第40話 新商品品評会
俺の意図が会話から読めたのか、シャナクが咄嗟に手を差し出してくれた。
だからこちらもそれに合わせて手を掴み、力強く握手を交わす。
商売契約、再開の合図だ。
……あ。
そうだ、商売と言えば。
「そういえばシャナク、俺たちが去った後でもリーベルトの町で女神像の製造は続いているはずだけど、それはどうなったんだ?」
なんたってバーギュ侯に工房を丸ごと接収されたからな。
あのジジィのことだし、引き続き製造を行うなんて目に見えてわかる。
もっとも、作り方も何もかも教えずに出たから今は一体どうなっているやら。
「あーあれ? ダメだね、ゴミだよゴミ。あんなの商品にすらなりゃしない。ハッキリ言って産廃生産所と化してたから契約しないで撤収した」
「おおう、ハッキリ言うなぁ……」
「僕は利益にならないことはハッキリ言うクチなの忘れたかい? ――あ、そういえば最高な君にはそんな厳しく言ったことなかったっけか。ごめんごめん」
だがリーベルトの町の話題を振ったら途端にシャナクの態度が露骨になった。
今までの笑顔はどこへ行ったのやら、唾まで吐き捨ててこの悪態具合だ。
知らない、俺こんなシャナク君知らなぁい!
「けどピクトの商品には感動を覚えたね! あれはもはや芸術の領域、いやそれ以上だ! なんたってあれを量産だヨ!? 僕には救世主的出会いだったんだから!」
「お、おう……」
「おかげでなんとガルテニア王の目にも留まってね、特注で王様専用女神像まで造って欲しいだなんて言われてサァ! さすがに断ったけど」
「断ったのかよ!?」
「そりゃね。あれは大衆向けだから。それに要求が酷いもんさ。全裸で股を開いた女神像を造れだなんてふざけてるよね。女神様っていうのはこうお淑やかで慎ましいからこそ輝くんだヨ」
――あ、あぶねぇ!
その造形、次回作のプランに入ってたわ。大人向け製品として。
これは廃案にしておこう、うん。
「だから僕は今の所、あの黄金の女神像のプランを変えるつもりはないヨ。まずは大衆に行き渡るくらい造りきりたいんだ。皆が求めるものを提供するのが商人の務めだからね」
「ああ~それのことなんだが」
「うん?」
ただ多少仕様が変わってしまうことは否めない。
元の設備は取られちゃった訳だしな、造り直さなきゃならない訳で。
「すまん、型を取られた以上は同じ物は造れない!」
「ええっ!?」
「だがその代わり、黄金の女神像・
「な、なにィーーーーーー!!? セカンド、Gだってぇーーーーーー!!!??」
「Gって何?」
「さぁ?」
とりあえず用意していた製品を一つ、懐から取り出して渡す。
黙って作り直した物だからな、果たして気に入ってもらえるかどうか。
「ど、どうだ?」
「こ、これは……」
やはりダメか……?
頑張って作り直して、かつ少し手を加えたんだが。
「す、すんばらしいいいいいいい!!!!!!!!!!」
「「「ッ!?」」」
「なんたる造形! なんたる光沢! 以前よりも洗練されたフォルム! 微細な形状再現もさることながら以前にも増して感情が籠っているゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
反応が想定を越えて凄すぎる!
像を掲げたまま海老反りってお前、それどうやって体を支えてるんだ!?
「すごい! なんて恐るべき創造性! これぞまさしく神! ああ神ィ!!! この世の男たちが誰しも夜のオトモに添えたい最高の女神様やああああああ!!!!!」
興奮のあまり、もはやブリッジ状態だ!
あとなんで急に関西弁!? お前関西出身やったんか!
「……ああ、素晴らしい出来栄えです。おかげで危うく昇天しかける所だった。さすがだ御友人。心を燃やし尽くしたいくらいのパトスを感じたヨ」
「自分が燃やされそうになってるじゃねーか」
元の姿勢に戻れば、鼻から上向きに流れた鼻血跡が残っている。
それでも晴れ晴れとした悟り顔を見せるシャナクの潔さよ。
なんてこった、この世界はそれほどまで禁欲にまみれているのかYO。
ならいっそトドメを刺してやるとするか……!
「それとだな」
「ま、まだ何か?」
「実は生産工程を見直したことで更なる増産が見込めたんだわ。だから今、実は一五〇体くらい在庫があるんだよな」
「すッばらしい!!!!!!!!!! 全部買います! すぐ買い取らせてくださぁイッッッ!!!!!」
さすが商人の息子、思い切りが凄い。あと裏返った叫びも凄い。
やはりこの手腕もあってこその跡取り決定なんだろうな。
そんな運命を引き寄せたシャナクに出会えたのは幸運だったって改めて思う。
こうして再び握手し合えたのもまた、俺にもまだ運が向いている証拠なのかもな。
だったら少しだけその運を利用させてもらうとしようか。
「ならこっちからも折り入って頼みがあるんだ、聞いてくれないか?」
「はい、なんでしょう!?」
これはきっとシャナクにしか頼めないことだ。
だが今の彼ならきっとなんてことのない話だろう。
握手から昇華して腕組みとなった今、そう感じずにはいられない。
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