第39話 迷案


「すごっ……本物まじもんだ」


 手に取って確認したが、昼間見た『蘇芳オリジナル』と全く同じに見える。


 やたっ、めちゃ嬉しい!

 もしかしてイケるかと思ったけど、実現するとは期待してなかった。

 正直、ニヤニヤが止まらん。

 こんなんじゃ、明日蒼ちゃんに速攻でバレてしまう、気をつけなきゃ。


 えっ? そんなに欲しかったのかって?


 そりゃ、欲しいに決まってる。推しのグッズなら誰だって手に入れたいだろ?

 ましてや、ほぼ入手不可のレアアイテムなら当然だ。

 

 おっと、欲望がダダ洩れしてた。


 コホン……実のところ、ユニ君に蘇芳オリジナルを生成してもらったのには別の理由があるのだ。何も自分の我欲を満たすだけのために用意させた訳では無い。ボクの考えた完璧な計画を完遂するために必要な魔法具なのだ。


「ねえ、ユニ君。これって、機能も本物と同じなの?」


【もちろん、同じでございます。オリジナルの再生成となりますので、複製コピーではありません】


 ということは……。


「じゃあ、ヴォイヤーに付与される配信アカウントも別にあるってこと?」


【はい、このヴォイヤー用に付与することも可能です】


 実は異界迷宮内の様子を配信するためのアカウントはヴォイヤーごとに付与されている。それがあれば誰でも異界迷宮から配信が可能だ。逆に言うとアカウントが無ければ配信が出来ない仕様となっている。当然、貸与されたヴォイヤーにも付与されているのだけど、貸与する際にそのカウントを迷宮協会に登録することが決められている。つまり、貸与されたヴォイヤーを異界迷宮で使用すると、それが誰の配信なのか迷宮協会にわかってしまう仕組みなのだ。


 もちろん、個人持ちのヴォイヤーは当然、協会登録しなくても良い。けれど、最初に貸与されたヴォイヤーを使用していて、その後個人所有のものに変更した場合、アカウントを引き継ぐことがほとんどだ。そのため実質上、ほぼ全てのヴォイヤーが迷宮協会の管理下に置かれていると言っても過言ではない。


 でも、この目の前にあるヴォイヤーのアカウントは迷宮協会に未登録……言わば野良アカウントということになる。

 つまり、どういうことかと言うと……魔王の風采スキルを併用して容姿やステータス画面を欺瞞すれば……。


「ユニ君、このヴォイヤーを使えば、謎の探宮者として配信が行えるってことで合ってる?」


【仰っている行為の必要性は不明ですが、主様の要望は可能であると申し上げます】


「そうか……なら、さらに準備が必要だ、くくっ……」


 ボクは自分の着想に舞い上がった。


◇◆◇


「か、完璧だ」


 鏡の中の自分の姿にボクは感動していた。 


 髪は流れるような銀髪。その頭には二対の大きな羊のような角。

 薔薇をモチーフにしたお姫様が着るような黒いドレス。背丈と同じくらいの黒い大鎌。

 

 人気漫画「魔王ちゃんは働かない」の主人公、「マオちゃん」のコスプレ姿だ。


「ユニ君、いい仕事するね。大満足だよ」


【主様の記憶と持ち込みの資料から生成しましたが、不明な点は適宜こちらで補足いたしましたので、100%の再現とはなりませんでした】


「いやいや、完璧だよ。ユニ君、天才!」


【ご満足いただけたなら、恐悦至極でございます】  


 コスプレ衣装は、大量に持ち込んだボクが男の時に着ていた服を素材に生成してもらった。当分の間は着ることはないから、今回犠牲になってもらったのだ。角や容姿は『魔王の風采』による変装だ。髪色の変化と角を付けただけで顔自体は変わっていないので、黒マスクを装着している。


 これで、謎の探宮者の完成だ。


【主様、本当にそのお姿で探宮なさるおつもりですか?】


「え? そうだけど。問題ある?」


【多少の防具素材も含めて生成しましたが、その装備いしょうでは少々防御力が不足していると愚考いたします】


「大丈夫、大丈夫。命のやり取りをするような厳しい戦闘するつもりは無いから」


【? 主様の行動原理に理解が及びません】


 ユニ君は困惑しているようだけど、ボクとしては完璧なプランだ。


 すなわち、ボクが何がしたいかと言うと、この恰好で謎の探宮者として異界迷宮を徘徊し、その様子を配信しようと考えているのだ。


 えっ、それに何の意味があるのか、意味なくないって?


 それがあるのだ。ボクとしては二つの大きなメリットがあると考えている。


 一つ目は敵情視察だ。前にも書いたが、ボクには『迷宮復元ラビリンス・リセット』の恩恵が無い。死んだり大怪我したりしたら、それで終わりだ。なのでリスク管理が非常に重要となってくる。そのためには情報の収集が喫緊の課題だ。


 その解決策として事前に異界迷宮に潜り、無理のない範囲で情報収集を行うのが最善ではと考えている。実際、前もって現地に入っていれば、わずかな情報でも探宮部が活動する際に、安全マージン確保に多大な恩恵をもたらすだろう。

 

 二つ目はこの魔王というクラスの分析だ。実際、このクラスは謎の包まれている。クラスもそうだがスキルも謎過ぎる。なにしろ、今までに例のないクラスなのだから情報は皆無だ。

 そこで、単独そろで潜ることにより他のメンバーに気兼ねすることなく能力やスキルを検証することが可能となる。また副次的な意味合いではあるが、自分の身を守るためにも無理のない範囲でのレベルアップも目指したい。


 まあ、本音を言ってしまえば、この魔王というクラスの全力を試してみたいという気持ちがあるのも事実だ。

 何よりも、『魔王を僭称する謎の探宮者現る』……なんてワクワクしないか?

 ボクの厨二病的マインドがやってみたいとウズウズしてるのだ。


「じゃ、ちょっとばかし、異界迷宮お外にお出かけしてみようか」


 ボクは『VR-14S蘇芳オリジナル』を額に嵌めてみた。


 うん、ジャストフィット。さすがは高級ヴォイヤー、使用者に最適化する仕様だ。


「そういや、ユニ君。『魔王の憩所』の廊下の突き当りにある秘密の扉は、行ったことのある他の迷宮に繋がる仕組みって言ってたよね」


【はい、主様の仰る通りでございます】


「ちなみに、その秘密の扉やボクの部屋の押し入れにある『迷宮の扉エントランス』をこの部屋ワンルームに直接繋げることって可能?」


 もし、そうなら異界迷宮や自宅からこの部屋へ直接入れるようになるけど。


【造作もありません】


「じゃ、必要に応じて切り替えてくれる?」


【畏まりました。主様の意思を汲んで切り替えいたします】


「ありがと、ユニ君。それじゃ、早速」


 ボクは目的の場所を思い浮かべながら、部屋の扉を開けた。


~~~~~~

 あとがき

  第39話をお読みいただきありがとうございました。

  少し短めで申し訳ありません。

  本調子でない上、リアルが忙し過ぎて時間が取れませんでした。

  次回は頑張ります! 

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