社会人女性と折れたヒール

流子

折れたヒール

 ボキ、と嫌な音がした。

 それと同時にかくんと脚がもつれる。


 眉をひそめながら脚を見ると、右脚のパンプスのヒールがボッキリ折れていた。


「ああもう、最悪!」

 一人で悪態をついてしまうぐらいにはイラついていた。


 仕事帰りにこれから買い物へ行こうと思っていたが、予定変更。こんな時はすぐ家に帰るに限る。


 だけどもこんな足でどうやって帰ろうか。


 若干高めのヒールだったため、このまま踵をつけて歩くのは少し不格好だ。つま先が上がってしまって、余計に歩きづらい。


 でもボンドなどを持ち歩いてるわけなんて無いから、ヒールを付け直すこともできないし…。


 そこでふと、某女性アーティストグループのインタビューを思い出した。


 そのグループはハイヒールを履いて踊ることで有名で、どうやってそんなに高いヒールの靴で踊っているのか、というような質問を受けていた。


「踵を信用しない」


 そんなような答えを言っていたはずだ。


 そうだ、踵なんて元から無いものと思えば良いのだ。

 お前はパンプスではない、今からはトウシューズだ。


 私はすっくと立ち上がり、つま先立ちで颯爽と歩き出した。

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