第41話 キャラ崩壊
「余は魔王なり。はじめて、この地に降臨す……」
あ……ちょっと、カッコつけすぎたかな。
いやいや、初配信はインパクトが大事だって聞いたから、これぐらいで大丈夫のはず。それに魔王を名乗ってるんだから、こういう口調でないとキャラ立ちしない気もする。まあ、エラそうに魔王と言っても、今はまだ低レベルの雑魚魔王だけれど。魔法も満足に使えないしね。
「深淵を覗く者たちよ、お前たちは運が良い。偉大な余の記念すべき第一歩を記憶に刻むことが出来るのだから……」
ふっ、我ながら台詞回しが最高すぎん? ボク天才かも。
え? 逆に痛すぎないかって?
な、な、何言ってんの。そんなことないって……現地講習を行ったこのホールのことを恥ずかしげもなく『はじまりの間』と呼んでいる迷宮協会と比べればマシな方でしょ。
そうだ……説明して無かったけど、この
ボクから見て、一番左側の扉が『初心者用』のD級迷宮、一番右が『下級探宮者用』のC級迷宮、そして中央の扉は国内で13しか発見されていない『上級探宮者用』のA級迷宮の入口となっている。
実はこのような形の迷宮はとても稀な存在なんだ。通常は迷宮の最奥にいる迷宮主を倒すことで、初めて別の迷宮に進めるようになるんだけど、見ての通り、この迷宮は複数の迷宮を一か所に内包していて、最初から別の迷宮に入れるのだ。直接、目的のレベル帯の迷宮に入れるのは探宮者にとっては非常に有益で、迷宮協会ではこういう迷宮を空港になぞらえて『ハブ迷宮』と呼んでいるらしい。うちの市の迷宮街が近隣より栄えているのは、そのおかげと言って間違いない。
さて、当然のことながらレベル3であるボクが今から入るのは一番左の初心者用D級迷宮だ。D級迷宮はレベル1からレベル9までが適合レベルとなっている。そしてボクがそちらに向かって、比喩ではなく本当に一歩進もうとした時だ。
踏み出そうとした足がロングスカートの裾を踏んづけた。
「あ……」
ずるりっ…………びたんっ!
つんのめったボクは、そのまま前へと倒れ込んで盛大に顔面を床に叩きつけた。
「ぐえっ……痛っ!…………か、顔がぁぁ……」
あまりの痛さに涙目になりながら、顔を押さえて床を転げまわる。
「ひ、
考えてみれば『魔王様は働かない』のマオちゃんは魔法職で、あまり動かなくても良いキャラだから、ロングドレスを着てるんだった。このコス、戦闘職にあまりに向いていない。
「……は! そういや、配信中だった……ちょ、ちょっと待って。今のは無し、全部無しだから、みんな忘れてぇぇ――――!」
起き上がったボクは、自分のやらかしに気付いて絶叫した。
せ、せっかく築き上げた魔王のクールなイメージが……。
◇◆◇◆◇◆◇
『深淵を覗く者たちよ、お前たちは運が良い。偉大な余の記念すべき第一歩を記憶に刻むことが出来るのだから……』
初見好き:うわぁ……
迷宮管理人:これは恥ずい
サコツ大好き:え、カッコよくない?
初見好き:いや、それはない
闇の屍者:わ、わいの黒歴史がフラッシュバックする……
迷宮管理人:誰しもが一度は通る道なんだ。生温かい目で見守ろうか
CATFIGT:微かに得意げなのが……じわる
『あ……』
初見好き:あ、こけた
サコツ大好き:こけた!
闇の屍者:ホンマや、コケとる
初見好き:見事な顔面スライディングだ
迷宮管理人:うん、これは痛い
CATFIGT:かなりの強打だぞ。大丈夫か?
サコツ大好き:い、痛そう!
