第37話 野盗たちの正体とは
エルフの恐ろしさは伝承を伝えた人間側が良く知っている。
その上で野盗どもがあのように王女様に執着していれば大体予想は付く。
およそよぉく考えればわかることだ。
とはいえ、誰が主犯格かまではわからないけどな。
力を得て勢力を伸ばしたいってなら、例えばあのバーギュ・オムレスとか。
アイツのことはよくわからないし、企んでそうではあるよなぁ。
「ピクト様? 何かお考えですか?」
「ああ、うん。ほら、こないだ捕まえた野盗のことでさ。あいつらがエルフの里を襲った理由がさっぱりわからないってね」
「理由ですか……」
「そう。今の話を聞いている奴ならまだわかるんだが、この辺りの人間は大概が今さっきギネスの言った伝承を信じている。だったら襲ってくるなんて普通に考えて有り得ない。それこそ、女王様の力を知った上で強引に狙ったっていう方がしっくりくるくらいさ」
「そうですね……」
「だから腑に落ちない。エルフのことを知らない俺みたいな奴でもあるまいし」
「ふむ」
「確かにそうねぇ」
成り行きでエルフに関する話を遮ってしまったが、幸い彼らも興味を示している。
なら胸のモヤモヤを晴らすためにもちょっと付き合ってもらおう。
「実はな、今回貴殿を呼んだのはその件が絡んでいる」
「やっぱり?」
「ええ。それでも今日までおざなりにさせてしまったことには大変心苦しく思っております」
なんだ、丁度いい。
それだったら疑念も含めて全部吐き出してしまおう。
「今回の襲撃の中で彼らはこう言っておりました。『女王を捕まえろ、何がなんでもだ』と。それも己の命すら引き換えにしようとしてでも」
「ええ、その執着心には俺も気付いていましたよ。死に物狂いで戦いを挑んでくるあの様子がおぞましく思うくらいにね」
そうだ、あの時の野盗どもは見るからに異常だった。
傷付こうが仲間が死のうが目的を完遂させるという意思が見え見えだったのだ。
「だから俺にはあいつらがただの野盗とは思えない。何か重要な計画に関わったエージェントのように見えてならないんだ」
「えーじぇんととは?」
「あぁ~そうだな、秘密部隊みたいな感じかな」
「な、なるほどぉ~~~っ!」
どうやら俺の例えは少し失敗だったようだ。
女王様がまた目を輝かせてしまった。彼女は厨二病患者かな?
「だがその根拠はないのでは?」
「いや、ある」
「「「えっ?」」」
ただ俺の出した例はおそらくだが、限りなく正解に近い例えだと思っている。
あいつらは間違い無く純粋な野盗ではなく、そう扮しただけの立場ある存在なのだと。
「俺たちは所謂、人間の最底辺です。俺はともかくとしても、ギネスは服装からして判別できるくらいみすぼらしいものでして」
「ほう? 貴殿の立ち振る舞いからそうとは思わんかったが」
「俺はちょい事情があるんでね。――とまぁそんな訳で俺たちは最底辺の流民という立場で、同じ人間にも蔑まれているんですわ」
「ええそうね。犯罪者は皆流民。それが当たり前な人間の世界ですのよ」
「なるほど、罪を犯せば貴殿らと同じ立場に落ちるという訳だな」
「そうです」
「ではなぜ今その話を?」
「それがですね……実は奴ら、俺らに確かにこう言ったのですよ。『この流民どもが』ってね」
「「「ッ!?」」」
どうやらみんな察しがいいようだ。
これだけですぐに気付いてくれた。
「そう。犯罪者の野盗で同じ流民なはずの奴らが俺たちを罵倒した。しかも奴らが窮地に立たされた場面で。それってあまりにも妙じゃありませんかねぇ?」
「ええそうだわン。仮に正規市民だとしても、街じゃ武器の携行も認められない。それにあんな人数が出て行ったら憲兵にすぐバレてしまう。そんなデメリットを犯す市民なんていないわよ」
「その通りだ。おまけに伝承もあるから普通の市民じゃやり得ない。だから俺は悟ったんだ。奴らはそれなりに地位のある人間なんじゃないかってな! それも伝承を無視できるくらいの使命感を持てるほどのね」
途端、緊張が場を包んだ。
これ以上答えを言わなくてもわかるというくらいの雰囲気をビンビンに感じるぜ。
「だから女王様、一つ提案がある」
「……なんでしょう?」
「俺に奴らの尋問をさせてくれ」
「ちょ、ピクト!?」
ここまでわかったらもう俺も止まる気にはなれない。
奴らの正体を掴んで、目的を聞き出すまでは。
場合によっては、彼らエルフの復讐を代わりに果たすことだって。
「……いいでしょう。許可します」
「本当か!? よしっ!」
「ただしこれは復讐のためではありません」
「――ッ!?」
「あくまでも真実を解き明かし、この争いの根源を諫めるためです。私たちは決して復讐など望んではいないということをよく理解してくださいね」
「……わかりました」
彼らがそう願うのなら従おう。
ただ、あの野盗たちを野放しにしようとも思わない。
なんたって俺はもうエルフたちのことを知ってしまったから。
エーフェニミスさんだけでなく、セリエーネやウルリーシャをもう泣かせたくはないんだ。
そのためなら、俺は例え引き留められてでも復讐してやりたいとさえ思う。
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