縄文時代の隠された文明
@kazu2134
第1話 遺跡の発見
佐藤誠一郎は、青森県のひんやりとした早朝に三内丸山遺跡の掘削現場に足を踏み入れた。彼の背中には、考古学の博士課程を修了したばかりの熱意と、若き研究者としてのプレッシャーが重くのしかかっていた。遺跡の発掘はすでに数週間進行中であり、今日こそ何か画期的な発見があるかもしれないという期待が、彼の心をわずかに高鳴らせていた。
「佐藤先生、こちらです!」
声をかけてきたのは、現場のアシスタントである岩崎だった。彼は泥だらけの手で小さな木の箱を持っていて、その箱からはわずかに土の匂いと、古いもの特有のかび臭さが漂っていた。
「これ、今朝見つかったんです。奇妙な文様が彫られています」と岩崎が続けた。
誠一郎はそっと箱を受け取り、蓋を開けると、中から青銅製の小さな器が出てきた。器の表面には複雑な渦巻き模様が施されており、その一部は金箔で飾られていた。誠一郎は息を呑んだ。この種の装飾は、縄文時代の物では例がなく、しかも驚くべきことに、この地層は紛れもなく縄文時代のものだった。
「これは…非常に珍しいかもしれませんね。どこで見つかったんですか?」
彼の声は興奮と疑問で震えていた。
「あの辺りです」と岩崎が指差したのは、遺跡の一角、普段はあまり注目されない場所だった。誠一郎はその場所に向かい、地面を注意深く見渡した。地震の影響で地面がわずかに隆起しており、その隙間から何かが顔をのぞかせているようだった。
誠一郎は、地面にひざまずき、そっと土を掘り返し始めた。彼の手は震え、心臓は期待でドキドキしていた。土の中から徐々に、他の遺物たちが姿を現し始めた。
その時、遠くで地鳴りが聞こえた。それはまるで警告のようで、誠一郎の思考を中断させた。彼は立ち上がり、周囲を見渡した。何かが起こりつつあるのを感じたが、まだ、それが何であるか、どれほどの影響を彼の人生に与えるかは知る由もなかった。
地鳴りが次第に強まり、空気が振動するのを感じながら、誠一郎は急いで遺物を安全な場所に移動させようとした。岩崎も他のスタッフも、慌てて重要な道具や資料を片付け始めていた。空は急速に暗くなり、かすかに雨の匂いが漂ってきた。予期せぬ天気の変化と地鳴りは、この地域では珍しくない。それがただの自然現象であることを祈りつつも、誠一郎の心には不安が募る一方だった。
「みんな、落ち着いて! まずは遺物を守ることが最優先だから、慎重に!」誠一郎はチームに指示を出し、自身も再び地面に膝をついて、慎重に残りの遺物を掘り起こし続けた。彼の手は冷たい雨に濡れながらも、遺物に触れるたびに歴史の一部に触れる感動で温かくなった。
突然、大きな揺れが襲い、誠一郎はふらつきながらも何とかバランスを取った。周囲の木々が激しく揺れ、一部の機材が倒れ始めた。「地震だ! 安全な場所に移動しろ!」誠一郎が叫んだその時、彼の足元の地面が割れ始め、驚愕と恐怖で声も出ないほどだった。彼は必死に遺物の箱を抱え、他のスタッフと共に遺跡の入口へと走り出した。
しかし、地震は一瞬にしてその勢いを増し、誠一郎が安全だと思われる場所にたどり着く前に、彼を地面へと投げ出した。強烈な揺れにより、彼は意識を失い、暗闇に包まれた。
意識が戻った時、誠一郎は冷たい土の上に横たわっていた。目を開けると、星空が見え、その光がほのかに周囲を照らしていた。彼は立ち上がろうとしたが、体が重く、頭はぐらぐらとした。辺りを見渡すと、自分がいる場所がどこなのか、全く分からなかった。彼の時計は停止しており、最後に確認した時間からずいぶんと過ぎているように思えた。
「どこだ…ここは…?」彼の声は震えていた。地面には縄文時代の遺物が散らばっており、そのいくつかは彼が以前見たことがないものだった。周囲は静かで、ただ風の音だけが聞こえる。誠一郎は深く息を吸い込み、不安定な足取りで歩き始めた。彼の前に広がるのは、見知らぬ森と月明かりに照らされた古い道だった。彼はまだ知らなかったが、この夜が、彼の人生と縄文時代との驚くべき出会いの始まりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます