからずにオレはそっくりそのまま返すように見つめ返した。まぁオレの長い前髪で見えていないだろうが。


「「……」」


 無言の時間が体感数分続いたとき、オレは思い出した。今の時間が昼時間だったということを。それに気づくと同時に見つめ合っていた状態から目をそらす。


 時間を確認すると5分ほど経っていたようだ。


 また赤史の方を見る。

 赤史はこちらをジッと見ていた。


 普段賑やかな彼からは想像も出来ないくらい静かだった。風邪でも引いたのか…?

 そう思い赤史の額と自分の額に手を持って行き当てるが、特に温度は…あれ、大分違うな。オレの妖怪の特性が出てきているようだ。


「冷たっっ!」


 すると一気に目が醒めたように赤史が勢いよく立ち上がる。それと同時にオレの手は離れた。


「何事や!?」


 慌てふためく赤史に思わず笑いそうになったがなんとかこらえて説明した。


「もう昼だよ」

「……なんですと!」


 一拍置いてギャグのようなリアクションを取る赤史を置いてオレは早々に教室を出た。”え!置いてかれた!?”と後ろから聞こえるが構わずにオレは食堂へ向かう。


 今日は期間限定の料理が出るという。(何が出てくるかは分からないが…)


 だからあいつを待つ時間はないのである。ちょっと心配したから声を掛けただけだ。実際具合が悪そうでは無かったので平気だろう。


 そうしてオレは問答無用で赤史を置いて食堂へ着いたのだった。


――結は知らない。彼が去った後の教室で起きたことを。


 赤史は自分を置いてとっとと食堂へ向かう結を唖然と見送り、追いかけようと足を踏み出すが前に進めないでいた。何故なら肩を捕まれていたから。


 必死に前に進もうにも肩を掴む力は増すばかり。赤史は頬をひきつらせながら背後に居るであろう人物を振り返って見た。


 居たのはクラスメイトで赤史の友人である結の親衛隊隊員。秋火あきびすずであった。


 素晴らしい笑顔で立つ鈴はミシミシと音を鳴らせながら赤史の肩を掴み、コテリ‥と可愛くらしく首を傾げた。


 とても小柄な体型から出せる腕力ではないだろと思った赤史からすれば壊れかけの人形の首が曲がったように不気味に見えていたが、それすら計算済みなのか鈴は笑みを濃くするばかり。

 あまりの恐怖に赤史は小刻みに震えた。


 そしてその日、一人の苦しげな悲鳴が2年の教室に響いたという。


 後に教室に戻ってきた結は、またしてもくたびれたように机に突っ伏している赤史を見て、寝たのかな…と思い少しの親切心から赤史の分のノートを録ったという。

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