第5話 友
4時間の授業が終わり、辺りがガヤガヤと賑やかになり始める。
次は昼時だ。
「ハッ!」
またもや前の席に座る赤史が大きい声を出した。またか、と前を見ると彼はグリンと首を回して此方を向いた。グキッて音が聞こえたんだけど、、、。
「・・・」
「そんな哀れんだ目で見んといて! じゃなくて、転校生!」
「?」
「今日来る言っとったやん?」
「うん」
「今日食堂行くのかとか聞いてへん?」
「転校生が?」
「そや」
「知らないよ」
「(゚◇゚)」
赤史の質問をバッサリと切り捨てる。しかし事実なのでそれ以外は言わない。赤史はガーンと擬音が付きそうな顔をしていた。
そこで自分なりの考えを言ってみる。
「赤史が観たいと思ってる、のって。食堂で転校生と生徒会が出会う所、だよね?」
「そ、そや」
「じゃあ今日は、無いんじゃない?」
「それはまた、、、何故?」
「オレに連絡、来てないから」
そこでハッと何かに気づいた様子の赤史はその後、鞄から弁当を取り出し自身の椅子を此方の向きに変え、弁当をオレの机の上に乗せた。
連絡がきていなければ生徒会の面々がわざわざ一緒に集まる事は仕事を除き、余り無い。よって、食堂イベントとやらは今日無いと思われる。まぁ絶対ではないけれど、オレ以外の面々が集まっていたとしたらそれはそれで騒ぎになっていそうなのでそれは無いだろう。
「一緒にメシ食おうぜ!」
「うん」
オレも鞄から自分で作った弁当を机に置く。
前の話から分かるように、赤史は所謂腐男子という奴だ。妖怪の末裔で腐男子だなんて設定濃すぎじゃないかと思う。
まあその妖怪の力に助けられた事もあるのだが。
去年の夏。
体育の授業の時。気温が30度以上になりオレが外でへばってしゃがんでいると、ふっと影が差した。
上を見上げれば和風な傘が見えた。特別傘に詳しいわけでも無いため傘の種類が違うことしか分からなかったが、気温が幾分か下がったように感じる。
傘を差した張本人を見上げるとその時はまだ名前も知らないクラスメイトの赤史であった。
その時は会話らしい会話をする事なくオレが一方的に礼を言っただけで、その後は無言の時間が過ぎた。特に気まずさを覚えない空気を不思議に思ってジッとしていると、彼に傘を持たせたままという事にハタと気づく。
暑さにやられていた思考が周り始め、正常になると取り敢えず彼に礼を言うために立ち上がった。―――それと同時に傘も動いた。
そこでん?と違和感を持った。
傘が動いた時、傘の持ち手の部分に手が見えなかった事に違和感を持ったのだ。しかしその疑問は直ぐに解決した。
視線の先にあった傘はひとりでに浮かび、ぷかぷかと風に乗るように鮮やかな赤の色を放つ髪の青年の手元へと収まる。
持ち主が近距離に居たが、傘が独りでに浮かんだことに首を傾げ。今はそれより先に礼を言うことが先決だとも思い、持ち主の下へ歩いて行った。暑かった日差しはちょうど雲で隠れている。
数歩歩いた先に居る彼に近づくとお互い向き合った。
「あり、が、とう」
「ん?気にせんでもええよ。それより体調大丈夫かな?」
「うん、、、お陰で、マシに、なった」
「そら良かったわ~」
「これ、、、」
と、自分の両手を目の前に立つ彼に向かって皿上にして向ける。その手のひらから冷気が漂い始め小さな竜巻となって少しずつ形を作ってゆく。
そして出来たのは小さな雪だるま。
「おぉ、、、!」
「あげる」
「いいのか?」
きょとりと此方を見る目にこくりと頷く。
「お礼。別の形、できる。けど、雪だるま、よりも、早く、溶ける」
「溶けるんか!?いや、当然か、、、」
衝撃を受けたような顔をした後、スンッと直ぐに戻り、よくコロコロ表情の変わる奴だと思った。
「ありがと」
「うん」
彼が片手で傘を抑え、もう片方の手を差し出してきたため手のひらの上に乗せる。その拍子になんとなく傘の色と彼の髪の色が同じだなと共通点を見つけた。
「おぉ、、、ちゃんと冷たいなぁ」
「常温なら、何日か、もつ。日に、当てたら、直ぐに溶ける」
「ほな気をつけんとな~って今一番危ないやん!!」
「溶けても、水溜まり、ならないで、無くなる」
「えぇ、、、それはそれで寂しいなぁ」
若干ツッコミをスルーし、雪だるまの説明をする。
寂しいと言われたのは初めてだったため、そんな事思う奴も居るのだと当時は感心した。だって大体その事を言うと片付けるのが楽だと言われるのだ。自分も思うけど。
その後授業は終わり、教室に移動するため校舎へ入った。
校舎へ入るなり傘を持つ赤史はポンッと傘を消した。残ったのは右手に持っていた雪だるまだけだった。
その事に驚きながらも渡すタイミング間違えたかもと少し焦る。すると赤史が振り返り。
「俺の名前は
「!うん。オレは、
「ああ!よろしく」
それからというもの。
オレたちはよく話す仲になった。
多分オレにとって初めてできた友達だ。
思い出して初めてそう認識した。
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