第9話 繋がる時空

誠一郎、アヤ、そしてカムイは「星の間」の空間の変化を詳しく調査し始めた。



部屋全体に広がった新しい彫刻の模様や、装置の微妙な変化を細かく観察することで、彼らは古代の人々がどのようにして時間と空間を操っていたのか、さらなる手がかりを探ろうとしていた。




「これらの彫刻は、以前はここにはなかったものです。明らかに儀式が何らかの効果を発揮した証拠ですね。」カムイが指摘すると、誠一郎とアヤは彼の指示に従い、彫刻のディテールを精密に調査した。




彫刻には、星々と地球上の特定の場所を繋ぐ象徴的な線が描かれており、それらはあたかも地図のように複雑なネットワークを形成していた。カムイはこの発見から、「古代の人々が星と地上のエネルギーを結びつけることで、特定の地点間で移動することが可能だったのではないか」という仮説を立てた。




誠一郎はこの情報から、自分がタイムスリップした際の現象と関連付けて考えを巡らせた。




「もしかすると、私が経験したタイムスリップも、この古代の技術に基づいていたのかもしれません。この装置と地球上の特定の点とが繋がって、時空の移動が引き起こされたのかもしれないですね。」




アヤはその理論を支持し、「だとしたら、この技術を再現し、誠一郎さんが元の時代へ戻るために必要な条件を整えることができるかもしれません。」と提案した。




彼らはこの新たな発見を基に、古代の地図と現代の天文学的データを照らし合わせ、誠一郎が元の時代に戻るための具体的な計画を練り始めた。この計画の中で、彼らはさらに詳細な天体の位置計算と地上の特定の地点を同定する作業を進めた。




一方で、誠一郎はこの平行世界で学んだ知識を自分の時代に持ち帰る方法についても考え始めた。彼は、古代の知識が現代の科学にどのように応用可能か、また、これらの経験が自身の研究にどのように役立つかを模索した。




彼らの作業は夜遅くまで続き、次第に具体的な計画が形になっていった。誠一郎はこの平行世界での経験が自分自身の成長にどれほど寄与しているかを実感しつつ、未来への帰還を心から願うようになった。




夜が更けていくにつれて、誠一郎、アヤ、そしてカムイは「星の間」での作業に更なる集中を深めた。彼らが照らし出した古代の地図と現代の天体データを照らし合わせる作業は、彼らの理解を新たな次元へと引き上げていた。




カムイは古文書を指差しながら、誠一郎とアヤに向けて解説を続けた。「この文書に記された配置は、まさに今夜、私たちが目撃している天体配置と一致しています。これは単なる偶然ではなく、意図された瞬間である可能性が高いです。」




誠一郎はその情報を元に、具体的な儀式のステップを整理し始めた。「私たちは、星の位置が最も有利な瞬間に儀式を行う必要があります。そのためには、この装置を完全に理解し、正確に操作することが重要になります。」




アヤは装置の各部を丁寧に調整し、カムイが指示する古代の手法で微調整を加えた。彼女は自然と調和する知識を生かして、装置のエネルギーフローを最適化する役割を担っていた。




「私たちの先祖がこの技術を大切にしていた理由がよくわかります。この力は、単に時空を超えるだけでなく、私たちの世界の理解を深める手段でもあるのですから。」




誠一郎は一連の準備が整うと、カムイとアヤに向かって深く一礼し、彼らの助けと協力に感謝の意を表した。



「カムイさん、アヤさん、ありがとうございます。おかげで、私は希望を持って未来へ戻ることができます。」




カムイは威厳ある声で応えた。「誠一郎さん、これは私たちの義務です。あなたが無事に元の時代へ戻り、そこで新たな発見を人々と共有できることを心から願っています。」




夜が明ける前の静寂の中、彼らは儀式を開始する準備を整え、装置が活動を始めるのを静かに待った。部屋の中心に位置する装置からは微細な振動と共に光が放たれ、その光は徐々に強まり、部屋全体を金色に照らし出した。




「始めます。」カムイの合図と共に、誠一郎は装置の中心に遺物を掲げ、アヤがタイマツで特定のシンボルを照らし続けた。儀式が進行するにつれ、空間自体が震えるような感覚があり、時空の結界が動き出したようだった。




儀式も終わりに差し掛かると、誠一郎は明確な「シフト」を感じ取り、彼の周りの世界がぼやけ始めた。彼はアヤとカムイに向けて最後の微笑みを浮かべ、そして彼の姿は光の中に溶け込んでいった。

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