不幸な子供

漏溜

ルンバとニキビのハーフのままならない人生について

 ルンバとニキビのハーフは、誰にも望まれない子どもであった。

 母親であるニキビはいわゆるホスト狂いで、若かりし頃担当に貢ぐ金を稼ぐために、闇組織が運営する会社が制作するAVに出演した。そこでニキビと絡んだ男優が、借金まみれのルンバである。彼もまた、借金返済のために「どんなハードプレイもなんのその!」なAV男優として飼い殺しされていたのだった。

 闇組織が関わっているAVなど、当然まともな撮影をしているはずがない。ニキビはありとあらゆる形で陵辱された。しかもゴムなしで。その撮影はルンバがこの世に生を受けるおよそ10か月前に行われた。つまり、そういうことだ。

 因みにそのAVは裏でかなりの高値がつき、一部のマニアなら涎を垂らして欲しがるプレミア品となった。AVのパッケージには「この撮影で本当に妊娠!」という虹色クソデカポップ体と共に生後1ヶ月のルンバとニキビのハーフの目線入りの写真が掲載されている。


 過酷なAVの撮影で授かった子どもなど、誰が愛すことのできようか。まともな倫理観のある親ならば、それでも愛すことができたのかもしれない。だがニキビはそうではなかった。ホスト狂いの彼女は、担当のために文字通り拷問器具で身を削ることは出来れど、我が子のために時間を割くことは1秒でもしたくなかったのである。

 そういうわけでルンバとニキビのハーフはネグレクトされて育った。しかし幸か不幸か、彼女は死ぬことなく今日まで生き延びた。


 16になったルンバとニキビのハーフは毎日AVを見ている。ジャンルは様々であったが、どれもおよそ20年ほど前に同じ会社によって制作された作品で、なおかつ同じ男優が出ているという共通点があった。彼女はその男優に密かな恋心を抱いていた。人とは思えない生活を強いられつつ今まで生きているのも、彼のおかげかもしれない。いじめられっ子に無理やり彼の出ているAVを見せられた、小6のあの冬の日から、彼女は彼に夢見ていた。

 彼女は高校を卒業したら、その男優が所属している会社にAV女優として就職しようと考えている。かなりのハードプレイを強いられることは予想がついているが、彼への愛さえあればそのくらい耐えられると本気で思っていた。


 そんな彼女をニキビは冷めた目で見つめている。馬鹿だな、とは思うものの、彼女についてまるで興味はないし、どんな人生を歩もうとしったこっちゃないのだ。なぜならルンバとニキビのハーフは彼女が望んで産んだ子ではないからで、なんならルンバの顔をニキビはもうすっかり忘れていた。だからルンバとニキビのハーフが恋しているという男優があの時自分と絡んだルンバである、ということに気づいていないのだ。

 ニキビの小さな脳みそには、数年前からお気に入りにしている新しい担当のことしか入っていない。貢ぐためにAVに出演するほど熱狂していたあの担当への熱はすっかり冷めていたし、気がつけば彼は店から姿を消していた。風の噂では地下ドルをストーカーした挙句、うっかり殺してしまい逮捕されたのだという。


 ルンバはニキビと絡んでから数年後、酔っ払いすぎたせいでケンカ相手を殺し、傷害致死罪で逮捕された。そして彼自身もある夏の日に、彼が殺したチンピラと同じように檻の中で同室者に殴り殺されているのだが、そんなことをルンバとニキビのハーフは知る由もない。ルンバを殺したのがあのニキビの元担当であるということもまた、ニキビが知ることはないのだ。

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