第39話 噂の商人君
エルフの里に滞在して四日目。
ようやく長い雨が終わりを告げ、晴れ晴れとした青空が拝めた。
そこで俺は用意していた手紙を手に、颯爽と森の外へ。
森の入口付近の木枝へと糸で手紙を吊るし、特別な香料を塗っておく。
そうしたら後は些細な願掛けで手をパンパンと鳴らし、再び森へと戻った。
滞在五日目。
ここで野盗の一人が早速と口を割った。
どうやら奴らはこの領土を収める国、ガルテニア王国の現役兵士らしい。
つまりはバーギュ・オムレスが遣える王国の手先だったってことだ。
とはいえまだ情報が乏しいので引き続き尋問を続けてもらうことにした。
滞在六日目。
二日前に吊るした手紙が消えた。無事に届けばいいが。
そう願っていた所でこっそり後を付けてきていたセリエーネに捕まった。
仕方ないので少し森の外を散策する付き添いをすることに。
その後は色々なことが色々とまぁ色々あって、結局帰りは翌日の朝になった。
滞在七日目。
帰って早々、唐突にウルリーシャに首を絞められた。酷い。
気付いたら一人になっていたようで、セリエーネも合わせて謝罪。
聞くと彼女はエルフの森の中でも孤立しがちな子だそうな。
ならばと面識の薄いギネス組と仲良くすることを勧めたが、道のりは長そうだ。
滞在八日目。
偽野盗が全員洗いざらい吐いた。
奴らは何でも王命で女王を攫う計画を実行したらしい。なお目的までは不明。
抵抗もあったが家族を人質にされたので従わざるを得なかったそう。
可哀そうなので、全てが片付いたら解放してあげようと思う。
そして来たる滞在九日目。
俺は手元に届いた手紙を握り締め、森の外へと走った。
後ろからセリエーネとウルリーシャが付いて来るがこの際関係無い。
なにせようやく待ちわびた時が来たのだから。
「――いた! おお~~~い!」
そして森の入口前に待機していた人影を見てすぐに手を振って声を上げる。
するとあちら側も俺に気付いたようで、飛び跳ねるように喜びを見せていて。
辿り着いた途端、奴が思いっきり飛び掛かってきた。
ガバッと抱き着きつつ笑いを上げて。
「フゥーーー! ピクト、ひっさしぶりだヨォーーーッ!」
「ああ久しぶりだなぁシャナク! 会いたかったぞぉ~~~!」
この黄色い短髪、少し小さい背、それでもってちょっと頼りなそうな体付き。
間違いない、コイツは俺がずっと待ち望んでいた商人野郎その人だ!
そのシャナクが俺から離れ降り、自信満々に笑って腕を組む。
そんな嬉しそうな態度に堪らずこっちも照れ恥ずかしくなっちまう。
「ねぇねぇピクト、この人誰?」
「もももしかしてピクトさんの恋人!?」
「違うよォ! 僕はシャナク・ウィーベルロー。ウィーバー商会を束ねる若頭さぁ! あ、ちなみに僕はどちらかというと君みたいな可愛い子の方が好きだよ~」
まったく、ウルリーシャはまた妙な勘違いをして。
最近多いんだよな、この子はなんでか。
だが、それにしても――
「なぁシャナク、お前今ウィーバー商会を束ねるって言ったよな? まさかそれって……?」
「ウン、そう! 僕はやれたのさ! 父さんから認められて商会を率いることになったんだ! 兄さんたちを出し抜けたよ!」
「おおっ! やったじゃないかーーー!」
「君が提案した女神像のおかげだ! あれはもうサイッコウの女神様だったよォ!」
まさかもうそこまで進展していたとは。
長いこと音信不通だっただけに心配だったけど、ことが上手く行って良かった。
それにエルフを相手にしても動じない。
手紙に事情を書いておいたから心構えは出来ているようだ。
もっとも、小柄な割に気が強いというのもある訳だが。
「あの~私たちを置いて行かないで欲しいんだけどさ~」
「アアッ! ごめんよぉ! 美人さんお二人を放置しちゃって僕なんて悪い子!」
「どさくさに紛れて調子イイコト言ってるんじゃねぇってのぉ」
「アハハ! 許してよピクト。これでも僕、女性には紳士でありたいんだ」
しっかしこの緩い性格はあいかわらずだ。
行いが紳士的なのは認めるがな、口が軽すぎるぜ。
「ええとだな、シャナクは俺の専属商人なんだ。俺らがブツを造ってコイツが売る。以前に商品や商売戦略などで話し合ったもんさ」
「ウン、利害の一致って奴だね。ピクトは当時お金を一杯欲しがっていたし、物資も必要としていた。それに対して商人の僕は家督争いにどうしても勝ちたくて売れ筋商品を探していた」
「そこでたまたま出会い、意気投合し、協力関係になったって訳だ!」
「「へぇ~~~」」
ただこういう説明もやらせるとさすが商人だと改めて思う。
俺の口にも合わせてくれるし、説明も上手い。
性格も前向きだし、正直に言うと誰よりも話しやすい。
コイツは俺にとって、この一ヵ月で出会った数少ない相棒の一人なのだ。
「でも知らぬ内に流民区から退去させられたなんてさ。聞いた時は驚いたヨ」
「すまん、あの時は手紙を残す余裕も無かったんだ」
「まぁいいけどネ。こうやって再開できたんだし。僕は何の心配もしてなかったヨ」
「言ってくれるぜ、こっちの苦労も知らないで。ははは!」
ま、実際その通りなんだがな。
なにせシャナクの飼っている伝書鳩がある限りは連絡し合えるのだから。
その伝書鳩はどうやら匂いも敏感に嗅ぎ取れるらしい。
なので特殊に配合した香料を用意すれば手紙を運んでくれる。
故に流民区に香料を置いてきてしまった時は、失敗したと本気で嘆いたものだ。
そこでエルフから香料を譲って貰い、おかげで再び出会うことが出来た。
いやぁ、ここに至るまで随分と苦労したなぁ……。
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