第48話 まさかのあいつら御登場

 さすがに俺の計画もバーギュを懐柔させる所で打ち止めだ。

 となると今起きていることは俺にとっても想定外の出来事ということになる。


 これが凶報じゃなきゃいいんだが……!


 そう不安に思いつつ二人で急いで屋敷の外へ出る。

 すると早速、外で警備をしていたゼネリが駆け寄ってきた。


「何があったゼネリ!?」


「壁守兵の伝令では〝侵入者アリ〟と! 町への侵入を強行した一団が居たと思われます!」


「ちぃ! ならば各員応戦準備せよ! 私もすぐに戻る!」


「ハッ!」


 このリーベルトの町は壁で囲まれているものの、畑も内包しているからそれなりに土地が広い。

 その侵入者とやらが仮にこっちへ向かってきたとしても、すぐには来られないはずだ。


 そのおかげか、先に兵たちが屋敷へと続く中央道に集結し始める。

 この動きから侵入者がこっちに向かってきていることが一目瞭然だ。


 その間にバーギュも剣だけを掴んでやってきた。

 利き腕が使えないのにな。どこまでも軍人ってことか。


「侵入者一団、来ます!」

「総員構え! 命令があるまで攻撃はするなよ!」


 緊張が張り詰める。

 それと同時に家々の影から例の一団の姿が登場、盾や槍や剣を構えた兵たちから狼狽える声が漏れる。


 ただそれでも兵士だ。

 陣形を組み立てて動かないその姿は頼もしさが溢れている。


 なら俺も――


「――ッ!? ああっ!?」


「どうしたのだピクトッ!?」


「待った! ちょっと待ったぁ! 全員武器を下ろしてくれえっ!」


 だが一団が近づいてきたことでようやく気付く。

 奴らが何者なのか、その先頭を走る馬に跨った人物を見たことでハッキリと。


 リディスだ。

 まさかのエルフのリディスが颯爽とやってきやがった!


 俺の声にバーギュも兵たちも戸惑いを隠せない。

 しかしそんな中を走って潜り抜け、リディスの前へと躍り出る。


「なんで来ちゃったのぉ!?」


 焦るあまり、そのままつい素っ頓狂な声を上げしまった。

 ああ、今の俺ってきっと間抜けな顔してるんだろうな。


 だからか、リディスは「プッ」と笑っていて。


「女王陛下の命令でな、どうしても貴殿の下へと向かう必要があったのだ」


「それにしたって時とタイミングってもんが……ああもぉ~~~」


 でもやることはまっっったく面白くない!

 こんな所に堂々とエルフが現れたらどうなるかなんて想像にも容易いだろう。


「「「ま、まさかあの出で立ちは!?」」」

「「「聖地のエルフ……!?」」」


 案の定、周囲が恐れ慄き始めた。

 さすがエルフ伝説、知らない人間は誰一人としていなさそうだ。


 それはもちろんバーギュさえも。


「エルフ、だとぉ……!?」


 あの強顔バーギュもが後ずさり、驚愕を露わにしている。

 それどころか途端に「ハッ」とすると、片手で両目を覆って跪いてしまった。

 他の兵たちも揃って同様で、たちまち武器が落ちる音が周囲に響き渡る。


「い、古の盟約に背き、その御身を眼に収めてしまったことを今ここにお詫び申し上げます!」

「「「どうかお許しを!」」」


 す、すげえ……。

 全員揃ってひれ伏しちまった。

 まさかここまで影響力があるとは予想外だぜ。


「構わぬ。これも非常時ゆえな」


「ありがたき幸せ……!」


 リディスもなんだかわかってやってる節がある。

 それならもう少し穏便に事を済ませて欲しかったんだが。


 ともかく、この場をなんとか収めなければ。


「それで、どうやってここに俺がいるってわかったのさ?」


「それはな、マイゼル殿に案内してもらったのだ」


 こう聞くとリディスが背後に指を差す。

 そんな彼の後ろにはなんだか見たことのある黒塗り馬車が続いていた。

 足回りが急造に近い造りと、随分なやっつけ状態ではあるが。


 それでもって御者の方を見れば。


「いよぉ~ピクト! 俺だよぉ~!」


 マイゼルが元気そうに手を振っていた。


 きっとギネスに役目を押し付けられたんだろうな。

 本人はそのことに気付いていなさそうだけど。


「ピクト!? ピクト~~~!」


「んなっ!?」


 しかも途端、こんな声と共に荷台がガタリと動き、人影が二人分飛び出してくる。


 セリエーネとウルリーシャだ。

 二人もここまで来ちゃってたの……!?


 しかし疑問を抱く前にセリエーネに飛び掛かられてしまった。

 そうして抱き着かれて倒れそうになった所でウルリーシャに片腕を取られ、なんとか姿勢を保つことに成功する。


「もぉーピクトったら最近あんまり帰ってこないものだから自然に還ったのかと思ったわ!」


「まだ消えてないのな、グリーンマン設定!」


「そうですよピクトさん、お仲間の皆さんも心配していたんですから」


「お、おう……」

(あ、あれぇ、ウルリーシャちゃん、いつの間にか流民の皆と仲良くなってるぅ!?)


 た、確かに最近はバーギュ説得のために王女様やシャナクたちと話とかしてばかりで二人の家に帰らなかった訳だけども!


 だからかセリエーネが俺の体にしがみついて離れようとしない。

 なんだろうな、この上半身にまとわりつくような普通じゃない抱き着き方は。

 ここから大技でもキメようとしているプロレスラーかな?


 あとウルリーシャちゃん、お願いだから腕を変な方向に曲げようとしないで?

 折れちゃうから。俺の左腕折れちゃいそうだからぁ!

 なんで顔膨らませてるの!? どうして怒ってるのかよくわからないんだけど!?


「ピ、ピクト、これはどういうことなのだ? なぜ貴様はエルフとも繋がっている!?」


 しかもこんな状況にも関わらずバーギュまでもが参戦してくるし。

 だが見ての通りだ。あっちから繋がってきている現在進行形でッ!


 あ、でもセリエーネの脇腹がいい香りだ。

 これはこれで、んん~~~役得!


「話せば長くなるんだが、この状況で話せると思う?」


「……」


 でもこの状況を耐え続けられるほど俺の足腰は強くないと思うの。

 セリエーネは見た目に反して筋肉質なので結構重いしな。


 誰か助けて欲しい。

 このどうにも致しがたい状況を。


「ではわたくしがピクト様の代わりに説明いたしましょう」


「「「――ッ!?」」」


 ただ途端、この一言で俺もが固まってしまった。

 まさか彼女までもがここまで来ているとは思っても見なくて。




「我が名はエーフェニミス。エルフの女王にして、百年前にこの地を救った者です」




 荷台から降りるその姿を前に、再びバーギュたちが恐れ慄いてひれ伏す。

 一目見ただけでその威厳がわかったからだろう。


 そして俺やウルリーシャ、リディスもまた自然と姿勢を正していた。

 そうせざるを得ないほどに、今の女王様は神々しさに満ち溢れていたのだ。

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