第48話 話題沸騰
「つくも姉ぇー、起きて! いつまで寝てるのってママが怒ってるよ~」
「ぐえ~っ」
ベッドで熟睡してるところに妹のさくらが思い切りダイブしてきたので、ボクは圧死しそうなカエルのような声を出す。
「さ、さくら。降りてくれ……く、苦しい」
「あ、起きた」
「あ、起きた……じゃないから。お兄ちゃんはお姉ちゃんになって華奢になったんだ。今みたいな起こし方したら、潰れて死んじゃうからね」
昔からさくらはボクに対して容赦のない起こし方をする。普通に言っても起きないからだと言うのが彼女の言い分だ。
しかし、小さい頃は笑って許せたけど、さくらも日々成長しているので、だんだん厳しくなってきたところにTSしたから、被害はより深刻になっている。
なので、ベッドから降りたさくらを切々と説教した。
「さくら、悪くないもん。つくも姉ぇが、ずっと寝てるから悪いんだもん」
何、この可愛い生き物。
頬を膨らませ、拗ねるさくらはめちゃくちゃ可愛かった(←重度のシスコン)。
「ずっと寝てるって……え? 今何時?」
ベッド脇の時計を見ると10時近い。母さんが怒るのも、もっともな話だ。
「さくら、母さんに今から朝ごはん食べるって言ってきて」
「え~っ」不満そうなさくら。
「あとで、冷蔵庫のボクのアイスあげるから」
「
最近、アニメで覚えたばかりの台詞を得意そうに言うと、さくらは一目散に部屋から出て行った。まったく現金なお子様だ。
「さくらのヤツ。どんどん、ちゃっかりしてくるなぁ。いったい、誰に似たんだろ」(←たぶん、君です)
ボクはベッドから起き上がると、寝すぎて凝り固まった身体をほぐすように思い切り背伸びをする。
「ずいぶん寝過ごしちゃった」
実は昨晩、異界迷宮から自室に帰って来ると、どっと疲れが出たのかベッドに辿り着くとそのまま泥のように眠ってしまったのだ。かろうじて部屋着に着替えるのがやっとで、あとの記憶はほとんど無い。今日が
そうそう、前にも言ったと思うけど、今回の迷宮協会の短期講習は全四日間で、前半の連休で二日間、後半で二日間行う予定になっているのだ。なので、前半の三連休の初日から二日間講習を受けたので、三日目の本日は完全休養日となっている。まあ、明日から連休
「それにしても……」
遅い朝食を食べにリビングへと向かいながら、昨日の初探宮のことを思い返す。慣れない配信や
「けど、何だかワクワクもしてきたな……」
不安よりも一度は諦めかけた一流の探宮者になりたいという夢に、ほんの少し近づいた気がして、嬉しさがこみ上げてくる。女になって一時はどうなることかと思ったけど、こういう展開なら悪くない。むしろ、良かったのかもしれない。
そう思って、ハッとする。
な、何てこと考えているんだ……慣れてきたせいもあるけど、最近自分の心境の変化に戸惑うことが増えてきたような気がする。うっかりすると男だったことを忘れそうだ、気をつけなきゃ。
そう自分を戒めながら、ボクはリビングのドアを開けた。
◇◆◇
「な、何だ。こりゃ……」
遅い朝食後(きっちり母親に怒られ済み)、昨日の配信を確認しようと思い、迷宮協会のチャンネルを見ようとパソコンでMytyubeを開くと大変なことになっていた。
『魔王、現る!』『【切り抜き】謎の魔王様の初配信』『40秒でわかる新人探宮者【魔王様】』『【緊急】謎の魔王の正体を暴く』などなど。
まさに『魔王』の話題のオンパレードだ。
あんな時間帯のごく短い配信が、こんなにも話題になっているとは夢にも思わなかった。MytyubeだけでなくZ(旧whisper)でも話題で持ちきりだ。
すげぇ――ボクも一躍、人気者だ……だなんて、当初は浮かれ気味だったけど、いろんな動画を見ていたら、だんだん嬉しさより不安が勝ってきた。
ラノベでよく見る「なんか、俺やっちゃいました?」を地でやってしまった感が半端ない。