『ぐえっ……痛っ!…………顔がぁぁ……』
初見好き:あらら……
闇の屍者:おい、素が出とるぞ
迷宮管理人:痛すぎて本音がダダ洩れ……
やっちん:ポンコツだ
初見好き:ポンコツだね
闇の屍者:ポンコツや
サコツ大好き:ポンコツ魔王、かわちい
『ひ、
初見好き:へえ、普通にしゃべれるんだ
迷宮管理人:いや、普通にはしゃべれてないだろw
闇の屍者:魔王のロール忘れとるぞ
サコツ大好き:大丈夫、お鼻もげてないよ!
『……は! そういや、配信中だった……ちょ、ちょっと待って。今のは無し、全部無しだから、みんな忘れてぇぇ――――!』
初見好き:大惨事
迷宮管理人:もう手遅れ
闇の屍者:ぐだぐだ
サコツ大好き:でも、必死なところ……しゅき
迷宮管理人:まあ、嫌いじゃないかな
やっちん:ねえ、素の方が可愛くない?
迷宮管理人:それも認めざる得ない
闇の屍者:魔王キャラ崩壊やね
CATFIGT:確かに最初の宣言通り、偉大な第一歩が記憶に刻まれたなw
迷宮管理人:見事な伏線回収(笑)
◇◆◇◆◇◆◇
「あのぅ……もう今更なんで普通にしゃべることにしますね」
顔の痛みも転倒したことへの恥ずかしさも、ようやく治まってきたので、ボクは探宮を再開することにした。
「え……と、クラスは正真正銘『魔王』です。初心者で今日が初探宮です。名前は訳ありで言えません、ごめんなさい。これからも、このくらいの時間に出没するつもりなので、今後ともよろしくお願いします。あ……一応ステータス画面も見せますね」
そう言うとボクはオルクスの位置を確認してからステータス画面を呼び出す。フロントページだけ映したので、見えるのは探宮者名・クラス・性別・レベル・HP・SP・MPだけだ。ただ、探宮者名は【魔王の風采】で隠蔽している。ちなみに表示されているのは次の通りだ。
【探宮者名】
【性 別】 女
【クラス】 魔王(LR)
【レベル】 3
【HP(体力)】 475
【SP(技力)】 475
【MP(魔力)】 535
う~ん、レベル3になってもレベル1から、ほんの少しだけ数値が上がっただけだ。やはり、この異界迷宮では能力値よりスキルの方が重要というのがよくわかる。けど、そうは言っても戦士クラスのレベル1の値が平均180を少し越えたぐらいでレベル3でも200に届かないことを考えれば、この数値はかなり異常だと思う。
「こんな感じです……あ、信じるか信じないかは視聴者さんにお任せしますけど……」
ボクはステータス画面を消してから、オルクスの向こう側にいる視聴者さんに向けて提案する。
「えと……でも名無しじゃ、皆さんも困ると思うので、ボ……私の探宮者名を皆さんで考えて欲しいです。もし、良い名前が思いついたらチャット欄に書き込んで下さいね。お願いします」
ボクも毎晩、寝る前にずっと考えてはみたのだ。深夜にしか探宮出来ないから、それに相応しい名前がいいなと思って試行錯誤したけど、なかなかピンと来る候補が浮かばなかった。なので、視聴者さんに丸投げ……もとい公募で決めようと考えた訳だ。果たして、どうなるかな。まさかチャンネル登録数0とかチャットのコメント皆無だなんてことは無いよね?
現実世界で結果を確認するのが少し怖い。
「そ、それじゃ。これからD級迷宮に挑もうと思います」
ボクは恐怖の妄想を打ち消しながら、一番左の扉へと今度こそコケないよう慎重に一歩を踏み出した。両手でスカートを摘まみ上げて、ゆっくりと歩みを進める。
しまったな。ユニ君にこの衣装を再再生してもらう際に、こっそり身長のサバを読んでしまったため、ドレスのスカート丈が思ったよりも長くなってしまったようだ。気を付けて歩かないと、また裾を踏んづけそう。帰ったらユニ君に調整してもらわなきゃ。
そして、ほどなくしてボクはD級迷宮の前に立っていた。
~~~~~~
あとがき
第41話をお読みいただきありがとうございました。
やはり、つくも君はポンコツでした。
だが、それがいい(きっぱり)
主人公は抜けてる方が良いと思うのです、たぶん。
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