どうすんだ、これ。収拾つかないぞ。
特に最新のトレンドは謎の魔王の正体を考察する動画で溢れ返っていた。
と言うのも、マズいことに肝心の迷宮協会チャンネルのアーカイブからボクの配信動画が削除されており、現状では切り抜き動画でしかボクの配信が見られない状態になっていたからだ。
そのため、元動画が実際に確認できないことを理由に、切り抜かれる前の元動画自体が人為的に加工されたものと判断され、『魔王』が実は全くの初心者ではなく既存の探宮者が成りすました姿ではないかという見解が独り歩きしてしまっていた。なので、正体探しに奔走するMytyberが大量発生してネットを騒がせている状況なのだ。
さらに今回の件に関して迷宮協会は一切のコメントを発表していない。そのことも、この騒動に拍車をかけている要因となっているのも否めない事実だ。
まあ、当事者のボクが言うのも何だけど、恐らく迷宮協会もコメントを出したくても出せない状態に違いない。何しろ、当の本人でさえ自分のしでかした行動に呆れ果てているのだから、迷宮協会も常識外の事態に困惑しているのだと思う。
ホントごめん、迷宮協会のえらい人。
そんな中、良心の呵責を棚上げしてMytyubeで自分の話題を閲覧していると気になるコメントが目についた。
『謎の魔王の正体は【蘇芳秋良の娘】に間違いない』というものだ。
何で? と思いながらコメントを読み進めていくと、『根拠はヴォイヤーが【
確かに、そう思われても仕方がない決定的な根拠と言えた。他のコメントで「これもどうせ加工だろ」と一笑に付されていたけど、見る人が見たら動かせない証拠となってしまうに違いない。何しろ、限りなく本物に近いのだから、申し開きのしようが無かった。
マズい、朱音さんに迷惑をかけてしまう……すぐにそれが思い浮かんだ。
自分の考えなしの行動が親しい友達を窮地に陥らせると思うと気が動転した。もしかしたら、もうすでに実害が生じているかもしれないと疑心暗鬼になりスマホを手に取るが、通話ボタンを押す前に思いとどまる。
何て聞くんだ……「魔王に間違われて困ってませんか?」なんて聞けるわけがない。
そう思って躊躇っていると、不意にボクの部屋の扉をノックする音がした。母さんもさくらもノックなしで開けるので家族ではない。と、なると……。
「あおいちゃん?]
「うん、入ってもいい?」
「もちろん、構わないよ。どうぞ入って」
予想通り、あおいちゃんだ。
「あれ? 母さん達は?」
「ちょうど、玄関口でお会いした。さくらちゃんと出かけるから、上がっていってと言われたの」
「そうなんだ……」
つまり、今この家にいるのはボクとあおいちゃんの二人きりと言う訳だ。
まあ、だからと言って叡智な展開があるわけも無いので、ほとんど意味が無いけど……二人とも女子だし。
「それでどうしたの、急に」
『つくも君美少女計画』はすでに終了していたので、あおいちゃんがボクの部屋に入るのは久しぶりのことだ。
「ちょっと話したいことがあって……」
あおいちゃんは、机の上にあるボクのノートPCをちらりと見てから口を開いた。
「ああ、あおいちゃんも見たんだ? 凄いよね彼女。今、話題沸騰中だね」
気まずさもあって、少しおどけたように話題を振ったけど、あおいちゃんは黙ったままだ。
「……あおいちゃん?」
心配になり声をかけると、あおいちゃんはポツリと言った。
「ねえ、つくも君。話題になってる魔王ってさ……」
あおいちゃんはボクの目をじっと見つめながら
「……つくも君だよね」
と断言した。
~~~~~~
あとがき
第48話をお読みいただきありがとうございました。
即行、バレテーラですねw
果たして、つくも君はどうするのか?
次回をお楽しみに(>_<)
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